もしかしたら付き合えるのは一瞬で、直ぐに「なんか違った」と振られるんじゃないかと。嫌な妄想ばかりして震えていたあの日が最早懐かしい。別れの危機に陥る事無く、2人の仲はいつまでも安泰でラブラブ過ぎるくらいだった。人生2周目の時には無かった大学生活。わたしは相変わらず幸せで、今でもちゃんとしんちゃんの隣に居る。しかも、正真正銘の彼女として。今世はとても順調だった。寧ろ順調過ぎて、時々不安になるくらいだ。頭を過ぎるのはやっぱりタミコさんの事。ある日突然現れて、攫われてしまうんじゃないか、なんて。


「(…タミコさんからしんちゃんを奪ったのは、わたしの方なのに)」


つい沈んだ気持ちでいる所にドカリ。突然のしかかりを受けて蛙が潰れた様な声を上げてしまう。苦笑いしながら見上げると、いつも通りマイペースにわたしへとしがみついて来るしんちゃん。正直重い。でもそれ以上に可愛いんだよなぁ。胸がきゅーんと甘く痺れて、結局許容してしまうわたしは本当にしんちゃんへとベタ惚れだ。


「ナマエちゃんあーん」

「今日もチョコビ?」


しんちゃんは相変わらず、わたしにチョコビをあーんされるのが好きだった。カバンには常時チョコビを入れてスタンバイしているわたしもとことんしんちゃんには激甘で、よくネネちゃんに呆れられている。しかし今日はチョコビの気分ではないらしい。うーうん、と、否定するしんちゃんが珍しくてついキョトンと呆けてしまった。


「今日はナマエちゃんのクッキーの気分」

「…!」

「持ってる?」

「持ってる!持ってるよ!はいっ」


大学生になってから暇過ぎて、わたしの趣味が再びお菓子作りになった。クッキーは本当手軽に作れるから、良くラッピングしてチョコビと同じ様に持ち歩いている。そんなしんちゃんが最近、チョコビよりもわたしのクッキーを選んでくれる事が増えたからシンプルに嬉しい。それをそのまま伝えると、しんちゃんは何ともないように「だってナマエちゃんのクッキーおいしいんだもん」と言ってのけるから悶えた。


「チョコビは自分でも買えるけどー、ナマエちゃんのクッキーはナマエちゃんからじゃないと貰えないし」


そう言ってくれるしんちゃんにニンマリ。嫌でも口角が上がってニヤついてしまう。お菓子だけじゃない。お泊まりの日とか、ご飯を作ってあげると毎回おいしいゾ!と言いながら食べてくれるしんちゃんが好き。尊い。あっという間にペロリとクッキーを平らげていくしんちゃんに、最後の1枚をあーんしてあげる。より一層大きく口を開けて、しんちゃんがあむっとわたしの指ごと食べるのでうひゃあ!と声を上げて飛び上がった。


「ちょ、しんちゃん、やめっ、!あは、擽ったい」

「ねー、ナマエちゃん」

「ん?」

「俺、まだ口寂しいな」


まるでハートがつきそうな程甘い声で囁くからドキリとさせられる。艶っぽい手つきでスルリ。私の手を絡めとって再び指を甘噛みしてくるしんちゃんに、つい下腹部がキュンとして甘く疼く。まるで導かれるみたく、しんちゃんへと擦り寄り静かに唇を寄せた。



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