10代だった頃、毎日の様に漫画やアニメの世界にトリップする自分の姿を妄想しては悶えていた。それで好きなキャラと良い雰囲気になったりして!でへへへへ、本当にトリップ出来ないかなぁ、なんて、そんな夢にまで見た妄想が、まさか10年越しに叶うとは思ってもいなかった訳で。

この歳になって、昔大好きだったゲームの世界にトリップした。しかもそこには、わたしが大好きだったキャラクターのシンクがいた。こっ、こんな事があって良いの〜??と最初はひっそり大興奮していたけど、直ぐにこれは妄想の世界とは違う事に気付かされる。トリップしたは良いものの、接点はまるで無しっていう…。まぁ、そうだよね、わたしなんてモブに過ぎませんし。シンクって主要キャラだし普通に地位の高い人だし。使用人として置いて貰ってるわたしと関わる事なんて、ほぼほぼ無いに等しい。


強いて挙げるとするならば、この間廊下の窓を拭いていた時にすれ違った事くらいだろうか。はぁ、かつての推しを生で、しかもこの近距離で見る事が出来るという幸せ。高望みはしない事にした。シンクの姿を見れるだけで十分だと、自分に言い聞かせる事にしたのだ。せめてわたしがあと10歳若かったらワンチャンあったかもしれない、とおこがましい事を想像して苦笑う。なんてね。シンクと歳が近かった所で、わたしが目立たないモブという事実は変わらないだろう。


「はーあ」


大きな溜息を溢して、わたしは今日も雑務の為にあちこちを走り回る。すると廊下のど真ん中でバケツをひっくり返してぶち撒けるっていうドジっ子イベントを起こしてしまい一瞬思考が停止した。…のんっ!会社で、何してるんだ役立たずと罵られたのを思い出して二重でヘコむ。ごめんなさい、ごめんなさい。人通りがあまり無かった事が幸いだろうか。申し訳ない思いでモップ掛けをしていると、大丈夫ですかと声を掛けられて顔を上げた。見覚えのある顔。奇抜なファッションにチャームポイントのメガネ。まさかの六神将に話しかけられ、わたしはまたもや思考が吹き飛んだ。




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