「んっ!あ、野原く、たすけ、てっ」


ねばねば、何故か全裸のミョウジさんに絡まるのは納豆、納豆、納豆。艶かしい声を出しながら、ミョウジさんがポロポロとまぁるい涙を零して真っ直ぐ俺へと手を伸ばした。ねばねば。納豆の糸がミョウジさんの全身に絡みついている。合間から見える白い柔肌にごくりと無意識にも唾を飲むと、俺はおもむろにミョウジさんの方へと腕を伸ばした。手繰り寄せればぶちぶち簡単に糸は途切れて。そのまま泣いてる彼女を抱き寄せる。納豆の呪縛から解放されたミョウジさんの身体はちょっとぬるぬるのベタベタでそれでもって柔らかくて、納豆よりもおいしそーだった…


「はっ!」


朝、とんとんとんってまな板の音がして目が覚める。むっくり起き上がるとなんだかいい匂い。…ミョウジさん?と寝ぼけた頭と掠れる声で彼女を呼ぶと、俺の顔を見るなり頭を下げて謝るから一気に目が覚めた。


「野原くん、昨夜は、本当に、本当にご迷惑おかけしました」

「いやいやいや!そんな深く謝らないで、顔上げて!」

「あと、台所勝手に借りてます」

「お、おう、別に構わないけど」

「野原くん本当に昨日はごめんねっ!帰らなきゃって分かってたんだけど、勝手に寝ちゃ駄目ってちゃんと分かってたのにー!」

「だいじょぶだから!落ち着いて!」

「ごめんね…いま朝ごはん作ってるから。お口に合うかわかんないけど」


そう言って苦笑しながら、ミョウジさんはまたとんとんとまな板の上で食材を切る。自分の服に着替えて髪を後ろで一つにまとめて、エプロンをしながらお鍋をコトコトさせるミョウジさんの後ろ姿に暫し見惚れていた。あ、なんかこういうの、いいなあって、思ってたら不意にミョウジさんがこっちを向くのでびっくりする。


「そういえばね、野原くんちがこんなにも納豆だらけだから悪夢見たんだよー」

「へっ?」

「納豆に襲われる夢」


そう言われて思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。そして一気に脳内に駆け巡ったのはさっきのあの光景。…そうか、あれ夢か…っていうか同じ夢っ?


「へ、へー、どんな夢だったの?」

「納豆に後ろから羽交い締めにされてね、いやいやって首振ってるのに無理やり納豆食べさせられる夢だったんだけど」

「…あっ、そういう感じ?」


だよねー。ミョウジさんの悪夢といえばそっち系だよねえ。妙におどおどする俺を、ミョウジさんが不思議そうに首を傾げたので苦笑する。俺の夢はさすがにいかがわしすぎだもんなぁ。だってミョウジさん全裸とか、絶対昨夜のあれだよなぁ…納豆クッション抱きしめつつパンツ見せて寝たりするから。しかしけしからん夢だった。白くてぬるぬるで涙目で…あ、やばい、なんか思い出してきたら、…やばい、!


「野原くん?顔赤くない?」

「んんっ?何でもないぞー」


顔を覗き込んできたミョウジさんから咄嗟に顔を背け布団を深く被った。やっべ今絶対布団から出れないわ。そしてミョウジさんの顔を直視できない。なんでって?今朝の夢を思い出すからだよ!なんであんな不埒な夢見てんだよと自分にげんなりする。これは休日に見るべき夢だった。


「…あのね、やっぱり昨日は野原くんが居てくれて助かった」


じゃないと、二次会まで着いてっちゃったかも。おたまを持ったままくるりと振り返って苦笑いを零すミョウジさん。ミョウジさんはねえ、もう少し自分に素直になってもいいと思うぞー。それとなく伝えると、ミョウジさんはますます眉尻を下げて笑った。じゃあ、もう納豆はいや、です。わあわあ冗談だぞー!これからこういう飲みがあったときは俺が毎回着いてってあげるね!なんて会話を交えている間にも、着々と朝ごはんの支度が進んでいく。


「…あのさあ、野原くん」

「うん」

「…昨日、本当にわたしに何もしてない?」


本日二度目で激しくむせた。ていうか、言葉にも詰まった。「ふっ、へ、な、なんでえ?」とか、声は裏返りまくりの挙動不審でミョウジさんが小さく吹き出す。


「ふふっ、野原くん、分かりやす、」

「…そういうミョウジさんこそ、覚えてないの?」

「…へっ?」


ばっ!と、ミョウジさんが大慌てで服を摘み胸元を確認するので喉の奥で笑ってしまう。「えっち、そーゆー事はなんもしてないぞ」からかうような素振りで言ってみると、ミョウジさんは瞬時に顔を赤くしてバカ!とぼやくのでかわいい。


「だって朝起きたら野原くんのスエット一枚で下なにも履いてなかったんだもん」

「下はミョウジさんが暑いとか言って着てくれなかったから」

「ううっ、そう言われると、そうだった気が…」


まあキスみたいなのはしたけど。とは言わないでおこう、うん。とか思ってたら「んー、じゃあやっぱりあれは寝ぼけてたたのかなぁ」とか訝しげに首を傾げるのでぎくっとするけど、多分、見透かされてた。


「野原くん、もうすぐご飯出来るよ」

「んー、あんがとー。顔洗ってくるね」


ちらりと机上に目をやると、ふつーに朝ごはんって感じの食卓で、俺のとこだけに納豆おいてあって。「今朝は一緒に出勤だね」とはにかんだ彼女に、こういう朝って、やっぱりいいなあとしみじみ思った。

あ、因みにミョウジさんには折角だからツナマヨ納豆チーズを熱々ご飯にかけて食べてもらった。意外とおいしいね、納豆が無ければ最高においしいと言っていたけど、残さず食べてくれたから良しとする。



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