率直に言う。最近、妓夫太郎さんがわたしの血を飲んでくれない…。初めの頃はあんなに求められて情熱的に血を吸われていたのに。これってもしかして倦怠期だろうか…。嫌だ、めちゃくちゃ不安なんですが!?だけどそんなの知る由もない妓夫太郎さんは、今日も外で他の人間を食べて来たらしい。帰って来てもわたしの血を飲もうとはせず、まるで猫とでも戯れついているかの様にわたしの頭を撫でているのでモヤモヤする。
「…妓夫太郎さん?」
「どうした」
「……」
もうわたしに、飽きちゃいましたか?なんて、怖くて聞けない。そうだと言われたらどうしよう、心折れちゃう。言葉に詰まった末、浮気ですか?と今にも泣きそうな顔で問うと瞬時に妓夫太郎さんの表情が歪められた。あ〜ん?と不満そうな顔で凄んでくるから怖い。
「あわわ、だってだって、最近全然わたしの血飲んでくれないし、外で他の人ばっかり食べて帰るし…」
わ、わたしでは、不満ですか、と。飽きましたか、と、消え入りそうな声で何とか訊ねた。わたしの不安を感じ取ったのか、妓夫太郎さんかバツの悪そうな顔で頬を掻きながら、「飽きる訳がねぇんだよなぁ」と返すのでほぅとする。
「ならどうして、」
「どうしてって、毎度毎度血を抜かれてたらお前だってしんどいだろ」
「…まぁ、確かに、そうですけど」
「それになぁ、俺ぁ別に食糧としてだけでテメェを見てる訳じゃねぇよ」
「え…」
妓夫太郎さんの瞳に見つめられてドキ、とする。大変だ。わたし今、ときめいてる。凄く凄く、ときめいてる。頬がじわじわと熱くなってきて、薄らと汗をかく。
「でっ、でも、全く吸われなくなるのも嫌です!」
「はぁ?」
確かにわたしでは血を啜る事しか出来ないし、妓夫太郎さんだって肉を食べたくなる事もあるだろう。それはしょうがないって分かるけど、けど…!
「だってそんなの、そんなの…妬けちゃうじゃないですかぁ!」
泣きべそ混じりにそう訴えるわたしに、妓夫太郎さんはポカーンと呆気に取られた顔をする。何言ってんだお前、と。直接は言われてないけど絶対思ってる、わたしには分かる。
「わたしだって妓夫太郎さんに食べられたいのに」
むぅと頬を膨らませて拗ねると、妓夫太郎さんがお腹を抱えながらケタケタと笑い出す。ひぃひぃと苦しそうにしながらそうかそうかとさぞ愉快そうにわたしの頭を撫でた。
「お前は本当に可愛いなぁ」
「ぐすん、だって、大好きなんですもん…」
「そんなに俺に食われてぇのか」
返事をする代わりにコクリ、小さく頷いてみせると、妓夫太郎さんは笑みを濃くしてそうかとわたしを抱き上げた。「わっ、!」驚いて妓夫太郎さんにしがみ付く。布団の上まで運ばれるなり、ゆっくりと丁寧に降ろされてまじまじと妓夫太郎さんの顔を見上げた。片目を閉じてにんまりと笑ったその表情がカッコ良過ぎて、呼吸困難になるかと思った。おもむろに夜着の合わせ目をはだけさせると、妓夫太郎さんはそのまま布団の上へとわたしを押し倒す。自然と上目遣いで見上げれば、妓夫太郎さんがわたしの頬をゆっくりと撫ぜながらちゅ、と甘く唇を落とした。
「ん…、」
ちゅ、ちゅうと、何度も何度も唇を重ねて。その度に柔らかく深くなっていくキスに、心も身体も蕩けてしまいそうになる。最近の妓夫太郎さんは何だか優しかった。わたしの血を吸う時は必ずキスから始めて、そのまま首、肩口へと唇が降りて来た所でカプ、と優しく肌を噛むのがお約束なのだ。けれど今日は中々歯を立てようとはしないので不思議に思う。妓夫太郎さん、やっぱりお腹空いてないのかな。はむ、はむ。って、ただ唇で優しく食むだけ。でも時々思い出したかの様に尖った歯をぐ、と押し当てて来るので、その度にわたしは身構えてピクリと跳ねてしまう。そうして一通りわたしの反応を見て楽しむと、妓夫太郎さんは満足そうにしながらくつくつと喉の奥で笑ってわたしの鎖骨へと指を滑らせた。
「もう、酷いです」
「どうした?」
「わたしで遊んでるでしょう、妓夫太郎さん」
「さぁ、何の事だかわからねぇなぁ」
言いながら、妓夫太郎さんはわたしの胸元に顔を埋めると、そのまま舌を這わせてレロリと舐めた。「ひゃ、!」ビックリしてつい抵抗してしまうと、すかさず腕を掴まれて布団の上に縫い付けられる。
「あ、あの、妓夫太郎さん…?」
「んー?」
とぼけた様子で、空いてる方の手でゆっくりとわたしの胸に手を伸ばす妓夫太郎さん。ドキ、と心臓が跳ねたのと、そのまま着物をはだけさせられてやんわり胸を揉まれたのはほぼ同時の事で。一気に顔が赤くなって言葉に詰まる。
「ちょ、ちょっと!待って下さい!!」
「無理だ、待てねぇ」
「ひいい!それ以上はダメです!止めてくださいっ!」
「…可笑しな事を言うよなぁ。俺に食べられてぇって言ったのは、紛れもなくナマエじゃなかったかぁ?なあぁ」
はっとして顔を上げる。妓夫太郎さんが至極意地の悪い笑顔でわたしの事を見下ろしていて、益々自身の顔が赤くなるのが分かった。
「え!あっ!?食べるってそういう意味じゃなくてですね!!」
慌てて弁解を入れている途中で、ピンと胸の頂点を指で弾かれて大きく反応してしまう。思わず艶っぽい声を出してしまったのが恥ずかしくて、勢いよく手の甲を唇へと押し当てた。ニヤニヤ。下衆っぽい笑みを浮かべるその表情さえカッコいいのだから参ってしまう。そのまま唾液をたっぷりと含んだ舌でじっくりと嬲られて、ビクビク震えながら涙目で妓夫太郎さんを一瞥する。わたしの視線に気が付いて目が合うなり、妓夫太郎さんは口角を釣り上げながらニタリと笑って。わたしの太ももへと手を伸ばしながらねっとりとした手付きで内腿を撫でた。
「なぁ、止めちまうぞ?良いのか?なぁ」
その艶かしい声色ですら興奮材料にしかならない。身体が、妓夫太郎さんの言動全てに反応してトロトロと溶け出している。妓夫太郎さんを求めて、どんどん溢れ出してくる。悩ましげにため息をついて伏し目がちに視線を落とした。
「ぅ、意地悪」
「あぁ?何だぁ?聞こえねぇなぁ」
「っ、…やめちゃやだぁ」
真っ赤になった顔でそう訴えると、妓夫太郎さんはより一層楽しそうに笑ってわたしの腿の間へと手を滑らせた。「言えたじゃねぇか。ナマエは良い子だなぁ。俺に従順で、欲に素直で、かわいいなぁ」すりすり、指先が敏感な所に触れてギュッと目を瞑る。わたしの手首を捕まえていたはずの手は、いつの間にかするりと上がってきて指一本一本に絡みついていた。
「ちゃんと言えた良い子には、褒美をやらねぇとなぁ」
耳元で囁かれた低音ボイスに刺激されてザワリと背筋が栗立つ。この後妓夫太郎さんにされる事を想像して、わたしは悶絶しながら縋り付くように彼の手を握り返した。