過去に戻ってからどうするか。それ自体はあんまり考えていなかった。ただ何となく、5歳のわたしに未来を変えられなかった事を伝えて終わるだろうなとは、ぼんやり想像していたけれども。


「え…」


どうやら、過去に戻って来たのはわたしの精神だけらしいのだ。小さくなった身体を見て呆然とする。ナマエちゃん?どうしたの?と、不思議そうにする母親が若過ぎて、わたしは目を丸めたまま固まってしまった。


「な、んでも、ない…」

「そう。早く寝る準備しちゃいなさい?明日遠足なんだから」


遠足…と、カレンダーを見て確信する。ただのタイムスリップじゃない。これはタイムリープだ。何だかよく分からないけど、今正に人生二周目のチャンスを迎えている。今度こそ、今度こそわたしがしんちゃんの彼女になって幸せな未来を手に入れないと!そう思って、わたしは意気揚々と遠足へ出発するなり早速しんちゃんに猛アタックした。やっぱり人生2周目、それも中身は成人済みという事で明らかに1周目の時よりも積極的になれてる気がした。なるべくしんちゃんの隣に、隣に、を意識するけれど、昔からマイペースなしんちゃんはのらりくらりと躱わすからうーんと唸ってしまう。もっとガツンといかないとやっぱりダメなのかな…。といっても流石に人前では恥ずかしいから、出来るだけ2人きりを狙うけどやっぱりしんちゃんと2人きりになるのって難しい!そこは何度世界線を移動しても変わらないというか。何かと邪魔がはいるのは何なんだろう…。やっとの思いでしんちゃんと2人きりになる事に成功し、私は思いきってしんちゃんの手を取る。ビックリしたらしい。しんちゃんはクリクリの瞳を更に真ん丸くして、ナマエちゃんとわたしの名前を呼んだ。あああ、どうしよう、ドキドキする。そういえばしんちゃんに告白するのはこれが初だ。


「しんちゃん!わたししんちゃんがスキっ!大人になったらお嫁さんにして下さいっ…!」


もう後悔はしたくないし、前の反省点を挙げるとしたらやっぱりわたしの想いを伝える機会が少なすぎたのが敗因な気がした。だから少しでも自分の気持ちを吐露しておこうと思ったのだけれど、気が早すぎたらしい。えー、と、しんちゃんが露骨にげんなりとした顔でわたしの事を見詰めて来るからほんの少し尻込みする。


「ナマエちゃんどしたの、そんなあいちゃんみたいな事言って」

「ぅ…やっぱりダメ…?」

「ダメってゆーかぁ、オラお子様にはキョーミないし」

「わ、わたしが将来、綺麗で可愛いお姉さんになっても駄目っ?」

「えー?ナマエちゃんが?綺麗で可愛いお姉さんにぃ??」


こくこく。真っ赤になった顔で勢いよく頷いてみせるけど。しんちゃんは暫しの間「うーん、そうですなぁ」と眉間にシワを寄せながら唸って。わたしにクルリと背中を向けたかと思えば、ヒラヒラと悠長に手を振った。そしたらその時また考えるゾー、って。曖昧な答えだけを残して行ってしまうしんちゃんはズルい人。


「(…でも、)」


絶対、フラれると思ってた…。濁されたって事はチャンス、ある、よね…?なんて。


「…がんばろ」


小さな手をグーにして握りながら、わたしは2周目の人生に強く誓うのであった。



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