「あっミョウジさんこれあげる」

「…納豆?」


納豆キャンペーン中で、シール集めて応募すると納豆おうじと納豆ひめのプリントされてるお皿とかタオルとかが貰える。ハズレの場合でも、納豆おうじとか納豆ひめとか、あとは納豆一家のシリーズマスコットがランダムで当たるんだけど。


「納豆ひめだけ来ないんだよねー。他は全部揃ったんだけど。ていうか王子以外ダブってるんだけどさ。やっぱレア補正かかってんだろーねぇ」

「…えっ、でも、これ、野原くんがわたしにくれるって言ってるの、納豆おうじだよ?」

「うん。そーだぞ」

「一つしかないのに、いいの?」

「…?一つしかないからミョウジさんにあげたいんだけど」

「…えへへ、そっか。ありがとー」


一つ嬉しそうな顔をしてミョウジさんは納豆おうじのマスコットを鍵に括りつける。これで納豆姫が揃ったら、ペアになるね。やっぱりどこか嬉しそうに言うミョウジさんに不覚にも胸の奥がきゅんとした。


「じゃあ俺、今日の昼休憩は後輩たちと食べることになってるから」

「うん、また後でね」



と、そのつもりだったんだけど、後輩にはドタキャン食らって一人で食べに行く気分でもなかったんで、今日はコンビニでおにぎりとサンドイッチの軽食で終わらす事にした。

てな訳で早めに部署へ戻りデスクの整頓をしてると不意に名前を呼ばれ振り向く。別の課の子、顔は分かるけどあんま接点は無いから名前は知らない。美人だけど性格がどこかネネちゃんと似てるから俺は勝手に桜田さんって呼んでるけど。そんな桜田さん(仮)が俺になんの用なんだろうと思っていたら、自慢げに何かを顔の前まで持ってきて小さく揺らした。そ、それはっ、


「納豆ひめっ?」

「ふっふっふ、実は私も納豆好きでさ、よく食べるんだよねえ。さっき偶然通りかかったら野原も集めてるらしいじゃん。しかも揃ってないの、これだけなんでしょ?」


欲しくない?そう、にんまりと桜田さんが微笑む。一つ間を空けてべつにと返そうとした前に、彼女は意地の悪い笑顔で「知ってる?このキャンペーン今週中で終わりなの。チャンス逃しちゃうよ?」と言うので口を噤んだ。こういう所がネネちゃんとそっくりなんだって。


「…で、交換条件は何」

「さすが分かってるねー野原!野原は当たりの商品、なんか当ててないの?」

「…マグカップとハンドタオルが当たったけど」

「イエスっ、じゃあマグカップとトレード」

「はいはい、乗った」


ぽとりと手に落とされた納豆ひめをまじまじ見つめようとしたら、桜田さんがずいっと俺の顔を覗き込んできたので咄嗟に一歩後退する。


「え、なに」

「野原、納豆好きな子としか付き合わないって言ってたらしいじゃん。専ら有名な噂だよ?」

「…で?」

「あたしとか、ど?」


ネネちゃんとそっくりさんだからパス!めっちゃこう返したかったけど何とかとどめて、はっと一つ失笑しながら取り敢えずいつもの質問を桜田さんにも聞いてみた。俺かしたら最早あいさつだけどね。


「お姉さん、納豆にネギ入れるタイプ?」

「あたしカラシ派だわ」

「ああごめん論外」

「…へ〜」

「…なーに」


意味深にニヤニヤと、なーんか気に入らないなぁと思ったらぐいとネクタイ引っ張られてぐえっと蛙が潰れたみたいな声が出た。「納豆嫌いなあの子は論外じゃないんだ?」耳元で囁かれた事よりもその内容の方が衝撃的で軽く目を見開く。ますます楽しそうに笑う桜田さんに露骨にも顔を顰めた。


「それ、どっから」

「なーかーた」

「ちっ」

「柄わるーい!まぁあたしは中田狙いだからどうでもいいんだけどね」


明日、マグカップ忘れないでよ。ぴっと指を差して釘を刺すなり、桜田さんは颯爽と去って行った。はあ。なんか、どっと疲れが。いくら納豆好きでもああいう性格の強いタイプはどうもなぁ。苦手かも。

そんな彼女から納豆ひめを譲ってもらったってのはなんか癪だけど、どうしてもミョウジさんとペアにしたかったんだよー。よく見ると可愛いし、納豆ひめ。ていうかどことなくミョウジさんに似てる気がする。この控えめに笑ってるところとか、おっとりした雰囲気がどことなく。


「いやあ、可愛いよなぁ」


納豆ひめ見てたらミョウジさん思い出してきた。早くお昼休憩から戻ってこないかなぁ。とか思いながら、暫く一人でにやにやしてたけど、結局ミョウジさんは休憩時間終了ギリギリになるまで帰って来なかったから珍しい。声掛けられなかったけど、いっか、仕事終わりにもう一度話そう。



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