ドラズの皆で食事するから良かったら来ないかと、マタドーラくんにお呼ばれしたので行く事にした。この世界に来てからファーストコンタクトを取るドラズのメンバーもいるからちょっぴりだけ見た目にも気を遣って行ったら、またもやキッドくんにデートか?と茶化されてしまってムッとする。


「違いますぅ!」


頬を膨らませて否定すればケラケラと笑いながら流されてしまった。全く、失礼しちゃう。ドラミちゃんがいない影響なのか、最近ではわたしがキッドくんに弄られるポジションに落ち着いている気がするな…。えもんくんとドラミくんの間の席に腰掛けると、二人共苦笑いを零しながら大丈夫、可愛いよとフォローを入れてくれるのでこの兄弟ってば優しい。


そこから料理をオーダーして各々近況を話して。凄く充実した時間を過ごしたように思う。久しぶりにワイワイがやがや。沢山笑って懐かしい気すら感じた。世界線は違くても、今目の前にいる皆は変わらないんだな、って。一緒に食事をしてお喋りをしていてしみじみそう思った。やっぱりドラズの皆と一緒にいるのは楽しいなぁ。あっという間で時間を忘れてしまう。食事会も終盤になってきた頃、リーニョくんが甘い物食べたい!と言い出したので、各々食後のデザートを注文する事にした。メニューを開いてどれにしようかなと考え込んで、わたしは一つのオレンジケーキを選ぶ。

運ばれてきたオレンジケーキは、ほんのりとした橙色が凄く可愛いくて表情が綻んだ。トッピングの生クリームまでオレンジ色。それに何だか凄くいい匂いがする。そっとフォークで掬って一口食べると、ホイップの甘さの中にオレンジの酸味があって凄く美味しかった。


「ナマエちゃんのは、オレンジのケーキ?」

「うんっ、甘酸っぱくて美味しいよ」


わたしの隣でメロンベースのケーキを食べていたドラミくんにそう笑いかける。一口食べる?と言いかけて、またキッドくんやマタドーラくんに冷やかされそうだからと思い留まり止めた。今度は下の方までフォークを刺した所で、土台のスポンジがヒタヒタに濡れている事に気が付いて首を傾げる。何だろう、シロップかな?疑問に思いながらパクリと口に入れて直ぐその正体に気が付いた。喉が熱い。そのままあっという間に全身へと広がって一瞬で身体中に巡っていく。こ、これは、アルコールだ、っ!


「キッドはデザートいらないの?」

「あぁ。俺はコーヒーでいいわ」


お喋りを続ける周りの声を他所に、わたしは一人内心で焦っていた。まさか洋酒入りのケーキだったなんて…。この強い香りはブランデーだったんだ。洋酒入りのお菓子は今までも何度か食べてきたけど、実はこういう系ってあんまり得意ではない。少しなら大丈夫なんだけど、このオレンジケーキには結構な度数の洋酒が使われている気がした。思い切って一口、パクリとケーキを口へ含む度に、ブランデーとオレンジリキュールのダブルパンチが飛んできて心拍数が上がる。見た目はこんなに可愛いケーキなのになぁ。食べれば食べるほど深みにハマっていくからえげつない。普通にこのケーキ一つで酔っ払ってしまいそうだ。


「… ナマエちゃん大丈夫?顔赤いけど、」

「あれっ、本当だ」


チラチラと、さっきからわたしに視線を飛ばして違和感を感じ取ってくれていたらしいドラミくん。顔を覗き込みながらそう声を掛けてくれて、それに気が付いたえもんくんもつられるようにわたしの方を見た。熱く火照る両頬っぺたに手をやって押さえながら、わたしはふにゃりと表情を崩して笑う。


「うん、大丈夫」


段々と皆の視線が集まってきて何処と無く落ち着かない。早くケーキを食べ切ってしまおうと、もう一口フォークを口に含もうとした時だった。横から伸びて来たそれにわたしの手ごと掴まれて、ぐいと横へ引っ張られケーキが掻っ攫われる。目を僅かに見開くと、ドラミくんが自身の唇についたクリームを舐めとりながら「結構強いね」と呟いた。顔をぼっと赤くして固まるわたしだけれど、その奥ではもっと顔を赤くしたえもんくんが「ドラミっ、おま、なんて大胆なっ、」とワタワタしていた。この事態に気が付いたキッドくんがわたしの名前を呼ぶ。


「ナマエ、どうかしたのか?」

「あ、ううん、…ちょっと、洋酒入りのケーキだったみたいで」

「マジ?顔真っ赤じゃん」


でも全然、大丈夫だから、と言おうとした所でドラミくんが静かに立ち上がったのでついそちらを見た。


「タクシー呼んでくる。ナマエちゃんは帰り支度しておいてね」

「ええっ!そんな、いいよタクシーだなんて!」

「まぁまぁ。ナマエちゃん今日ハイヒールだし。多少とはいえアルコール入っちゃったし。たまにはタクシーに甘えてみるのもいいんじゃないかな」


なんて、悪戯に笑ってみせるドラミくんにキュンと胸が甘く疼いた。相変わらずドラミくんの気遣いが嬉しすぎて、胸のトキメキが止まらないから困ってしまう。赤らむ頬に手を当てながらはぁ、だなんて熱っぽく息を吐くと、今度はマタドーラくんに「幸せいっぱいって顔だな」と茶化されてしまい益々顔が赤くなった。王ドラくんとえもんくんは僅かに頬を染めながらわたしの事を凝視していて、リーニョくんは目がキラキラだしメッドくんとニコフくんは見守るような視線を向けてくるので照れてしまう。


「まっ、まぁ、」

「おお、否定しない。やっとドラミと付き合い始めたのか」

「やっとかよ〜、見てるこっちの方がもどかしかったもんな」

「ええっ、そうなの!?ドラミとナマエちゃんが…そっか」

「ドラえもん知らなかったのか?本っ当に鈍感だなぁ」

「いやっ、何となく気付いてたけどさぁ!まさかもうそこまで進展しているとは…」


キッドくんとマタドーラくんに弄られているえもんくんを傍目に、わたしはジリジリとした焦燥感の中思い切ってあのっ!と声を上げた。再度皆の視線が一気に集まってくるので尻込みしてしまいそうになる。う、でも、言わなくちゃ。わたしはまだドラミくんと…、


「つ、付き合ってない、です」


はあっ!?キッドくんとマタドーラくん二人分の声が綺麗にかぶって大きく響いた。わたしは咄嗟に耳を塞ぎたくなったのを何とか堪えて顔を顰める。何で、どうして!そう、キッドくんとマタドーラくんが詰め寄ってくるのでうっと言葉に詰まってしまった。


「それには色々と理由が…、」


以前にわたしの悩みを聞いて背中を押してくれたキッドくん。その色々な理由を何となく察してくれたらしくて、彼がそれ以上追求してくる様子は無かった。マタドーラくんもその空気を感じ取ったのか、何か言いたそうにしていたけれど小さく口を噤んで「…まぁ、ナマエちゃんがそれでいいって言うんなら良いけどさ、」と頬杖をつく。


「…でもアレだな」


少し重たくなってしまった空気を変えるように、キッドくんが微笑混じりに呟いた。


「女の子はナマエ一人だからアルコールは抜きにしようって話だったのに、まさかそのナマエが酔っ払ちまうなんて」

「え…?」

「ちょっとキッド、それドラミに口止めされてたやつじゃん」

「言っとくが、ドラえもんのそれも共犯レベルだからな」


ポカンとしてしまったわたしにコッソリ、マタドーラくんが補足で教えてくれた。お酒の入った男に囲まれたらナマエちゃん怖がるかもしれないし可哀想じゃん、なんて。どこまでも優しくて気遣ってくれるドラミくんに愛しさが募る。微力のアルコールに微睡みながら、はぁ、と再び桃色の溜息を吐いた。


「どうだ?もっと好きになった?」

「…うん、もっともっと好きになった」


まさか素直な返事が返ってくるとは思っていなかったのか、マタドーラくんが呆気に取られた顔をしてから、口角を緩めてそっかと笑った。



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