ドラミちゃんは凄く素敵な女の子だと思う。優しくて気が利いて、一緒に出掛ければいつもリードしてくれる。面倒見もよくてしっかり者のドラミちゃん。人見知りでいつもオロオロしているわたしに愛想をつく事なくいつも付き合ってくれるドラミちゃんが好きで憧れだった。

そんなドラミちゃんに彼氏が出来て、わたしもそろそろ彼氏欲しいなと思って男の人と何回かデートしてみたけど何だかしっくりこないのが現状だった。ある人はいっつも自分の話ばかり。聞き上手がモテるらしいと、詰まらない話も必死になって聞いて相槌を打った。また別のある人は会って2回目のデートで好きだの愛してるだの。無理やりキスしようとしてきたりホテルに連れて行かれそうになったりで思い出すだけで鳥肌が立つ。行き当たりばったり、気が利かない、挙句の果てにわたしの気になった男の人は皆わたしじゃなくてドラミちゃんを好きになる。そんなロマンスの欠片もない恋愛にうんざりとしてしまうのだ。


…まぁ、ね、分かるよ、わたしよりもドラミちゃんの方が性格いいし、気が利く可愛いレディだもの。ドラミちゃんを好きになるのも分かる。でもそろそろ疲れてきちゃったなぁ。とも思うのだ。理想が高すぎるのもあるかもしれないけど、普通に考えてドラミちゃんといる時が一番楽しかった。女の子同士だから話が合うし無駄な気を使わなくてすむからっていうのもあるかもしれない。男の人と詰まらない会話をして高いご飯食べるよりも、ドラミちゃんとお互いに盛り上がる話をしてファミレスでご飯してる時の方が全然…美味しいし楽しい。

ふぅ。浅くため息をついて星の瞬く夜空を見上げた。


「…ドラミちゃんが男の子だったら良かったのに」


なんて。そんなお願い事というか、願望を口にしてからその日は眠りについた。その辺の男の子よりも頼りになって、相手を思いやる事の出来るドラミちゃんがもしも男の子だったなら。わたしは間違いなくドラミちゃんを好きになって今よりもマシな恋愛が出来ていたのかもしれないのに。…なんてね。




「…んぅ」


朝だ。欠伸を漏らしながら起き上がるなり、家のチャイムが鳴るので半分寝惚けたまま玄関のドアを開けた。こんな朝早くから誰だろうと思えば、珍しくもキッドくんとマタドーラくんが立っていたので一気に眠気が覚めてはっとする。うわ、大変わたし今普通にすっぴんだし顔も洗ってないのにっ!そもそも何で2人がウチに、


「あっ、あの、朝から2人でどうしたの?」


諸々の羞恥心から少し俯き気味でおどおどとそんな疑問をぶつけてみる。でもそっと盗み見ると何故か2人の方が面食らったような顔をしていて首を傾げた。え、そ、そんなに酷い顔してるのかな。不安になって軽く頬に触れると同時、マタドーラくんにもう片方の手を握られてビクっとしてしまう。


「やぁ可愛いお嬢さん、おはよ。俺と一緒に朝焼けに染まる朝を過ごしてみない?」

「お前はまたぁ、誰かれ構わず口説くなよ。ナマエに怒られるぞ?」

「だーってぇ。妬けるじゃん。ナマエばっかり可愛い女の子と一緒でさ。つうか、呼びつけておいて女泊めてるとか…嫌がらせか!」

「まぁ確かにな、それは同意だが」

「…?」


なんとなく会話が噛み合っていないような…?話についていけなくてまた首を傾げるわたしに構わず、がっしりしっかりわたしの手を握ったままマタドーラくんがずいっとわたしの腰を抱き寄せて、頭にキスを落とすのでテンパってしまった。


「〜っ!?」

「おいこらエルマタドーラ」

「おはようのキスくらい許せ許せ」


おはようの、キス。そういえばマタドーラくんと知り合い立ての頃はよく挨拶のキスをあちこちにされていたっけ。一緒にいてもう長いし、いつのまにかマタドーラくんからナンパされたり過度なスキンシップも頻度が減ってたから、今のは不意打ちで思わず赤くなってしまった…。


「まぁ茶番はこれくらいにして、ナマエ起きてるか?」

「…?うん、起きてるよ」

「わり、呼んできてくれねぇ?」

「…???目の前にいるけど」


やだぁ、キッドくん寝惚けてるの?と笑いながら言ってみる。でもキッドくんは何言ってんだこいつ、と言いたげな顔ではあ?とわたしを見てくるのでびびってしまった。やだ、その顔ガチなやつ。な、何でそんな怖い表情してらっしゃるの…?


「お前が?ナマエ?」

「う、うん、」

「確かに、よく見るとナマエの面影がある」

「何だよナマエの女装かよ!」

「えっ!?ちが、」


何で女装!?と思って弁解しようとした、ら、マタドーラくんにジト目でガンを飛ばされたのに思い切り怯む。ひええ、


「お前悪質すぎるぞ!俺様の純情を弄びやがって!可愛いく女装出来たからって許されると思うなよっ?」

「そうだぞ!これはナマエが悪い。からかう為だけに俺ら呼んだのか?ご丁寧に声も変えてそんな偽乳までつけやがって」

「ひゃああっ!」


ふにっ、て、キッドくんが無遠慮にわたしの胸に手を伸ばして揉んでくるので堪らない。悲鳴を上げながら身を捩ろうとするけど、キッドくんが許してくれなくて揉まれるがままだった。ななな何この状況!?しかも結構ガッツリ揉まれて、いる、


「やっ、やめ!」

「まだ続けるか!いい加減芝居はやめ、ろ……っつうか、なんか結構リアルな感触だな、これ…」

「あっ!う、キッドくんの、ばかぁ」


顔を真っ赤にしながら涙ぐんでやっと、キッドくんがまじまじとわたしの顔を見て恐る恐る手を離した。眉根を寄せながら固まって怪訝な顔をしながらわたしを凝視する。


「…っえ、お、女…?」

「女に決まってるでしょお!し、信じられない、キッドくんが無神経なのは知ってたけどここまでだったなんて…」

「ちょっと待て!…意味が分からん」

「それはこっちの台詞だよ!キッドくんもマタドーラくんもどうしちゃったの?なんか、変だよ…」


胸を庇いながらメソメソ訴えると、神妙な顔をしながら腕を組んでいたマタドーラくんがわたしとキッドくんの間に入ってきて一つ息を吐いた。


「まぁ一旦落ち着いて、話を整理しよう。ナマエ、まずお前は本当にナマエで間違いないんだな?」

「うん、そうだよ」

「ここはどこだ?」

「わたしのお家」

「お前の性別は?」

「女だけど」

「…あのな、ナマエ。俺らの知ってるナマエは、男だ」

「…えっ?」


冷静にそう言い切るマタドーラくんに、一瞬時間が止まった気すらした。



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