904しんちゃん | ナノ
L女子会の帰りにて

ビールジョッキ一杯で酔えたんなら、きっと可愛いんだろうなあと飲み会の度に思ってしまう私だけど、今日は女子会で男の子の目を気にする事も必要ないため普段以上にマイペースでお酒を進めていた。ただし、お酒の選択肢をネネちゃんが握っているのは相変わらずなので一発目から例のハイボールだ。因みにネネちゃんは生ビール、ともちゃんはライチ酒とかめちゃくちゃ可愛いの飲んでた、羨ましい。


「ナマエちゃん全然お酒進んでなーい」

「だってハイボール苦いし、好きじゃな、」

「じゃあこうしよ、これ飲み切ったらナマエにももっと飲みやすいの注文してあげる」


えー、といいつつハイボールを口につける、と、だから一気一気、ほら飲み干してと言われたけど反応が遅れてそのままグラスを机に戻したら案の定怒られた。「何してんの一気!」ネネちゃんの強引さは変わらないわねとともちゃんが笑う。氷で度も大分薄まっていたので、なるべく味あわないようにしてぐっと飲み込んでやっとネネちゃんが上機嫌になった。


「すみませーん、カルピス焼酎一つお願いしまーす」


カルピス焼酎。新メニューとでかでか書いてあるその欄には、カルピスサワーにカルピス梅酒、そしてカルピス焼酎の順で並んでいた。それは間違いなく私の為に注文された物だ。カルピスと焼酎、美味しいのかな…。以前また別の飲み会でネネちゃんに注文されたいも焼酎が凄く苦痛だったのを必然的に思い出して不安がよぎる。いも焼酎は本当にしんどかった、匂いがまず無理だし味もきついし美味しくないしで…あれならハイボールの方がマシだ。

お待たせしましたとすぐにジョッキが運ばれ目の前に置かれる。二人が新しく注文したドリンクも一緒に来た為、三人でかんぱーいとグラスを鳴らし自然とグラスに口が付いた。飲むのに戸惑ってる余裕は無い。アルコールで鈍くなってる思考では尚更だった。ぱっと見はただのカルピスにも見えなくもない淡い白のそれを一口。後味こそは焼酎独特の物があるけれど、口にした途端広がるのはカルピスの優しい甘さでハイボールやただの焼酎に比べたら大分飲みやすい。「おいしい?」アルコールでそれなりに顔を赤くしたネネちゃんが私に尋ねるので、取り敢えず頷いた。


「やっばい、久々の女子会でテンション上がるー!ナマエちゃんともちゃん、飲んでるー?」

「「飲んでるー」」

「ナマエちゃん、酔ってるー?」


どう見てもお酒に酔ってる人が酔ってないよ〜と言うのと同じように、酔ってもいないけどうん、酔ってる〜と言っても中々信じて貰えない物で。以前素直にううんあんまりと言ったらじゃあもっと飲めるねとグラスにビールをつがれる展開があった為今日はうん酔ってるーと言ってみたけど、「嘘つけるってことはまだ余裕だね」とか。結果としてはなんにも変わらなかった。どうすればいいんだ。


「ちょっとトイレ行ってくるね」


カルピス焼酎も残り数口で終わりまできた頃、苦笑いしながら席を立つと大丈夫か尋ねられた。案外足取りは自分でも分かるほどフラフラしてる。付き添いを断り一人でお手洗いに立ち帰ってくると、ちょうど新しくグラスが来ていて首を傾げた。またカルピス系なのは一目瞭然だけれど。


「ともちゃんどっちがいい」

「ともちゃんカルピスサワー」

「じゃあナマエちゃんこっちね」

「ん、これなぁに〜?」


大分ふわふわした口調で聞くと、ネネちゃんに淡々と「カルピス焼酎」と言われ咄嗟に「またカルピス焼酎…!」と本音が漏れた。ともちゃんが小さく吹き出して口元を手で押さえている。


「おいしいでしょ?」

「おいしいけど、やっぱ焼酎はつら、」

「はい、かんぱーい」


ネネちゃんてば強引…。私もカルピスサワーが良かったなと思いつつまた一口カルピス焼酎を口に含んだ。癖のある後味が抜けない。

それから一時間くらいして漸くお開きにしようかとゆう流れになり、お会計を済ませお店を出ると何故だか、本当にどうしてだか野原くんが待機していて入口で固まってしまった。「ほら、ナマエだけ途中分かれ道でしょ?一人じゃ危ないと思って」…ネネちゃんめ。


「そういうネネちゃん達はだいじょぶな訳?」

「うん、ハイではあるけどちゃんと歩けるし。ねぇともちゃん」

「うん!それよりもナマエちゃんよ。ほら、見て?足取りフラフラ」


大袈裟だよ〜とヘラヘラ笑うと、野原くんに「一番酔ってんじゃん」と驚かれた。え。


「やっぱり焼酎は中々効いてるみたいね」

「ネネちゃんそれイジメ!ナマエちゃんに焼酎とかかわいそすぎるでしょ」


イジメというワードが気に入らなかったらしい。ネネちゃんがげしっと野原くんの脛を足蹴りして彼から悲鳴が漏れた。「いいから早よ送って来い」「ほい」なんて会話が織り交ぜられて、拒否権(拒否する気なんて毛頭もないけど)すらなく野原くんに手首を引かれて二人とは別れた。


「歩ける?」

「歩けるよ〜。ていうかあんまり酔ってないもん!へーき」

「…でもフラフラしてるけど。口調もいつもの二割増しでふわふわしてんね」

「え?そうかなぁー」

「うん。酔うとやっぱりテンション上がるんだ」


顔熱いしテンションはいつもより高いけど、意識は割とはっきりしている方だし言うほど酔ってない、と自分では思っているのだけれど。旗から見ると大分出来上がってるように見えるらしい。野原くんは私の腕を放そうとはせず逆にずっと支えていた。


「野原くん、なんかごめんねぇ。わざわざ来てもらった上に送ってもらっちゃって」

「やー別に。こんな遅くに女の子一人なんて危ないし。アルコール入ってるなら尚
更」


でも普通、友達とはいえこんな夜遅くにわざわざ出てきたりはしないでしょう。と聞けるまで酔えてはいないみたいだ。ついでに、この間のキスの意味も気になるけどそれを聞く勇気はなくてその分理性もちゃんと残ってるらしい。もっとアルコールを取り入れて酔っ払えてたら、もっともっと上手に甘えられるのだろうか。


「野原くぅぅぅん!」

「ほい?」

「…呼んだだけぇ」

「なぁにそれ。ナマエちゃんて酔うと陽気になるんだ」

「えー、そうかなぁ」

「そうだぞ。てかこの前飲んだ時よりも酔ってるよね?」


確かに、普段は口下手で内弁慶な私だけど今だけは口が軽くてペラペラ言葉が出てくる。そう思うとこの前よりはアルコール入ってるんだろうなあと思う半面、やっぱりもう少しくらい飲んで酔っとけば良かったかなとも思う。でもあれ以上飲む気にもなれなかったんだよなぁ。明日(もう日付け超えてるから今日だけど)に響くと困るから。それにネネちゃんの言うとおりカルピスが入ってても焼酎は焼酎みたいで、心臓はドキドキ言い始めてたからそれ以上飲むと酔っ払うを通り越して吐いてしまうんじゃないかと予想出来たし。だから正直今も心臓が速くて少し苦しいのだけれど、それは野原くんが隣にいるせいでもあるのかな、とか、思ったりして。


「あ、ナマエちゃん、ここ段差だから気を付けてね」

「ん」


野原くんが私の肩を抱いて距離が縮まる。胸のドキドキが苦しくて、でもその痛みが逆に心地良くて。


「…野原くんの言った通りだね」

「うん?なにが?」

「アルコールでドキドキしてくるとさ、恋でもしてる気分になるよねってやつ」

「え」


野原くんの口が小さく開く。理性は残ってると思ってたけど、それはとんだ勘違いだったらしい。野原くんの首に腕を回して、そっと自分の唇を彼のそれに押し当てた瞬間急に酔いが覚めてきた。え、なにしてんの、私。


「…」

「…」

「…あの、酔っ、てる?よね?」

「……よっ、て、」


る、って事にして。聞こえるか聞こえないかくらいの声だったと思う。このまま酔ってるフリして忘れたフリという選択も出来たのに、中途半端に冷えた脳は変に素直だ。「…この前の、お返し」羞恥と微妙な空気に耐えられなくなって思わずそう口走ってしまう。「この前野原くんも同じ事してきたから。お返し!」かっかと熱を増す顔を見られたくなくて数歩先を早足で進むと思いの外足元がおぼついていなくて自分でもビックリした。


「だいじょぶ?ナマエちゃん」

「…だいじょーぶ」


もう野原くんの顔見れない。ばかばか、私のばか、とか思いつつ目は彼の様子を知りたがっていて勝手に視線だけが上がってしまうので堪らない。でも街灯に照らされた彼の顔が赤みを帯びているように見えて、野原くんはお酒を飲んでいないのだからそんなはずないのになんて都合のいい視界なんだろうと思ったら胸のドキドキがまた速くなった。



ー女子会の帰り道にてー



(あれ、可笑しいな)
(俺なんてお酒飲んでないのに顔熱いし心拍数ヤバイんですけど)


20160518
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