904しんちゃん | ナノ
L合コンにて

「ナマエちゃん、合コン行かない」

「…合コン?」

「そ、今週末」


うーん、どうしようかなぁ、と返事を渋っていると、「あいちゃんがね、合コン参加してみたいんだって。だから三対三で開くつもりなんだけど」とネネちゃんが携帯を弄りながら付け加えた。あいちゃん。その名前に反応して思わずネネちゃんを見る。その視線に気付いたらしいネネちゃんがちらっと私を一瞥しにやりと意味あり気に笑った。


「一応しんちゃんも呼ぼうかなって」

「まっ、ま、待って、そしたら殆ど知ってる顔ぶれで合コンの意味ないんじゃ、」

「そうなのよねー。でもしんちゃんって結構顔が広いから、確実に二人は知らないメンズがくる訳じゃない?とびきりのイケメン用意してもらうつもり」


まぁ、ナマエちゃんが乗り気じゃないならネネもしんちゃんの知らない女の子呼ぶから別にいいんだけど?ネネちゃんの笑みが濃さを増す。ううっと言葉に詰まる私を見て至極楽しそうだ。これはやばい、由々しき事態だ。あいちゃんといえば野原くんにゾッコンの超絶美人さんだ、そんな美人が野原くんと合コン。お酒の間接ちゅーとか、あわよくば恋愛要素を交えたゲームとかしちゃうわけでしょ。しかも更にまた一人女の子が野原くんと知り合いになるのは、なんか、…いやだ。


「で、どうするの」


答えなんて分かり切ってるくせに。私の口から言わせなきゃ満足しないっていうんだからネネちゃんはズルい。


「…行く」

「そうこなくっちゃ。あ、いつも以上にお洒落してきてね」


ネネちゃんは大分気合いを入れていくらしいので、私もいつもより目を盛ってみたり露出を高めにしてみたり。でも一番の理由はあいちゃんに野原くんを取られたくなかったから、なのかもしれない。でも気合い入れすぎてめっちゃ目のでかい自分きも!とか思ってしまったので一回全部落とした。控えめに直した。けれどいつもよりも洒落っ気が増してるのは一目瞭然らしくてネネちゃんにこのネックレス可愛いねとニヤニヤされる。ネネちゃんも中々の気合いの入れようだ。気になる恋敵あいちゃんはというと…「ごきげんよう」緊張しながら振り向いた。そしてうわっ!てなる。


「ちょっと、もっと派手な格好してきてって言ったのに」

「あら、あいにとっては充分派手でしてよ」


せ、清楚系で固めてくるなんてズルい!ざ、お嬢様の出で立ちになんか急に自分が恥ずかしくなってきて、スカートを少し引っ張るけどあまり意味は無かった。ああああ、あああ!「心配しなくても大丈夫だって。今日は間違いなくナマエちゃんがモテるから」気を落とす私にネネちゃんがぼそっと耳打ちをする。なんでそう言い切れるの。疑問に思ったが、お店に入り男の子達と合流して漸くその意味が分かる。


「えー、皆すっごいカッコイイね!」

「…ネネちゃん」

「じゃあ早速自己紹介から」

「ネネちゃん」

「ん?なに」


どういうこと。珍しく声を低くするもネネちゃんには効果が無く、飄々とした顔でしんちゃんが来れないっていうから、メンズだけ用意してもらったと言うのでこめかみを押さえる。はめられた…。


「いいじゃない。たまにはしんちゃん以外の男狙ってみなよ。案外相性いいかもよ」


もう。少しむくれた様子を見せるけど誰も気にしてなどいない。合コンに清楚系お嬢様は浮くはず。ネネちゃんはそう踏んで今日は私がモテると予想したらしい。が、そこも今日は計算外だった。


「えー!あいちゃんってメチャメチャお嬢様じゃん!」

「ふふふ、それ程でもありますわ」

「かっわいいなー」


あいちゃん滅茶苦茶もてていらっしゃる。もうずっとあいちゃんを中心に話が広がっているので、隣ではネネちゃんがイライラオーラを包み隠さず放射していて私の方がヒヤヒヤしてしまう。


「ナマエちゃん」


つんと肘で突つかれ携帯を指差すのでラインを確かめると、男って結局美人に弱いんだから馬鹿な生き物よね。こんな可愛い子が二人もいるのに本当信じらんない、と届いており失笑した。うーん、後付けされたスタンプから凄い怒りを感じる。…でもねー、


「ネネもたまにこういうお嬢様系のワンピース着るよー」

「えっ、結構ギャップ」

「でしょ?今度見せてあげよっか」


キレイ系のあいちゃんと、かわいい系のネネちゃん。私は元々顔が整ってるわけでもないし、メイクしてもぱっとしないし。トーク術も全然へたっぴだから男の子達とは会話も弾まないし。


「(完全に引き立て役だよなぁ)」


まぁいいんだけど。別に私も彼らに興味があるわけでもないもんね。でもやっぱり虚しい。今日は珍しくネネちゃんがお酒指定してこなかったので、ずっと飲んでみたかったカルピスサワーにしてみた。甘いカルピス味のサワーは、普通に飲みやすくて美味しかった。みんなの会話に耳を傾けながらちょっとずつアルコールを口に含む。と、また携帯にラインが届く。うわぁ、もうなにこれ全然楽しくなーい笑。予想以上につまんなーい。しんちゃん絶対選役テキトーでしょこれ。笑ってついてるけど内心めちゃくちゃ機嫌悪いんだろうなぁと察しがついて苦笑う。しかもナマエちゃん全然男と話してないじゃん。うーん、そう言われてもなぁ。

だって、彼ら私に興味ゼロだし。頑張って話しかけてみたけど、会話弾まなくて結局あいちゃんネネちゃんに行っちゃうし。って、折角誘ってくれたのにごめんね…。某キャラクターが全力で土下座しているスタンプを押した。なんだか余計虚しくなってため息を零したくなっていると、ネネちゃんが少し考える素振りを見せながらナマエちゃんどの人がタイプ?と耳元で聞いてきたのできょどってしまう。


「ふっ、えっ、なんで…?」

「どれ」

「…私の向いの人、かな」


拒否権を有無しない言い方だったのでつい素直にそう答える、と。「はい二人ともこっち向いてー、チーズ」と携帯を向けてきたので咄嗟にその人と頭を近づけピースをした。ネネちゃんの狙いはこれか…。すごく楽しそうな顔をしていらっしゃる。


「…さて、と。そろそろ頃合いね」

「…?なんの?」


訊ねるけど、ネネちゃんは答えてくれない。そのまま皆に向き直りニコリと一つ笑った。あっ、嫌な予感しかしない。


「ねえ、ゲームしましょう。今からじゃんけんして、負けた人はコップ半分一気して、一番いいなって思った人のほっぺにちゅー」


衝撃的すぎて震え慄いたよ。でも周りは意外と盛り上がってて、六分の一ならきっと大丈夫と思ってじゃんけんに乗ったけど、私だけグーあとは全員一致のパーとか最悪な結果で目眩がした。隣ではネネちゃんが吹き出している。


「ナマエちゃん、じゃんけん弱すぎ」

「…念のため聞くけどネネちゃん何か仕組んでない」

「失礼ね。何もしてないわよ」


なんかもう逃れられない雰囲気だったので目の前の人を指名すると歓声が上がった。でも当の彼は失笑しながらあいちゃんの方をじっと見つめていて、なんだか…惨めになる。ごめんねあいちゃんじゃなくて。半分という約束だったけど、残りのカルピスサワー一気に飲み干してしまうと珍しくネネちゃんに偉いじゃない!と褒められる。そのまま身を乗り出し勢い任せにちゅうと口付けて更に大歓声。は、恥ずかしい、消えてしまいたい。ため息混じりに目を伏せた刹那、だんっ!と激しく机を叩かれる音がして顔を上げた。なんだどうしたと思った私の目の前には、息を荒くしながら私を見つめる野原くんの姿。「なっ、」野原、くん、なんでここに。瞠目する私の隣で、ネネちゃんがきた〜!と私のことを揺さぶるのでなんとなく事態を悟る。


「…お前か!」

「は?」


野原くんは何やら自分の携帯と私の前にいる彼を交互に見やるなり、ずんずんと隣までやってきて彼の胸倉を掴んだ。「どこ、唇?ほっぺっ?」「ほっぺ」そしてネネちゃんとそんなやり取りを交わすなりそのまま勢いよく彼の頬に唇を寄せたので、女性陣のきゃあー!ていう黄色い声と男性陣の驚愕した沈黙とされた張本人の悲鳴が混ざり合っていて、凄いカオスな事になっていた。


「ナマエちゃん」

「はっ、はい」

「お話があるのでちょっと抜けましょう」


珍しく怖い顔をしていらっしゃる。野原くんに腕を引かれ半ば強引に外へ連れて行かれて。単刀直入に「ナマエちゃんはあの男が好きなんですか?」と聞かれ口を噤んだ。


「えっ、あの、えーと」

「答えて下さい」

「なんで敬語?」

「いいから教えてって言ってるんだゾ」


掴まれたままの腕をとんと壁に縫い付け顔を覗き込んでくるので、危うく変な声が出そうになったがなんとか堪える。


「すきなの?」

「…すき、なんかじゃない」

「じゃあこの写真は何」


携帯のディスプレイを見せられ唖然とする。わああああ!開いた口が塞がらないよ。呑気にピースなんてかましてる自分を恨んだ。


「なにこの嬉しそうな顔」

「いや、いきなりだったから、」

「ていうか胸!自分で見えてるこの谷間?」

「うわあああ!気づかなかった!」

「なんで今日に限ってそんな無防備なの!なんか目でかいし!なにその気合いの入れよう」


野原くんが重々しくため息を吐き項垂れる。それは、あなたが来ると思ったからです、なんて、正直に言えてしまえたらいいのに。「しかもさっき、あいつにちゅーしてたでしょ」ぎくり。「そんで何?指名相手は一番いいなと思った人とか」ぎくぎくり。ネネちゃん、どこまで喋ったの!固まってしまった私をジト目で睨む野原くん。


「俺とは遊びだったんだ」

「なっ!違う、ちがうー!」


唇にした事あるのは野原くんにだけだもん!と言いかけて咄嗟に口を塞ぐ。だめだ、これ以上言うのは自滅行為。でも黙ってるととんだビッチみたいになってしまう…!弁解の余地もなくああだのううだの呻いていると、野原くんが私の肩に手を置きじっと見つめてきた。吸い込まれてしまいそうな目力にどきりとしてしまう。


「ごめん、俺がとやかく言えるギリじゃないって分かってる」

「う、うん」

「でもさ、俺あんたがそうやってフラフラどっかの男の元に行かれるのすっごい嫌なのね」

「っ、う、ん」

「もう、合コンとか参加して欲しくないから、」

「…」

「ナマエちゃんが好きです、俺の彼女になって下さい」



ー合コンにてー



(じーんって、本当にじーんって胸が震えて)
(感動しすぎて言葉では伝えきれなかったから代わりにこくこくと何度も頷くと、無言で抱きしめられて足が竦んだ)



20171129
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