内容自体はすっごくくだらない事だった。今日はたまたま二人とも早めに出勤して、いや正確にいうとミョウジさんはいつも早めの出勤だから俺が珍しく早かったわけなんだけど、まだ時間あるからゆーっくり二人で語って、美味しいお店見つけたんだー、とか、この前かわいいスカート買ったのー、とか、他愛のない話をしていた。

んで、まあ、なんでこんな喧嘩になったのかは、正直あまり覚えていない。ただきっかけは本当に小さなことだった。例えばでいうなら犬派?猫派?みたいな感じで、そういう何派なの〜から2人の意見が割れてお互い譲れなくてどんどん話がズレ気付いたらお互いの悪い所の言い合いで喧嘩になった。「野原くんって強情だね」「ミョウジさんこそ、そんな意地っ張りなんて知らなかった」その会話を最後にふんっとお互い顔を背けて、そこからは沈黙だ、沈黙。もう一度言うけど、喧嘩の元々の原因はほんっとにくだらなかったはずなのに、どうしてここまで大きな喧嘩になっちゃったのか解せない。ただ一つ分かったのは、あの温厚なミョウジさんでも怒ると大きな声を出して本音が言えるということ。当たり前のことなんだけど、もうそういう言いたい事は遠慮なく言える仲になれたんだなって、ミョウジさんの新しい一面が見れて嬉しい気がするとか場違いなことを少しだけ思った。


でも今回のことは俺悪くないからね!ミョウジさんから謝ってくるまでぜーったい折れないぞ!ていうかあれだ、ミョウジさんの言った「大体納豆が食べれないと結婚は無理なんて考えやっぱり変だよね!終わってる」という発言に一番むっかぁときた。なんだよ、確かにそうかもだけど今それ関係なくなくないっ?今言うことじゃないよねえ、じゃあもう別れますか?そんなに嫌なら、と言いかけてやめた。何故なら、俺はそれで本当に離婚問題の危機になった人たちを知っている…


みんなが続け様に出勤してきたので俺もぷんすかしたままデスクにつきあれこれ準備を始めて、そのままデスクワークを始めるけど頭に浮かぶのはミョウジさんへの苛立ちが殆どだった。あー全く、腹が立つ。ミョウジさんて意外と強情というか意地っ張りというか。ミョウジさんと初めての喧嘩は絶対納豆絡みになると思ってたから、今回は予想外すぎて割と自分でも面食らってる。

ちらり、ミョウジさんの後ろ姿を捉えて改めて考える。ミョウジさんて、本当は俺のタイプと違うんだよねぇ。ミョウジさんは前にも言った通り真面目でおとなしくて、地味で目立たなくて。仕事もよくちっちゃいミスして怒られてるし、それですぐ落ち込むし。押しに弱くて自分の本当の気持ちは言えない、でも喧嘩すると意地っ張りで譲らないし結構根に持つタイプ。特別かわいい訳でもなくて、納豆が嫌い納豆が嫌い納豆が嫌い。大事な事だから三回言ったぞ。こんなふっつーの女の子のどこがいいんだろうとか、改めてそう思っちゃうんだけど、


「(でもやっぱり好き、なんだよなぁ)」


仕事中、どうしてもミョウジさんを目で追いかけてる自分がいる。それを田中くんに見られていたようで、ミョウジじゃなくて取引先の情報を見ろと丸めた資料で頭をはたかれた。ひどいぞ。





「…ふーっ、お昼だお昼ー、お腹減ったぞー」


すっごい今更だが、俺は別に毎日納豆を持ってきて毎日ミョウジさんとお昼を食べている訳ではない。最初の方はそんな事もあったけれども。さすがに毎日納豆食べさせんのは可哀想ってちゃんと分かってるぞ、言っとくけど。最近はコンビニ弁当持ってミョウジさんと食べるのが殆どかな、あとは時間の都合とかで一人で定食を食べに行ったりが多い。

今日は納豆もってきてないし、喧嘩しちゃったし、いつもんとこで食べるかーと思って廊下を歩いていたらいつのまにかミョウジさんが並んで歩いていてぎょっとした。


「…お腹すいたねー、野原くん」

「んっ?え、あぁ、うん」

「野原くん何食べるの?」

「いつもの」

「そっかぁ、じゃあ私もそれにしようかな」


え、あれ?なにこれ、「ミョウジさん一緒に行くの?」思ったことをそのまま尋ねれば、ミョウジさんはきょとんとした顔でこっくり頷くので分からなくなる。この空気は一体なんだ。


「…あのさぁ、俺たちって喧嘩してたんじゃなかったっけ」


なんか釈然としなくて直球にそう聞くと、ミョウジさんがちょっと悲しそうな顔をして言った。


「喧嘩してたら、一緒にごはん行っちゃいけないの?」

「えっ」

「じゃあいいよ、一人で食べるね」

「うそうそ!一緒にいこ」


しょんぼり回れ右をした彼女の腕を咄嗟に掴むけど、ミョウジさんは依然としょんぼりしていたので罰が悪くなる。

微妙な空気と居心地の悪い沈黙にそわそわ落ち着かない。ミョウジさんは今、何を考えているんだろう。そろりと彼女の横顔を覗き見て、あっと不意に思い出した。


「ミョウジさん今日、お弁当は?」

「…作ったんだけど、持ってくるの忘れちゃって」


ああ、嘘なんだろうなあ、って、なんとなくそう思った。だってミョウジさん、昨日俺に明日食べたいおかず作ってあげるねって、嬉しそうに聞いてたもんね。とか、嘘ついてまでお昼を一緒に食べようとくっついてくるミョウジさんの心境を想像したらめちゃくちゃ可愛くて、愛しくて。ああ、すきだ。俺のタイプとは違うけど。やっぱりミョウジさんが好きだよ。



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