どうせコンビニ。その詰めの甘さが命取りになったと気付いた時にはもう遅かった。

髪はボサボサ適当にくくっただけ、服なんて上下繋がってて胸元にでっかくもけちゅーのキャラプリントの入った部屋着のワンピースだし。さすがに上着羽織ってチャック閉めてるけど、それでもペタペタサンダルで出てきた今の自分の姿が至極ダっサいのにもちゃんと自覚があった。でもウチの近くのコンビニに行くくらいと思うじゃない。ズボラな格好で出てくるじゃない?…で、店内をウロウロしていたらふと見覚えのある人物を見つけてしまってげっ!となった訳だ。知名度が中々高い野原くん、まさかこんな所で出くわすとは…


普段はそれなりにお洒落にしてるだけあってこの状況は辛い。いやぁビックリですなぁ、お洒落番長もプライベートでは干物女なんだ。とか言われてしまうかもしれない。挙げ句の果て彼にかかればいい噂でも悪い噂でも一発で知れ渡るからな。野原くんはそれ程の影響力を持っている。まだ何も買ってないけど、私は速やかにコンビニを出る事を決めた。元々上がってたファスナーをぎゅっと首の一番上まで上げてさり気なく出口までUターンする。


「おっ!そうだ今週のグラビア」


そしたら野原くんってば急に出口近くにある雑誌コーナーに歩き出すから心臓が飛び跳ねる。ビビってきょどりながら私も背を向けて棚の影に身を潜めたよね。近くで文具を見てたおばさんに不審な目で見られているのをひしひしと感じるけどそれを気にしている場合じゃない。グラビア雑誌を清々しいくらいの助平顔で選ぶ野原くんにどのタイミングで外に出るかを考える。せめて立読みしてくれればなぁ…。


「…やっぱり先にチョコビを〜」

「…!」

「いやいやグラビア選びに専念するべきか」

「っ〜!」


野原くんが、野原くんが雑誌とお菓子のコーナーを行ったり来たりするから。それに合わせて私もバタバタ裏側で行ったり来たり。若干弾んできた息で一旦飲み物コーナーへと隠れると、店員さんにまで不審な目で見られている事に気付いてなんとなく気まずくなった。ち、違うんです、確かに動きは怪しいけど万引きとかじゃなくて!とか心中で弁解してる場合でもない。このままじゃ埒が明かないし…


「…よし」


強行突破しよ。次鉢合わせても他人のふりで乗り切る。ワンチャンばれないかもしれない。とかいうほぼゼロに近い可能性にかけながら、私は淡い期待を持ちつつ涼しい顔を貼り付けて出口へと赴いた。内心では心臓バクバクで冷や汗ヤバかったけど。両手をポッケに突っ込みながら何気なく足を進めていく。


「ん〜、迷うぞー」

「…」


出口まであと3、2、1……。静かに心拍数を上げながらすっと彼の横を通り過ぎコンビニのドアを潜り抜けた。その瞬間湧き上がる歓喜に内心でぐっとガッツポーズをする。やっ、やった!勝った…!この辛く厳しい戦いに、私は…!勝ったのよーっ!意外と大丈夫なもんね!とかちょっとした優越感と安心感でホクホクした気持ちで、手をポケットに入れたままニヤニヤとコンビニを後にしようとした瞬間彼はやって来た。


「よっ!結局何も買わずに帰っちゃうの?」

「…!!??」


突然腕に絡み付いてきた衝撃にびっくぅ!として思い切り飛び跳ねる。ビックリしすぎて心臓止まるかと思った…。バクバクする左胸に手を当てながら視線を向ければ、悪戯に笑いながら私と腕を組んで歩く野原くん。ぎゅっと抱き着いてくるのが少しだけ、ほんとちょびっとだけ可愛い、とか思ってしまった…


「の、のはら、くん…気付いてたの?」

「モチのロンだゾ。怪し過ぎて店員さん同士でヒソヒソ言ってたし」


じゃあもっと早く来てくれよ!無駄に店員さんに怪しまれてしまったじゃない…!と涙ぐむ私の顔が見たくて、野原くんはわざとあの場で気付かないフリをしたんだろうなと察した。く、野原くんは中々意地悪だ。


「…そんな事より」

「うん?」

「プライベートは中々個性的なんだね」


そう言われてはっとする。そして青ざめた。そうだよ、元々野原くんに見つかりたくない理由はそれだったじゃん!ぎこちなく顔を動かしてもう一度野原くんを見やる。目が合うなりにんまりと楽しそうに笑って。


「意外だなぁオシャレ番長」


想像していた台詞のニュアンスは違うものの、予想していた通りの展開にくらりと目眩がした。「…み、」皆には、黙っててくれない?歯切れ悪くそう持ち掛けてみると案の定でどうしよっかな〜と返ってくる。


「ほらぁ、こういう時はどうするべきか、大体分かるでしょ?」


口止め料。熱っぽく耳元で囁かれたのに思わず真っ赤になって目を見開いた。でも野原くんはカツアゲとかするタイプじゃないし、多分お金って意味じゃない。


「(…という事は)」


漫画とかでよく見るやつ。顎をくいってされて、黙ってて欲しかったら大人しく言うこと聞いてねって言われながら唇を奪われて身体の関係も促されるやつでは!?それも一回や二回じゃ終わらなくて野原くんにされるがまま…!きゃ〜っ!たたた大変っ!勝手にヒートアップしていく妄想に心臓がドキドキ騒ぎ出す。じっとりと汗が滲むのを感じながらゴクリと唾を飲んだら、野原くんが吹き出すように笑い出したので咄嗟に彼を見やる。


「ごめん、冗談。俺年上にしか興味ないし」


その瞬間顔から火が出るくらいの羞恥心に襲われて、面と向かって野原くんの顔を見れなくなった。真っ赤になりながら勢いよく俯く。あっ、遊ばれたーっ!恥ずかし過ぎる…!「俺の買いそびれたチョコビとグラビア雑誌で手を打とう」そう言いながらチョコビと雑誌を手渡してきた野原くんはやっぱり意地が悪いと心底思った。いや意地悪だなんて物じゃないドSだよドS。グラビア雑誌も大分際どい奴選んできたな!?ほぼエロ本では?ってレベルだよ!そしてそれを持ってレジで清算するのは私だ…。赤くなりながら会計を済ませる私の後ろ姿を、野原くんはきっと楽しそうに見つめるのだろうと想像してため息を零した。



20190111


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