元の時代に戻って来ると、隕石落下のニュースがやっていた。お母さんの話によると、どうにかして回避に成功したらしい。つまりそれは、わたし達の未来が僅かに変わった事を示していて。ほう、と、子供ながらに安堵の息を吐いて安心していたのを覚えている。でもこの時のわたしは大きな勘違いをしていた。隕石が落ちて来たから、しんちゃんとタミコさんは出会って結ばれたんだと思い込んでいたけれど。全然そんな事は無い。結局内気なわたしにしんちゃんへの猛アプローチなんてたかが知れていて、幼なじみという関係から脱する事は出来なかった。寧ろ中学高校と年齢が上がっていく程、しんちゃんの隣にいる女の子を見届けなくちゃいけないからしんどかった。しんちゃんの隣に居る女の子は、毎回毎回雰囲気が違ったけれど。わたしじゃない事に変わりはなかった。

ちくちく、もやもや。

この感じには大変覚えがある。5歳のあの日、しんちゃんの隣にいるタミコさんを見ていたあの時。何も出来ずに、ただ2人のラブラブな様子を見ていただけのあの日に至極似ていて。その度に胸をチクチクと刺される思いだった。しんちゃん、しんちゃん、しんちゃんっ!しんちゃんが彼女と別れる度にチャンスを伺ったけれど、幼なじみの壁は思っている以上に分厚くて中々破壊出来ない。1人の女の子として見て貰えていない自覚が本当はあった。それでもわたしはピュアだから、しんちゃんしか好きになった事が無いから。彼の些細な一言でも期待して一喜一憂してしまうのだ。


「ナマエちゃんと居るとホント落ち着くぞー」


なんて、そう言ってくれるしんちゃんにもしかしたらなんて都合のいい事を思った。今思えばそれは家族的な意味合いが強く含まれていたのだと分かる。しんちゃんにその気は無いと、冷静に考えた今なら分かる。けれど当時のわたしは恋愛的な意味だと思い込み鵜呑みにした。大丈夫、わたしの努力は少しずつ報われてると、そう信じきっていたのだ。中々自分から行くことが出来ない引っ込み思案なわたし。しんちゃんから告白してくれるシンデレラストーリーに酷く憧れて、わたしはそれ以上頑張る事を止めてしまった。きっといつか振り向いてくれる。いつか、告白してくれる。これはきっとその代償なのだろう。そう気付いたのは、社会人になったしんちゃんが最近出来た彼女の話を聞かせてきた時。タミさんって言ってねー、と、しんちゃんの口から出てきた名前にピタリと思考が静止した。じわじわと込み上げてくる冷や汗が酷い。気持ち悪すぎて吐きそうだ。あの日の記憶が、今になって波のように押し寄せる。


「あなたは、後悔しない様にね」


嫌でも、未来の自分に言われた事が頭を過ぎって泣きそうになった。わたしはこの20年の間、何をしていた?この未来を変える為に頑張るって決めたのに。何にも変わってない。隕石が落ちて来なくても、この2人が結ばれるのは変わらない。わたしの頑張りが足りなかったから。もっと、もっとアプローチしてればっ、もっととっと意欲的になっていれば…!


「…?ナマエちゃん?」


みるみるウチに青ざめていくわたしを見て、しんちゃんが心配をかけてくれる。駄目だ、作り笑いを繕う事も出来ない。キョトンとするしんちゃんを置いて、わたしは逃げるみたく走り出した。過去に戻りたい。5歳のわたしに戻って、もう一度やり直したい。そうガムシャラになりながら、気付けばわたしはタイムマシンのボタンを押していた。新しいタイプのタイムマシンが出るからと。それはセール品で買った、少し旧型で安くなっていたタイムマシンだった。



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