初めて好きな女の子にフラれてしまったかもしれない…。いや、こういう言い方をするのは良くないんだけど、今まで相手から告白されて付き合う事が多かったから…。まぁ結局、破局を迎える時は「ラミくんって優しすぎるから嫌い」といって浮気されるかフラれるかって感じだったんだけど。付き合う前からこうして断られてしまうというのは初めてだった。はぁ。着々とダメージを受けて傷心している自分に笑ってしまう。ナマエちゃんの好きな人って誰なんだろう。キッドは違うって言ってたけど、僕は絶対エルマタドーラだと思うんだけどなぁ…。

よく2人でお茶をしながら和気藹々と。この前だってエルったらちゃっかりナマエちゃんの手を握ってケーキあーんとかしちゃってさ…ナマエちゃんはナマエちゃんでニコニコして、そこまで嫌がってなかったし。…あーあ。とか、いつぞやの2人を思い出してまたため息。もう止めよう、ナマエちゃんの事を考えるのは。僕の片思いは終わってしまったのだから。そう思うのに、偶然デート中のエルマタドーラを発見してしまって自然と眉根が寄った。


色んな女引き連れてチャラチャラしてるような男にナマエは任せられない。前にキッドが言っていた台詞。僕に言ったのか、エルに言ったのかは分からないけれど。その通りだと思った。すっごく悔しいし癪に触るけれど、キッドの言葉はいつだって正しい。ナマエちゃんが他の誰かと両想いになる姿なんて今はまだ想像したくもないし素直に喜べないだろうけど…。それでもナマエちゃんが悲しい思いをして泣くような事は絶対に起きて欲しくないと思うのだ。


そもそもエルはナマエちゃんの事どう思ってるんだろう。女の子なら見境なく口説くような奴だからな…。もう一緒にいて長いけど、僕は未だにエルの本気の恋と遊びの恋を見極められずにいた。エルって人の恋愛話には顔突っ込んでも自分の話はあんまりしないし。本気だからと口では言っていても数日後に破局してたりするし…。だから一先ず、今試しにエルの後を付けてこの女の子はどっちなのか僕なりに分析してみようなんて、そんな企みを胸に2人の後をこっそりと付け始めた。のだけれど、それも直ぐにバレて曲がり角で待ち伏せされてて「何のつもりだよ」と顰めっ面を喰らう。


「やぁ、偶然だね」

「偶然だね、じゃねぇ!さっきからずっと付いて来てたろ」

「たまにはエルの恋愛事情でも観察してみようかと思って」

「何じゃそりゃ」

「で?女の子はどうしたの?」


いつの間にか居なくなっていてビックリした。キョロキョロ辺りを見回してみても居る気配はないし。不思議そうにする僕にエルは溜息を吐きながら、「第三者に見られながらデートなんて出来るか!解散した」と言うので呆気に取られた。本気で言っているのかこの男。信じられない。僕だったら最後までデートするのに…!


「女の子が可哀想じゃない?」


ついそんな本音を漏らしてしまうものの、エルはサッパリとした笑みを浮かべながら「いいんだよ」と開き直って。


「丁度相手もこの後用事があったらしいし。まぁ、多分俺様以外にも男がいるんだろ」


なんて虚しい事を言い始めるので、僕はそっか…。としか言えなくなってしまった。でもエルはあんまり気にしていないのか、朗らかに笑って「遊びの恋愛なんてこれくらいが丁度いいんだよ」と言うので何だか複雑になる。


「…エルはさ、今いないの?本気で好きな女の子」

「…なに、そんなに俺の恋愛話が聞きたい訳?」

「うん、聞きたい」

「……今は別に、特には。ちょっといいなぁって思う子ならいたけど」


少しだけドキっ、とした。それ、ナマエちゃんだったりする?とはさすがに踏み込み過ぎな気がして聞けなかった。ていうか、何で過去形なの。寧ろそっちの方が気になる。続け様に聞こうとした所で、エルが「ドラミは?」と聞き返してくるので言葉に詰まった。


「…僕にも、いたよ。本気で好きになった子」

「は?え、何で過去形なの」

「それ僕もエルに聞きたい」

「俺はほら、早々にその子には別の好きな奴がいるって気づいちゃったから。追い掛けるだけ自分の首締める奴だなぁ、と思って」

「え、そうなの?どうして分かるの、そんなの」

「んー、分かりやすい子だったからな。見てれば分かるよ」


そこまで聞いて、思わず「んんん?」と内心で首を捻った。あれ、エルの気になってた子ってナマエちゃんじゃない?っぽいな、今のを聞いてると…。確かにナマエちゃんは喜怒哀楽はっきりしてて感情も見えやすいけど、好きな人への態度まであからさまに出すような女の子じゃなかった、と思う。実際僕はキッドに聞くまでナマエちゃんに好きな人がいるって事知らなかったし。…いや、でもキッドも今のエルみたいな事言ってたからな。寧ろ間違ってるのはナマエちゃんの好きな相手の方…?えっ、エルじゃないの?じゃあ誰。なんだか段々混乱してきて、眉間に皺を寄せながら難しい顔をしているとエルに不審がられた。


「なに、お前は一体何に頭を抱えているの」

「…僕は、」

「おう」

「僕はただ、僕の好きな人に幸せになって欲しいだけで…」

「…」

「…エルはナマエちゃんに告白されたらどうする?」


とか、考える事に疲れてしまった僕は、結局そんな突飛で単刀直入な事をエルに言ってしまった。今のでバレただろうな、色々。エルは一瞬面食らったような顔をしたけれど、すぐに遠くを見ながらゆうるりと笑って。そうだなぁと呟く。


「付き合うんじゃね?ナマエちゃん良い子だし、ピュアで可愛いし」

「…もし本当にそうなったらさ、今までの女の子とは全部関係切って、ナマエちゃん一筋になって、幸せにしてあげてよ」

「…どういう意味だ?それ」

「そのまんまの通りだよ。まぁ僕には分からないけどね。ナマエちゃんの好きな人が誰なのか、エルが本当に告白されるのかも…でも、もしもの話」


もし本当にそうなったら、ナマエちゃんの事幸せにしてあげて。絶対に泣かせるような事しないで。そう、出来るだけ微笑んで、僕はじゃあねとエルに背中を向けた。


「…お前は?」


ポツリ。投げ掛けられた言葉に思わず足を止める。首だけで振り返ると、エルは真っ直ぐ僕の目を射抜きながら言った。


「ドラミが幸せにするっていう選択肢は、ねーの?」


無いよ。僕にそんな権利。だって振られちゃったんだもん。内心でそう呟いて、僕はくしゃりと表情を歪めて笑ってみせる。エルはどうしてだか、納得のいっていなさそうな顔をして。ただ僕の背中をいつまでも見つめていた。



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