がやがやと賑わう居酒屋。少し離れた席に座るホロ酔いのミョウジさんをちらりと見やって、俺もグラスを傾けた。ミョウジさんは誘われると断れないタイプだ。だから今日も同僚の子に人数足りてないんだ、お願い!と言われて来てしまったミョウジさんがちょっと心配になって、俺もくっついてきたという訳だ。だって今日木曜で明日は朝一会議が待ってんのに!ミョウジさん睡眠大事な人だからこのまま二次会とか連れてかれたらたまったもんじゃないぞ。あとミョウジさんがお酒の場に行くのが普通に心配だった。っていう俺の思いやりはちゃんと彼女に届いていたらしい。お店に入る前にありがと、野原くんとこっそり囁いてきたミョウジさんに、やっぱくっついて来て良かったと。改めて心底そう思った。


「おっ、ミョウジさんと飲むの久しぶりじゃんねぇ」

「ですね」

「今日は飲も飲も!ほらぐいーっと!かんぱーい」


言われるがままアルコールを口にしていくミョウジさんに心配が募る。なんか今日、飲む量多くない?とか思ってたら俺も先輩に野原今日全然飲んでねーじゃんと言われグラス一気するよう言われたので苦笑いで酒を煽った。ちょっと気分ぽわぽわ。とはいえミョウジさんが心配で心配で全然楽しく飲めない。まあ、ミョウジさんとは何回か飲み行ってるし、強いのかあんま酔ってんの見たことないから平気だとは思うけど。なんて思ってたらさあ、


「ミョウジさん飲むねぇ」

「えへへー、ここのお酒甘くてジュースみたいで、すんごく飲みやすいからかなぁ」

「ミョウジさんてさ、酔うと可愛いよね」

「あ、ひどーい。それって普段は可愛くないってこと?」

「あははー違うよー」


トイレに行ってついでにネネちゃんから飲みのお誘いが来て断ってる合間に何が起きたのか、戻ってくるとミョウジさんが同期の男とイチャイチャしててぼーぜんとした。いや、確かにちょっと長電話だったかもしんないけど、イチャイチャっていうか戯れてるの方が合うんだろうけど…にしても近すぎるよねえあの二人!ミョウジさんもフワフワのホワホワでえへーってそれ俺だけの特権!


「ミョウジさん!俺とも飲もうよ」

「あっ!野原くんだぁ」


他の奴にそんなデレデレしないで自重して。の意味を込めて怒りマーク携えた笑顔で隣の席に座るけど、ぱあっと花が咲いたみたいに笑いかけるから。まんまと毒気を抜かれてしまうのだ。


「野原くん野原くん、楽しいねぇ」

「う、うん」

「…ミョウジさん、なんか野原の前だと雰囲気ちがくね?」

「え、そー?」

「なーんか無防備っていうか」


確かに。ゴロゴロ喉を鳴らして擦り寄る猫みたいで、ていうか本当に擦り寄ってる!


「あ、あの、ミョウジさん」

「野原くんの隣、落ち着くなあ」

「へー、ミョウジって酔うと甘えたになるんだ」

「ほんとだー!ミョウジさんとは何度か女子会したことあるけど、いつも酔うまで飲まないもんねー。珍しー」


ミョウジさんは、正直言うとあまり目立つ方ではない。寧ろ地味で、度が付くほどの真面目で、おとなしくて。だから周りは今の状況が珍しいみたいだ。大分注目を浴びていて俺の方が恥ずかしくなってきたかも。


「ミョウジさん、そろそろ終電近いけど、大丈夫?」

「…大丈夫、じゃない」

「ねっ!大丈夫じゃないね!じゃあもうすぐ帰ろっかぁ」

「えっ!二人とも二次会は?」

「明日も早いんでぇ、残念ながら今日はパス!あ、ミョウジさんはちゃんと駅まで送ってくんで」


そそくさと、これ以上絡まれる前にさっさとミョウジさんと自分の鞄を持ちミョウジさんの肩を押した。ぶっちゃけ今日のメンバーはいいじゃんいいじゃんで押してくる面子だから、捕まると確実に帰れなくなる。送り狼になんなよー、と後ろから冷やかされてもちのろんと答えておいた。社内恋愛、わざわざ明かすのもなあということで取りあえず皆には内緒にしとく。田中くんにはばれてるけど…


「ミョウジさん大丈夫?歩ける」

「うん、歩ける」

「送ってくね、ミョウジさん何線だっけ」

「えっ!いいよぉ、わたしに付き合ってたら野原くんの終電無くなっちゃうよ?一人で、大丈夫」

「だめだめ、今日結構飲んだでしょ。それにもう時間だって遅いし、ミョウジさんの安全の方が大事」

「だいじょーぶだよぉ」

「ごめん、俺ね、酔っ払いの大丈夫は信用しない事にしてんの」

「ん〜」

「あっ!ほら、ミョウジさん結構フラフラ!」


ふら〜って壁に激突しそうになってるミョウジさんを慌てて支えると、ミョウジさんはまだへーきだよぉと強がっていて苦笑した。


「…あ、俺んち来る?なんて」

「へ、」


お酒のせいで元々顔赤かったけど、ミョウジさんは更に真っ赤になって潤んだ瞳で見上げてくるから、どきっていうか、むらっていうか、


「あ、だからといって変なことはしないよ!ほんとに!ただ、こっからだとミョウジさんちより俺んちの方が近いかなー、と」

「…ほんとーに、なんにもしない…?」

「大丈夫!ミョウジさんの嫌がる事はしない」

「…えへ、酔っ払いの大丈夫、信用してもいいのかなぁ」


思わず吹き出してしまった。でもミョウジさんはクスクスとおかしそうに笑って、大丈夫、もう恋人同士だもんね、と言った。…えっそれって、どういう意味…?



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