904しんちゃん | ナノ
先走りのプロポーズ

※王子年齢+5


「はぁ、ルルが男だったらなー」


ぽろり。思ったことを素直に口にしたらおもいっきりドン引きの眼差しで見られて僅かに顔を顰めた。


「突然何を言い出すのよ」

「だってルル格好いいんだもん!すらっとしてて強くて色白で、まさに私のストライクゾーンど真ん中って感じ?ルルが男だったら間違いなく私惚れてる」

「…あぁ、ナマエはスマートな人が好みですものね」

「うん」


ぶっちゃけた話、ウチの男共は皆ごつくてちょっと暑苦しい。鍛練してるんだからそれは仕方ないんだろうけど。…私だってそれなりの筋肉量はついちゃってるし。比較的日差しの強いここブリブリ王国で日に焼け肌が浅黒くなるのもまあ仕方ないとして。


「でも髭は無い!論外!」


まあイケメンも少なからずいるけどね、コックとか。けど私と所属が違うから中々お知り合いになれないしイケメンだからとっくに彼女どころか奥さんがいたりして上手くいかない。あー、早くいい人見つけないと婚期逃すー。と項垂れた所で、はっとし勢いよく顔を上げる。


「失礼しました!王子の目の前でこんな話をしてしまって!」

「ううん、気にしないで」


眉を下げたスンノケシ王子が首を横へ振る。あぁ、王子を困らせてしまったと自己嫌悪に浸った直後、「そっか、ナマエは今恋人募集中なんだね」と痛い所を突かれ噴き出した。い、今のはダメージがでかいです王子。あぁ、悪気がないと分かっているから余計にグサッとくる。


「うっ、でもでも、ルルだって募集中だもんねー?」

「あら、私はいるわよ?」

「うそっ!」


王子の部屋に私の声が軽く木霊するほど大きな声を出してしまった。驚嘆し、目を見張った私にルルは悪戯に笑って一言、


「仕事が恋人」

「…あーはいはい、ルルはそうだよねー、男だ恋愛だより王子だもんねー」


とかいう私も、こうして王子の傍にお仕えするのはなんだかんだで楽しいし王子の無邪気な笑顔が好きだから、たまに今はまだ恋人はいいやと思う時もある。私が結婚するとなるとここの仕事も辞めて、王子やルルとも中々会えなくなるんだろうなとか、想像するだけでじーんと来る物があったから直ぐに打ち止めた。あ、なんか切ない、かも。


「ナマエ?どうかした…?」

「いえ、何でもないですよ。そういえば、王子も将来はカッコいい殿方になりそうですねぇ」

「え、本当?」

「はいっ、このナマエが言うんです、間違いありませんよ」


ついこの間、歳が二桁になったスンノケシ王子様。なかなか男前なお顔をしていらっしゃり、背も歳の割には高い方だ。これは確実に将来格好良くなるだろう。数年先の未来を思い浮かべ口元を緩めたものの、それからある事に気がつきあれ、と思考を踏み止ませる。王子と私の歳の差って、いくつだっけ。だって王子がお歳を重ねて大きくなればその分私も老けていくわけで…。あと十年もすれば王子は青年なのに私はおばさ、

そこまで考えて、止めた。駄目だ恐ろしすぎる、想像したくもない!


「ナマエ大丈夫?顔色悪いよ」

「平気です。ただ…時の流れは残酷ですよね。歳とりたくない」

「ナマエっ、ナマエはいくつになっても美人だよ!」

「うふふ、ありがとうございます王子」


本当、王子ったら思いやりのある良い子なんですから。心にぐっと来つつ「王子はお世辞がお上手ですね」と言うとどうしてだか不満そうに顔を顰められた。あれ、どうしてだろう。


「じゃあナマエ、もしも、もしもね」

「?はい、何です?」

「ボクが本当に、かっこいい王子になったら、」

「…はい」


何度か口をパクパクさせる王子様。心なしか、お顔も少し赤い気がする。王子になったら?王子のお言葉を復唱し首を傾げたが、視界の端でルルが武器を持つのが伺えてそちらに意識を持っていかれた。


「あれ、ルルどこ行くの?」

「今日は午後から鍛錬なの」

「へー、頑張るね」

「ナマエも、さぼってばかりだと体鈍るわよ?」


そう言うと、ルルは自身よりも大きな銃を軽々と背負って、「では王子、私はこれで、失礼します」と深く頭を下げた。王子の広い部屋には私と彼の二人きり。銀の皿の上に盛られている果物の中から極めて小柄な林檎を一つ手に取り王子に差し向けてみるが、首を横に振られてしまう。


「ナマエ食べていいよ」

「そうですか?では有難く頂きます」


艶やかに光る果実を一撫でしてから、服の内側へとしまう。すると王子が「…早く大人になりたいな」等と突拍子もないことを仰られたので一時きょとんと固まってしまった。


「あら、大人になって何かやりたい事でも?」

「うん、まぁ」


結婚したいんだ。ちらちら目を泳がせて言った王子のお言葉に、今度は驚きのあまり動けない。だらだらと噴き出すのは大量の冷や汗で、発した言葉は見事に擦れていた。


「王子、もしかしてそれはその…私が年中結婚結婚とぼやいている影響でしょうか…?」

「うん、それもあるかもね」



なんと!にこやかに告げられ、恐縮する。私の所為で王子が、このお歳で結婚のご心配を!こ、金輪際自重しなくてはっ。決めました、ナマエは決めましたよ王子。


「あっ、けどスンノケシ王子ならば大丈夫ですよ!数年経てばきっとどこぞやの綺麗なお姫様が嫁ぎに来て下さいます」


なんてったって王子様ですもの。しかし王子は浮かないご様子。しゅんと俯いてしまわれたので私は余計に焦ってしまう。


「…王子、もしかして好きなお方でも?」


どきり、としたように王子が肩を跳ねさせたので、これは図星だなと口元を緩めた。どうやら私と違って売れ残るのが心配だった訳では無いらしい。まあそうだよね。誰だって愛のある結婚が良いに決まってる。恥ずかしそうに顔を赤らめる王子の頭を軽くなでると、不安に満ちた瞳と目が合い王子が小さく口を開いた。


「ナマエ…」

「はい、なんでしょう」

「やっぱりボクは、何処かの国のお姫様と結婚させられちゃうのかな」


身分上、そうなるかもしれませんね、とはとても言えなかった。だって余りにも悲しげな表情をなさるから。そんな酷なこと言えませんよ。でもそうか、王子の好きなお方は身分が下なのですね。町にある果物屋さんのお嬢さんでしょうか。あの子は肌が白くて、いつもニコニコほっぺたが桃色で可愛いんだよなあとぼんやり王子とそう変わらない年齢の少女の姿を思い浮かべつつ、目の前の王子に笑いかける。


「心配しないでください王子。その時は私が何とかしてみせます」

「ほんとう?」

「はいっ、このナマエにお任せ下さい!王子のためなら一肌でも二肌でも脱いじゃいます」

「じゃあ、ボクが結婚できる年になったら、」


先程よりももっとお顔を赤くして、王子は言った。


「ボクと結婚してくれる?」


その目は真っすぐと私のことを射抜いており、冗談とは思わせない真剣みを帯びている。子供らしくない、とても難しく悩ましげな表情をしていらっしゃるなと思った。私はほんの一瞬だけぽかんとした後に、すぐ目を細めてゆうるりと笑んだ。


「ありがとうございます、王子。ですが結婚はもっと素敵な人とする物ですよ」

「ナマエは十分素敵だよ!十分すぎるぐらい優しくて、かっこよくて、いつもボクと一緒にいてくれる…ボクはナマエが大好きだ」


きっと、憧れを恋愛と勘違いしているのだろうと、もしくは家族愛をそう感じてしまっているのかもしれないと、この時の私はそう悟った。実際私も、おごまかしいが王子のことは可愛い可愛い弟のような、大切な家族として愛している。あと数年もすれば、王子も私なんかよりもっと可愛くて若い女の子に本当の恋愛感情を抱くのだろう。あ、それはそれでちょっと複雑、なんか寂しいかも。


「ナマエ、ボクね、もう決めたんだ。もし自分の意思で結婚できるなら、ボクはキラと一緒になりたい」


うわ、と思った。王子はまだ幼い少年なのに不覚にもときめいてしまった私はヤバいだろうか。今の台詞は結構ぐらっときた、10年後王子だったらきっと落ちてる。


「ですが王子、王子と私とでは歳の差がありすぎるのでは?」

「あのねっ、愛に歳の差は関係ないんだよ!」


とても嬉しそうに、誇らしげな顔をして仰るものだから私まで口元が緩んでしまった。


「おや、それはしんのすけ君の受け入りですか?」


脳裏に浮かぶのはスンノケシ王子と容姿が瓜二つのあの少年。私は久しく会えていないけど、王子やルルの話によると相変わらずのパワフルさらしい。


「そろそろ、彼へ会いに行く季節になりますね」

「…うん」

「今年は私もついて行っちゃおうかな。しんのすけ君も、王子に似て男前なお顔をしてるんでしょうね、きっと。会うのが楽しみです」

「…ナマエは駄目」

「ええっ!どうしてですっ?」

「ナマエはしんちゃんのお気に入りだから」

「へ…いやでも、ほら、彼はルルにも、」

「ルルにもアプローチしてるけど、ナマエは最近ますます綺麗になったから…ダメ」

「…」


私はこんな小さな子を相手に何どきっとしてるんだろう。私の方こそ恋愛感情と間違えそうになる、これはきっと母性本能を擽られてるだけなのに。王子も恥ずかしいのか、顔を赤らめて俯いてしまいもじもじと指先を擦り合わせた。そおっと上目遣いで私の顔色を伺ったのが可愛すぎて叫びそうになる。


「あの、そろそろナマエのお返事、聞いてもいい?」


心細いのか、ご自身の服の裾を握りしめては視線を深く落としたスンノケシ王子様。どうやら王子は私からの答えをどうしても聞きたいらしいのだ。困ったなあと苦笑すると、つられたように王子も眉をハの字に下げる。


「いいんですか?私なんかで」

「もちろん!それともナマエは…ボクとじゃ嫌?」

「王子…」


お願いですから、そんなお顔をなさらないで王子。王子が苦しそうそうにするのを見るとなんだか私も切ないのです。


「ナマエ」

「…はい、なんでしょう」

「さっきも言ったけどボクね、もう決めたんだ。出来るのならボクは、ナマエと結婚したい」

「…はい」

「ナマエは今、好きな人はいるの?」

「うーん、そうですねえ、今は特に」

「…そっか。あのね、待ってて欲しいなんて言わない、いや、出来れば待っててくれるのが一番嬉しいんだけど、…でもこれだけは覚えておいて」


ボクの気持は絶対、変わらないから。ボクが大人になって結婚できる歳になったらもう一度ぷろぽーずするから、その時にもう一度、


「考えてくれると嬉しいな」


照れたようなその表情にはどこか憂いさもあって、儚く笑う王子に胸を締め付けられる感じがした。あれ、王子って本当に10才だっけ。そう思ってしまうほど、この時の王子のお言葉と表情は大人っぽかったのだ。



―先走りのプロポーズ―



(それでやっぱりキュンときてる私はどうかしてる)



20131023
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