誰でも結婚相手に求める絶対譲れない条件ってのはあると思う。俺の場合は、納豆が好きであること。好きじゃなくても、週に二三回は納豆食べる人がいい。因みに周りからはよくくだらねって鼻で笑われる。しんがいだ。物心ついた時からの拘りってやつでこれだけは譲れないなとずっと思っていた条件なのに、その大事な条件後回しにして先に彼女を口説いてしまった自分に今更ながら疑問符が湧いて仕方がなかった。何で、どうして先にミョウジさんに確認しなかったんだろう。


「納豆のなにがダメなの?」

「ネバネバ糸引くところ」

「糸引かなかったら納豆じゃないじゃん!」

「…だって食べづらいから。手についたらベトベトするし、口の中もずっとネバネバしてるし」

「あとは?」

「匂いも駄目、かな」

「確かに独特な匂いするけどさぁ」

「あとね、味も。少し苦味のあるところがちょっと」

「えー、苦味なんてないよー」

「わたし元々豆類が嫌いで」

「それは致命的だ!」


どうしよう。こうも納豆嫌いだとなすすべが…「うーん、どうしようかなぁ、うーん」ここまで納豆否定されるとは思わなかったぞ。はあ、と一つため息をついて、取り敢えずビールジョッキ半分くらい一気してから枝豆をつまんだ。ん?と彼女に枝豆の皿を持ち上げてみせるけど、ふるふると首を横に振って断られてしまう。あ、そっか、枝豆も豆類じゃん…


「ミョウジさぁん」

「うん、なぁに?」

「納豆たべよーよー」

「えー、やだよぉ」

「えええー」


口に卵焼きを運ぼうとして、ぽろりと落としてしまって酷く慌てた様子のミョウジさんが面白くて思わず小さく笑うと、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯くから可愛いなと思う。うん、かわいい。運命まで感じた子と折角両想いになれたのに、納豆が嫌いという理由だけで破局するのはさすがに馬鹿げてると自覚はしている。そう、だから、交際は普通にする。するけど、


「よし、じゃあミョウジさんが納豆食べられるようになったら結婚してあげる」

「何でそんなに上から目線なの」

「大丈夫、俺も手を尽くしてあげるからね!」

「え!納豆食べられないままでいいよぉ…」


若干会話が噛み合ってない気がするけど、アルコールが回ってきたせいかあんまり気にならなかった。んじゃあ手始めにさ、納豆チヂミ、いってみよっか。彼女がおどおどと困り顔で俺の腕を弱々しく掴むけど、既に遅く注文した納豆チヂミはすぐに運ばれてきた。ミョウジさんが眉を八の字に下げてうぅと呻く。おお、こんな嫌そうな顔を見たのは久しぶりだぞ…ちなみに前回はバーへデートに行ったら喫煙席しかなくて結構タバコの匂いが酷かった時。煙いし髪にタバコの匂いがつくと中々落ちないんだと苦笑いしたミョウジさんを思い出す。余談だけどあの時からタバコはもう吸わないって決めた。あれからご飯が美味しい。


「ほら、あーん」

「ぅ、や、やだ」


お箸で一口サイズに切ってミョウジさんの口元まで持ってくけど、躊躇った後にふいと顔を背けられてしまったので仕方なくぱくりと自分で食べた。うーん、駄目かあ。これなら納豆の匂いもネバネバもないし食べれるんじゃないかと思ったんだけど。これでも結構妥協したんだけどなぁ。あっ、でも食べさせようとしといてなんだけどイマイチかもしれない納豆チヂミ…

黙々と納豆チヂミを口に運んでいたら、ふとミョウジさんがしょんぼりした顔でごめんねと謝ったので、俺は箸をくわえたままきょとんとしてしまう。


「野原くん、寂しそうな顔して食べてたから」

「え…」

「食べられなくて、申し訳ない、です」

「…」


そんな風に謝られたら、俺はううんと顔を横に振ることしか出来ないわけで。彼女のこんな顔を見てしまったら俺の方こそ無理強いは出来ないよなぁと苦笑いしてしまうのだ。



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