ドラミくんがまず連れて行ってくれたのはフラワーガーデンだった。雑誌やテレビで今取り上げられている話題のスポット。色とりどりのお花が咲いていて綺麗なのよと、以前ドラミちゃんが教えてくれた。今度私たち2人で行きましょうって約束をしていたけれど、まさかこういう形で叶ってしまうとは…。隣に並んで大人しく花を眺めるドラミくんはとても絵になっていた。花弁の根元にそっと手を伸ばして、優しい手付きで触れる仕草に思わず見とれる。「綺麗だね」そう、不意打ちでわたしの瞳を射抜きながら言ったドラミくんにうんと頷いて。わたしもドラミくんと同じ様に桃色の花へとそっと触れた。お花の甘い匂いが辺り一面に広がっていて凄く心地いい。

元の世界では、キッドくんとドラミちゃんでフラワーガーデンへデートに行ったんだろうなぁ、と。そう考えると何だか不思議な気持ちになった。バッチリ見所抑えて帰って来るからねっ、ナマエさんをちゃんとリード出来るように。そんな可愛い事を言っていたドラミちゃんに懐かしさすら覚えてふと切なくなる。


「そろそろ移動しようか」

「うん、そうだね」

「大丈夫?歩き疲れてない?」

「大丈夫だよ、ありがとう」


ドラミくんの気遣いが純粋に嬉しくてやんわり微笑んだ。ドラミちゃんと出掛ける時も、ドラミちゃんがよくわたしの事を気に掛けてくれたり引っ張ってリードしてくれてたけど、ドラミくんもそれは変わらなかった。寧ろ拍車が掛かっている気がする。段差があったり道のりが少し不安定なだけでも気を付けてねって声を掛けながら自然と手を取って助けてくれるし、ドラミくんから話題を振ってくれるから凄く話しやすいなと思った。


「ここね、僕のお気に入りのお店なんだ」


そう連れてきてもらったお店は、わたしとドラミちゃんでよく来てたお店で軽く目を見開く。それを素直に伝えると、ドラミくんも少し驚いたような顔で「じゃあ、僕が毎回注文する料理も何か知ってたりする?」と言うので笑顔で頷いた。


「フワフワ卵のオムライス。わたし達はいつも半分こにして食べてるの」

「すごい!一緒!僕たちも色んな味楽しむ派だからよくナマエと半分こして食べてるんだ。周りには女子かよって冷やかされるけど…なんか、嬉しいなぁ」


そう言ってはにかむドラミくんにつられてわたしも自然と笑顔になる。分かるなぁ、わたしも嬉しいもん。性別や些細な性格は違くても、わたしとドラミちゃんが親友で、日頃の生活があまり変わらないっていうのがとてつもなく嬉しい。料理を注文して待つ間もお話がずっと絶えなくて楽しかった。わたしの知っているドラミちゃんの話と、ドラミくんの知っているわたしの話。エピソードがたまにかぶるのが可笑しくてつい声に出して笑ってしまう。


ウェイターさんが運んできてくれた料理は湯気が立ち上っていて凄く美味しそうで。ドラミくんが当たり前のように小皿を手に取るなり、率先してわたしの分を取り分けてくれるので少しだけ慌ててしまう。あわわわ、本来ならわたしが女子力で取り分けるべきなのに、とか焦っていると、ドラミくんは気にしなくていいよと微笑んでくれるので優しい。


「僕がしたくてしてるだけだから。世話焼きなんだよね、多分」


そう、お皿を手渡してくれるドラミくんの姿が一瞬ドラミちゃんとリンクして見えた。いつもわたしを気遣って世話を焼いてくれるドラミちゃんに申し訳なくなって、謝ってしまった時がある。その時ドラミちゃんは、とても穏やかな顔で目を伏せながら言った。


「私ね、男の子は常に女の子に優しくあるべきだと思うの。女の子には女子力とか気遣いが必要だってよく聞くけど。レディファーストだって大切じゃない?デートの時くらい男の子がしっかり引っ張ってくれないと。だからね、わたしも女の子相手には常に優しい存在でありたいと思うの。もしも私が男だったら、女の子にうんと優しくしてリード出来るような人になりたい」


ドラミちゃんのそういう所、凄く好きだし尊敬したいって思った。だからわたしも見習わなきゃって。結局人見知りなのが幸いしてあんまり実行出来てないけど。いつかわたしも、ドラミちゃんみたいな人になりたい。そう思った。ドラミちゃんってば本当に有言実行しちゃうんだもん、凄いなぁ。ドラミくんは、凄く女の子を大切にしてくれる優しい男の子だったよって。元の世界に帰ったらドラミちゃんに教えてあげよう。



今まで色々な男の人とご飯に行ってきたけど、楽しかったと思える人なんて殆どいなかった。いても彼女持ちの遊び人だったり、実は下心があったり。どんなに楽しくてちょっといいかもと思った人でも、その瞬間から一気に熱が冷めて冷静になった。恋まで発展する事なく淡い気持ちが砕け散っていく感覚ばっかりだったから。男の人と食事してても楽しい、このご飯美味しいってあんまり思えなかったけど。ドラミくんとの食事は楽しかったしとても充実していた。本当にドラミちゃんとご飯している時とおんなじで、…安心した。



「今日はありがとう。凄く楽しかった」

「こちらこそ!わたしの方こそありがとう、ドラミくん。こんなに楽しいデート初めてだった」

「あはは、それなら良かったよ」


つい盛り上がりすぎてしまったようだ。レストランを出ると日もすっかり傾いてしまって、ドラミくんは律儀にお家まで送り届けようとまでしてくれて。でもさすがに申し訳なく感じたので駅まででいいよと伝えれば、少し不満気な顔をしながらもドラミくんは頷いてくれた。昨日だって荷物を届けにわざわざ往復してくれたんだもん。連日はさすがに申し訳ない。お家に着いたら連絡してね、絶対だよ?とわたしと指切りを交わすドラミくんが何だか可愛いかった。

その後はっとしたような顔で「付き合ってもないのにお節介でごめんね!重くて嫌だと思ったらいつでも言ってね!」と焦ったように言うので思わず笑ってしまう。


「ううん、嬉しい。ドラミちゃんもね、いつもお家に着いたら連絡してねって言ってくれるの。他の男の人と出掛けてもずっと心配してくれて、ちゃんとわたしがお家に着くまで起きててくれる、優しい子なんだよ」

「…そっか」


ドラミくんが淡く微笑む。「ドラミちゃんにとっても、ナマエちゃんは凄く大切で大好きな親友なんだね」そう言ってくれたドラミくんの言葉が嬉しくて、なんだか擽ったくて。わたしは小さく頷きながらはにかんでみせた。



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