最近は、厨房を借りてお菓子作りをするのにハマっている。ここには色んなレシピがあるし、(と言ってもわたしは文字が読めないから毎回言い訳してディストさんに読んで貰ってるんだけど)豊富な材料もあるし、ディストさんが味見して素直な感想を教えてくれるしで本当に楽しい。趣味になりつつある。そして今日も、最近気に入っているティーに合うタルトを作ったのでディストさんを呼んで一緒にお茶をしていた。いや、こういうイベントが恋愛フラグに繋がるんだとは分かってるんだけど、なにせわたしにはディストさん以外の知り合いがいない…。


「今日はですね、ホワイトチョコとレモンのタルトにしてみたんです。可愛いレモンティーを見つけたので、どうしてもそれに合うお菓子が食べたくて」


なんとこのレモン、ハートの形をしているんですよ!紅茶に浮かべて飲むんです、と少し興奮気味に訴えれば、ディストさんは少し渋い顔をしながら貴女も女の子ですねぇと言った。確かに…ディストさんには少々女性らし過ぎたかもしれない。


「う、すみません…ディストさんには可愛過ぎましたかね」

「いえいえ、良いんですよ」


穏やかな笑みを浮かべながら、ディストさんがティーカップを持ち上げて優雅に紅茶を嗜み始める。そしていざ、フォークを持ちタルトを食そうとした時だった。


「ディスト」


聞こえてきた声にドキリと心臓が反応して肩が跳ねる。「ヴァンが呼んでるよ」そう続けられた言葉にぐぬぬと言葉を呑んで、シンクとタルトを交互に見やるディストさん。ヴァン総長の召集とあれば、行かない訳にはいかないだろう。少し迷った素振りを見せた後、ディストさんはすみませんなまえ!と勢いよく謝るなり身支度の用意を始めた。


「いえ!お気になさらず」


六神将ですもん。お忙しいでしょうし、と続ければ心底残念そうな顔をする。可愛いな、そんなにタルトが食べたかったのか。わたわたと慌ただしく行ってしまったディストさんの背中を、わたしは見えなくなるまでじっと見つめていた。じゃないと、この視線をどこにやれば良いのか分からなかったからだ。出来るならシンクを見つめていたい所だけど、この間見過ぎてしまった為ちょっと今回は気が引ける。今度こそヤバい奴だと思われる。どぎまぎ。変に手のひらに汗が滲んで挙動不審に固まっていると、不意にシンクが近付いてきたのでまた心臓が短く跳ねた。


「…アンタが作ったの?」


これ、と、彼が顎で差すのはわたしの作ったレモンタルトで。ギクシャクしながら「そうです」と頷くと、シンクはふぅんといつもみたく相槌を打った。興味無さそうだなぁ、と苦笑いを浮かべたのだけれど、どうやらそれはわたしの思い込みに過ぎなかったらしい。突然、指先を噛んで口で手袋を外し始めたシンク。え、何その色気たっぷりなサービスショット。ビックリし過ぎてついシンクの動きに釘付けになっていると、そのまま彼の素手がディストさんのタルトに伸びて行くので流石に目を瞠った。

タルトを持ち上げるなりガブリ。豪快にも大きな一口でタルトに齧り付いたシンクに心臓がバクバクと高鳴って苦しい。シンクが、わたしの作ったお菓子を食べている…。呆気に取られている間にも、シンクはどんどんタルトを食べ進めて。ペロリと平らげると、最後に指を舐めてへぇと短くボヤいた。


「アンタって、使用人としてはポンコツだけど」


お菓子作りは良いセンスしてるんじゃない?なんて、口元に笑みを残して言うから堪らない。そんな事言われたら死んでしまうのですが。極め付けに、わたしのティーカップを持ち上げてレモンティーまで口にしていったシンクさま。今度こそ心臓を撃ち抜かれて死ぬかと思った。




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