「なんかアレだよな。方言って、いいよな」


この前テレビで見た、色んな県の女の子がそれぞれの方言で告白するっていうのを思い出して唐突に話題に出してみる。俺の隣で生ビールを口にしていたむさえが、パチクリと目を丸めながらジョッキをカウンターに置いた。


「急にどうしたのよ」

「いやいや、この前テレビでさ、可愛い女の子が方言で好きって言うの、めちゃくちゃ可愛くて。見た?」

「あー、見てない」

「マジかぁ。好いとーよ、とかすっげー好き」

「…ほんと、男って単純だよねぇ」


単純だって何だっていい。都会の端くれ生まれ端くれ育ちの俺には方言なんて無縁で、そういう女子に告白される憧れだってあるもので。「むさえは?」そう声をかけるとキョトンと面食らった顔をして固まる。俺といる時はバリバリの標準語だから忘れがちだけど、むさえも一応方言女子だからな。むさえはないの?方言で思い伝えた事。そう言えば考え込むようにむさえがうんと唸った。


「…方言で告白なんて、もう何年も前かもね」

「はーい!俺むさえの方言告白聞いてみたい!」


そう訴えると思い切り微妙な顔をされた。そのままビールを煽って無かった事にし出そうとするので軽く腕を揺すって甘えてみる。


「なぁなぁ頼むよむさえ〜」

「やめろ引っ付くな鬱陶しい!私にそのあざとい攻撃が効くと思うなよ!」

「ちぇっ」


他の女の子だったらもう少しキャッキャはしゃぎながら乗ってくれるんだけどな。むさえはそう一筋縄には行かない。けどノリが悪いという訳でもなく、むさえは思いついたように一つ笑って俺のグラスの氷をカランと鳴らした。


「あんたも私に告白してくれるなら言ってやらなくもない」

「え、俺標準語しか喋れないんですけど」

「いいよそれで。その代わり全力でやってよ?じゃないとフェアじゃないし」

「おう、いいだろう」


むさえの言うことにも一理あって素直に交換条件を飲んだ。何気にさっき俺が褒めた博多弁に闘争心を燃やしているらしい。「博多弁には負けないんだからね!ドキドキさせてやろうじゃないの」と意外にも意気込んでいるむさえに少しだけ身構える。


「…好いとるよ、もうずっと前から」


割と演技派らしい。むさえがビールのジョッキを両手で包み込みながら恥じらうように俺から視線を逸らして、指先でジョッキの表面をなぞりながら言の葉を散らしていく。声のトーンもいつもより静かで、どこか落ち着いた声色だった。「もう一度だけ言うけん、よう聞きなっせ?」不意打ちで俺の目を真っ直ぐに見つめながら言うのむさえの言葉が、すっと耳に入ってくる。


「私、あんたが好きったい」


少しだけ目を伏せながら。やんわりと口角を緩めて笑ったむさえの表情は間違いなく普段だった見られないもので。思わずふはっ、と声に出して笑ってしまうとむさえにジト目で睨まれる。


「ちょっと、そこ笑うトコじゃないんですけど」

「悪い、だってさ…なんか、変な感じだなって思ってさ」

「…ほう?」

「むさえに言われると擽ったい」

「どういう意味よ!」


そもそもむさえ自体が恋する乙女とか、はにかみ顔で告白っていうキャラじゃないからかな。熊本弁は可愛かったけど、なんか想像と違った。そう素直に告げると案の定お怒りモードのむさえちゃん。一応それなりに羞恥心はあったらしい、顔を真っ赤にしながらサイテー!バカ!と暴言を吐き出すのでよしよし頭を撫でて宥める。まぁ確かにな、ウソ告の演技とはいえ面と向かって好きって結構照れるもんな。それを笑ったのは悪かった、反省。


「もういい、次はあんたの返事ば聞かせて」


あ、拗ねながらの暴言はちょっといいかも。今のはキュンときた。むさえっぽい。これまた思った事をそのまま声に出すと赤い顔のまま軽く睨まれた。「やっぱりむさえは作った表情よりも自然体の方がいいよ」そう言うと益々眉間に皺を寄せて困ったような照れたような顔をするのでそこをグリグリと指で押してやる。


「俺はどんなむさえも好きだけどさぁ。ありのままのお前が好きだよ」

「…」

「この前のお嬢様みたいな出で立ちでエセお嬢みたいな口調で話すむさえよりも、ラフな格好で俺の隣でビール煽るむさえの方が安心する」

「ちょっと待った!何でそれ知っとーと!?」

「知らん男と一緒だったからつい、つけちゃった。ごめんな」

「〜っ、恥ずかしかぁ」


ほらそれだよ。その自然な方言が可愛いってやつで、素で顔を赤らめるからついじっと見つめてしまう。で、そのお見合いは上手くいったの?って、聞くのは流石に無神経な気がして。


「好きだ、俺もお前が好き」


負けないように俺も自分の思いを伝えた。完全に照れた顔で固まるむさえ。やっぱりむさえは素の表情が一番可愛いと思った。



20190128


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