気まぐれで助けて手を貸してくれたディストと、そこからトントン拍子で仲良くなるというまさかの自体にわたしが一番驚いている。相性が良いというか、お互いの気が合うのか。ディストさんにも「まさか使用人の貴女とこうも仲良くなれるとは思いませんでしたよ」と笑われて。そんな彼に、「そうですよね〜!わたしもビックリです!」なんて返して今度は2人で笑い合う。わたし、ゲームの中のキャラとお話ししてる。一緒にご飯を食べてお茶をして、同じ時間を過ごしてると思うと何だか不思議だった。ディストさん、変わってるけど普通に面白い人だよなぁ。一緒に居て楽しいし。そんなに気を遣わずにも済むし。何というか自然体でいられる気がする、とまで考えてハッとする。


「(もしかしてこれディスト夢!?)」


タラリ、汗を滲ませて固まってしまったわたしに、ディストさんが「どうしたのです?」と尋ねた。いやいや、まさか、そんな。あはははは!とから笑いを浮かべて、元気よく何でもないです!と返す。誤魔化す様に口にした紅茶が、ヤケに渋い気がした。

でも年齢的に言えばそうだよなぁ。ここ敵陣だし。わたしと恋愛フラグ立ちそうなキャラなんてディストさんくらいしか…とまで想像してブンブン頭を振る。いや、仲良くなった所でわたしはモブ、ディストさんは六神将ですし。すぐ夢女子脳になるのいくない…。


とは思いつつ、わたしとディストさんが一緒に居る時間は自然と増えて恋愛イベントと思わしき事態も増えていくので少しだけ複雑になる。どうしよう、着々とディストさんと良い雰囲気になりつつある…。ディストさん面白いし良い人だけど、ときめくとは違う感情なんだよなぁ。う〜ん!!と頭を悩ませながら、今日も今日とて窓拭きに専念していると、背後から「ねぇ、そこの使用人」と声を掛けられて大袈裟な程に飛び上がった。この声には、聞き覚えがある。かつて何度も繰り返して聴いた、大好きな人の声。じっとり汗を滲ませながら振り向く。


「これ、資料室に運んでおいてくれない」


しっ、しっ、シンクだ〜っ!うわ、うわぁ!話かけられちゃった!うわ〜っ!なんて、語彙力が崩壊していてヤバい。生シンクにドキドキして放心していると、少し苛立った様な声でねぇ聞いてるのと言われてしまい慌てる。よく見ると、シンクは大量の資料集を抱えておりわたしは即座に頷いた。


「わ、わかりまし、たっ、!」


シンクから資料を受け取ろうとした所で、僅かに手が触れて(といっても手袋越しだけど)、驚きの余り思わず手を引っ込めてしまった。バラバラと資料が床へと広がって行ったのに顔面蒼白。案の定、シンクが露骨に溜息を溢しながら「何してるのさ」とボヤいた。


「わああ!ごめんなさいっ!」

「良いから、早く拾って」

「はいい!喜んでっ!」


社畜の時のクセが抜けなくて、つい意気揚々と返事をしてしまった。わたわたと資料集めに徹底していると、不意にシンクが小さく笑って無意識のうちに彼を見上げる。


「ふっ、何それ」


あ…、と、一瞬垣間見えた笑みに目を奪われてドキリとする。わ、わらっ、た…。くぁっこい〜っ!うわあああっ!まるで頭にお花が咲いて、ピヨピヨと小鳥ちゃんが囀っている様な感覚。つい見惚れてボーっとしてしまうとまた叱られてしまい、わたしは急いで散らばった資料を拾い集めた。忙しなく跳ね回る心臓の音が、彼はわたしの想い人なのだと必死に訴えていて。どうしようもなく胸の内側が締め付けられて苦しくなった。あぁ、わたしやっぱり、今でもシンクが好きなんだ。




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