904しんちゃん | ナノ
スキの魔法にかかりました

「すきです、付き合って下さい…!」


下駄箱にハートのシールで封がされた手紙が入っていた時から怪しいなとは思っていたけれど、書いてあった通り昼休みの校舎裏に来たら名前も知らない隣のクラスの男子が立っていて単刀直入に言われたその言葉に不信感が募る。あれで隠れているつもりなのか、校舎の壁に隠れているお友達らしき人が三人程、ニヤニヤしながらこちらを見ていて確信した。あ、はいはい罰ゲームね、凄く手が込んでるようだけど君たち知ってる?そういうのって凄く達悪い。中にはドキドキしながら待つ女の子だっているだろうに。因みに私はそんな事ない、ラブレターの時点で疑いはしていたけれど、期待なんてこれっぽっちも…して、な、い。

項垂れる私の前で彼があの、と答えを催促する。恐らく彼等は私に振られたこの男子を盛大に笑うつもりなのだろう、だからわざわざ隣のクラスであんまり知らない私の事をターゲットに選んだんだ。うわサイテー。ええい、女子のハートを弄ぶ仕返しをしてやる。元々その類の罰ゲームが嫌いでわざといいよと言ってみた。満面の笑顔で。けど目の前の彼はぱあああっと嬉しそうな顔をして目を輝かせるから。うん、何で?


「ほんとう、に?」

「え?うん、?」

「ボーちゃあああん!」

「やったね!おめでとう!」


飛び出して目の前の彼にタックルをかましてきたのは、同じく彼のクラスメイトで顔は見た事があるけど名前までは知らない男子達。うん、あれ?予想外すぎる展開に困惑しているとそのお友達に手を取られて「いやあ、ボーちゃん表情は乏しいし口数少ないけど、すっごい気の利くいい子だから!ヨロシクしてあげてね!」とぶんぶん上下に振られて唖然とした。うえ、そんな、まさか、


「(本物…?)」


顔から血の気が引いていく気がした。でも今更「ごめんなさいやっぱ今の無しで」とはとてもじゃないけど言える雰囲気ではなくて、「じゃあ折角だからこのままお昼一緒に食べなよと」促されるまま私は彼と二人中庭へと追いやられてしまった。き、気まずいっ。あれ、ていうかもしかしなくても私たちこれ、本当に付き合っちゃうパターン?なの?


「ミョウジさん」

「はいっ」

「早く食べないと時間、5限目始まっちゃう」

「あっ、うん!そうだね!」


びっくりした。ていうか今、苗字、


「あの、」

「うん?」

「パン一つで足りる、の?」

「うん。足りる」

「そっか、小食なんだねぇ」

「ミョウジさんこそ、お弁当、小さい」

「えー?普通だよ」


意外な事に、会話がぽんぽん弾んでいる。さっきのお友達が言っていた通り表情はあまり豊かではないけれど、私的には話しやすいなと感じたし彼の取り巻く雰囲気は中々心地が良かった。落ち着くというか、ほのぼのする。


「いつも購買で買ってるの?」

「朝が忙しい時は購買、かな。割りと余裕がある日は、お弁当作るけど」

「え、お弁当自分で作るの?偉い」


照れたように頬を薄っすらと染めて、もぐもぐと長めに咀嚼する姿がなんだか可愛らしかった。

その日は連絡先を交換して一緒に帰った。暫く沈黙が続いたりもしたけれど、別に気まずいって感じはあまりしなくて、やはりどこか心地のいい無言。一緒にお喋りしたりお昼を食べたり、付き合っているのかと聞かれれば正直微妙な関係が二週間ほど続いた頃、私の中にも罪悪感というものが芽生え始める。彼、ボーちゃんは、どうやら本気で私の事を好いているらしいのだ。でも私たちの接点なんて合同授業で教室が一緒になるくらいで全然話したことも無かったし、私に至っては彼の名前すら知らなかったのに。どこに好きになる要素があったのかと考えてしまう。ロマンチックに一目惚れ、とか?そんなまさか、私そんなに美少女じゃない。


「ミョウジさん、」


腕を掴まれて引き寄せられる。びっくりして目を見開いて、何かと思った直後車が私の横を通ったのに納得。


「あ、ありがとう」

「ううん、交代しよっか、場所」


ボーちゃんは、優しい。恐らく本気で私の事が好き。なのに私だけそんな気もないのに中途半端に付き合うのはボーちゃんに失礼だし。彼をもてあそんでるのと変わりはないのでは?と思うと胸が痛む。やっぱりちゃんと言うべき、だよね。


「あの、」


思い切って声を上げた時、不意に手を握られて大きく肩が跳ね上がった。う、え?勿論一応付き合ってる事になってるのだから手くらい繋ぐかもしれないが。急なことに動揺を隠せないでいるとぎゅうと握り締められぴゃあああとなる。


「(どどどどうしよう!思いの外照れる…!)」


ドキドキしながら彼の顔を見た、ら、隣にいるはずの恋人は何故だか野原くんになっていて思わず二度見した。うん?よく見ると、ボーちゃんの手も野原くんに繋がっている。


「もう二人とも手もまだ繋いでないのー?これじゃあ先が思いやられるゾ」


言いながら、野原くんは私の手とボーちゃんの手を同時に引き寄せて重ね合わせた。ボーちゃんも咄嗟の事に慌てているらしく、どうしたらいいのか分からないような顔をしている。そんな私たちを他所に野原くんとても満足気で、うんうんと満面の笑みを残しながら去って行った。一体なんだったんだ。


「…嫌じゃない、ですか?」

「え?」

「このままで、いるの」


繋がれたままの手を軽く持ち上げられて、改めてまじまじと見たらなんだか恥ずかしくなった。断らなきゃ、しっかり言わないと。心の中ではそう思っていたのに、「嫌じゃない、です」と返事をしてしまった私は何を考えてるんだろうと自分でも分からなくなる。相変わらず心地のいい沈黙。そんな中ぽつり、ボーちゃんが発した言葉に耳を疑った。


「好きだったんだ、もうずっと、去年の春から」

「去年の、春?」

「うん。チャボと兔のお世話、してたよね、ミョウジさん」

「えっ、何で知ってるの…?」

「毎週欠かさず、飼育小屋の掃除するミョウジさんが好きだったから」


すんなりと出てきた「好き」という言葉に照れて顔を赤くすると、ボーちゃんがふんわりと笑んだ。


「ウサ吉ぃー、小屋汚すぎー、あ!チャボスケ走り回らないの、って言いながら掃除して、餌交換して、柔らかく微笑みながら兔の頭を撫でてあげるミョウジさん見てたら僕まで温かい気持ちになれて。気付いたら毎回目で追ってた」


びっくりした。彼の言う通り、私は去年の春から兔とチャボの世話をしている。大した部活には入っていなかったし、飼育係が足りていないって先生に聞いて、なんとなく始めた事だった。でもウサ吉やチャボスケは思いの外可愛くて、嫌になるどころか楽しく感じていた程だ。たまに小屋が糞まみれ餌まみれ掃除が大変でイライラする事もあったけれど。今の所続けてお世話をしていくつもりである。


「僕、よく掃除当番のゴミ捨てで丁度飼育小屋の道通るから。よく見かけたんだ、ミョウジさんのこと」


飼育小屋は校舎の外れという中々分かりづらい位置にある為、え、うちの学校に小屋なんてあるの?という生徒も少なくはない。彼の言う通りゴミ捨てを頻繁に行く人なら知ってるだろうが、自主的にゴミ捨て行く人なんてそうそういない。だからまさか、見ている人がいたなんて、思わなかった。じゃあもしかしてウサ吉チャボスケに言っていた暴言も丸聞こえだったのだろうか。チャボスケ、あなたはどうして雄なの、早く卵産んで私に恩返ししなさいよとかいうのも聞かれてたのかなと思うと顔から火が出る思いだった。恥ずかしい。


「あの、その、そんな私の一体どこを好きになるなんて…?」


もう日本語可笑しくなってきたけど気にしてる余裕も無かった。ボーちゃんがきょとんとしてから、考える素振りも見せずに口元に笑みを残して続きを話す。


「合同授業の時、あ、飼育小屋の子だ、って思って」

「(飼育小屋の子…)」

「小屋の掃除する時はあんなに元気でウサ吉達に話しかけてるのに、教室だと凄く静
かで大人しいんだなっていうのが意外で」

「う、ん」

「そこがまた好きだった。ギャップ?みたいな」


好きだなんて言葉初めて言われたからだろうか。胸の奥が疼いて、擽ったくて、堪らなくなる。依然と繋がったままの手が汗ばんできた気がして少しだけ焦った。


「そっか…ボーちゃん、私の事よく見てたんだね。全然気付かなかった」


ぽつり、零した言葉にボーちゃんが大きく反応して頬を染める。どうしたのか聞こうとした前に、そういえば今初めて彼の名前を呼んだなと気付いて私まで気恥ずかしくなってしまって。けどボーちゃんがあまりにも嬉しそうに目を爛々とさせるから。可愛い人。とか思ってしまう。


「うん、そうだね。僕だけがミョウジさんを見てるって、気付いてた。ミョウジさんは僕のこと、名前どころか顔も存在も知らないんだろうなって思ってて。告白したのも当たって砕けろって感じだったから」


聞いていてぎくりとした。当たってるううう。もしかしてボーちゃんは全てお見通しなんじゃないだろうかとか思った直後、「だからまさかいいよなんて言ってもらえると思えなくてびっくりした」と、彼が照れたように笑って胸が痛んだ。


「あのね、」


耐え切れなくなって足を止める。真っ直ぐボーちゃんの顔を見上げると、真剣な瞳で見つめ返されドキドキした。


「ボーちゃんの言う通り。本当は私、ボーちゃんのこと、名前も知らなかった」

「うん」

「だから告白された時、きっと罰ゲームなんだろうなって思って、わざと頷いたの」

「うん、知ってた」


やっぱり、彼には全部お見通しだったようだ。ミョウジさんにその気がないって分かってた、でもずっと僕に合わせてくれてたね、本当にありがとう。嬉しかった。そっと、繋がっていた手が解かれてあっと思う間もなく二人の間に距離が出来る。名残惜しく感じてしまうこの気持ちに気付けない程、私も鈍感では無い。


「たった二週間だったけど、ミョウジさんと付き合えて、僕は幸せだったよ」

「ボー、ちゃん」

「ありがとう」


儚く微笑むその表情に目を奪われる。もう終わりにしよう、そう言われてるのだと察した。ボーちゃんが私の為に言ってくれているというのは勿論分かっている。けれどもう自分の気持ちに気付いてしまった私はどうしたらいいのか分からなくて、やっぱり口下手な私は言葉が喉に張り付いたまま出て来なくて、それでもなんとか絞り出した声は掠れまくりの震えまくりで頼りなかった。


「わたし、」

「うん?」

「私、ボーちゃんにこんなに好かれてるなんて全然知らなくて、この二週間、真面目
に付き合ってなかった、けどっ」

「…うん」

「好きって言ってくれて、嬉しかった。だから私も、私ももっとボーちゃんの事知りたい!ので…これからも一緒にいて下さいっ」


言ってしまった。告白みたいな事を言うのも初めてだった。とんでもなく恥ずかしくて、ドキドキしすぎて呼吸が出来なくて、返事をしてくれない彼に不安が募りダメ?と訊ねたらふるふると首を横に振られる。


「じゃあ改めて宜しく、お願いします」

「こっ、こちらこそ!」



ースキの魔法に掛かりましたー



(柔らかく微笑んだ彼の表情は、私が告白にOKしたあの時よりも嬉しそうでキラキラしていた)


20150511

好きと言われたあの日から、私もあなたを好きになってしまったよ
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