うーん、参ったなぁ。一応あれから毎日一品、納豆を使ったおかずをお弁当箱につめて出勤している。でもお弁当作りって結構時間いるし面倒だし、ミョウジさんはよく毎日お弁当作って持ってこれるねーと欠伸混じりに言ったら、ちょっと恥ずかしそうに実は今朝寝坊しちゃって、今日のお弁当は殆どお惣菜なのと言ったミョウジさんを思い出してのほほんとする。かわいい一面発見だよねぇ。ミョウジさんでも寝坊とかするんだ。じゃなくて、


「ああーん、今日のおかずが思いつかないぞー」


もう一通り作ってしまうとそろそろ献立に困る。しかもミョウジさんの反応はどれもイマイチ普通っていう…。でも最初の頃に比べたら大分抵抗なく食べてくれるようになった気がするから、やっぱり嬉しい物はあるんだよなー。昔母ちゃんが今日の夕飯どうしようかしらと頭を抱えていた気持ちが少しだけ分かる気がした。


「…よし、初心に戻るか」


最近はあんまり作らなくなってた納豆オムレツを久しぶりに作ることにした。そーだ、今日はアレンジにチーズ投入してみよ。なんとなく女の子はチーズ好きなイメージ。俺も大分手際がよくなってきたんじゃないだろうかと思う。くるんとオムレツをひっくり返してお弁当箱にインするなり冷めないように保温もしておいて。今日はチーズ入ってるから、会社着いたらすぐミョウジさんに食べさせてあげよ。たまには朝ごはんでもいいよね。


「というわけで、ほいミョウジさん、あーん」

「えっ、どういうわけ、あむ、っ」


ミョウジさんが出勤してくるなり俺はお弁当箱を開けてチーズ入り納豆オムレツをミョウジさんの口に押し込んだ。いきなりの事だったからミョウジさんはちょっとおどおどしていて、でもしっかりと咀嚼してからちょこんと手の先で口元を覆いながらぽつんと「おいしい」って呟いたから目を瞠った。え、いま、なんて?


「これおいしいね、野原くん」

「ほっ、ほんと、に?納豆入ってるよ?」

「うん、でもなんか、食べやすい。玉子もトロトロだね、すきだなぁ」


おおおお!はじめて、初めて、ミョウジさんが…!やっぱチーズかなぁ!

なんかもうミョウジさんが俺の作った納豆料理をおいしいと言いながら食べてくれるのがただ純粋に嬉しすぎて。今日は残業だって嬉々として出来ちゃう気がするぞ!とウキウキ気分で自分のデスクへと戻った。やーばい、今から仕事始まるってのに顔が引き締まらない。上司に叱られる前になんとかしないといけないのに、ちらりとミョウジさんの方を見たら彼女も俺の方を見て目が合った。ふっとにこやかに頬笑んでくれたのにますます表情が緩む。


「はあ、幸せすぎて怖い」


ぺったり机の側面に細をつけてニヤニヤが治まるまで待っていると、不意に隣のデスクから名前を呼ばれ視線だけをそちらにやった。同期の田中くんだった。でもあんまり話したことはない。


「お前とミョウジって、そういう仲?」


そういう?聞き返しても良かったけど、そこまで野暮じゃないから素直にそうだけどと頷いたら目を丸くして驚かれた。え、なに。思わず起き上がる。


「ミョウジ納豆食えねえじゃん」


なんでそれ田中くんが知ってんの。俺だってついこないだ知ったのに。


「うん、まぁ」

「お前はお前で、納豆好きな奴じゃないと付き合えないって有名な性癖もってるだろ?」

「いやいや、別に性癖じゃないし。でも納豆好きな子じゃないと付き合えないのは本当だからミョウジさんに少しずつ慣れてもらってる所」


田中くんが露骨に顔を顰めた。


「それってどうなの」


どうなの。って?は、


「それってお前のエゴじゃないの」


言いたいだけ言って自分の仕事に戻ってしまった田中くんに、ワンテンポ遅れてムカムカした苛立ちが胸の内で燻る感じがした。余計なお世話、と言ってやりたい所だけど、確かに一理ある。嫌なものを無理やり食べさせて好きになってもらおうっていうのは、確かにエゴかもだけど。彼女も最初食べるの嫌がってたけど。ねえミョウジさん、本当はどう思ってる?そう聞いた所で、優しい彼女はまた困ったように笑って黙ってしまうのだろうか。もう一回そおっとミョウジさんに視線を向けるけど、今度は暫く見つめてみてもミョウジさんがこっちを見てくれそうになかったので、俺も諦めて自分の仕事を始めることにする。でも目が合わなかったの、ちょっとだけ寂しかったりして。



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