まさか、このおんぼろアパートに彼女を連れてくる日が来るとは。


「はい、ミョウジさんここ段差だよ、気を付けてね」

「んぅ、おじゃまします」


取り敢えず水を一杯入れて彼女に手渡す。あ、やべ、今日布団引きっぱなし…


「ごめんね、汚くて」

「うーうん…野原くんのお家、納豆だらけだぁ」


きょろ、きょろ、と辺りを見回してからミョウジさんが呟く。夜風に当たって少し酔いも冷めてきたらしい。ミョウジさんがへらっと微笑しながら納豆クッションを手に取った。最近は大量に納豆を買っていたこともあって色んなキャンペーンによく当たる。自然と納豆グッズが増える、そんな原理。


「これね、中にちっちゃい納豆がいっぱい入ってんの」

「ふふっ、なにこれ、かわいー」

「でしょ」

「こっちは?」

「こっちは納豆の匂い付き抱き枕」

「わあっこれはダメだぁ」

「くっくっ、納豆ちゃんのぬいぐるみとかあるよ」

「あ、意外とフワフワしてる」


ミョウジさんはその辺に転がっていた納豆グッズに興味津々で、時折微笑みながらそれらを触ったり抱きしめたり。…かわいい、じゃない、


「ミョウジさん、俺着替え用意してくるから、適当に寛いでて。あ、洗面所あっちね、顔洗いたかったらどーぞ」


とてとて指差した方へ歩いてくミョウジさんを傍目に、俺はタンスの方へと向かい引き出しを漁る。お、あったあった。予備のスエット、持ってて良かったーと彼女の所まで戻ってきて固まった。


「ミョウジ、さん…?おーい」


ね、寝とる…しかも俺の布団の上で。納豆ちゃん抱き枕にしながら、…寝てる。


「…はっ!」


思わず凝視してしまったけどいかん、捲れかかってるスカートから伸びてる足を見てる場合じゃない。


「ミョウジさん!起きて、着替えないと皺になっちゃうよ!」

「う、ん」


渋々、起きてくれたミョウジさんにスエットを渡して一度水を飲みに台所へ行った。頃合いをはかってミョウジさんの元まで戻ってきて、また目を瞠る。


「なんで下履いてないのっ!ミョウジさーん!」

「…あつい、から」

「もー!そんな無防備じゃ、襲っちゃいます、よ!」


じ、とミョウジさんの顔を覗き込むけど、既に瞳は閉じられて長いまつ毛しか伺えない。あー、ミョウジさんお酒入るといっつも眠そうにしてたもんなぁ。ていうか、パンツ丸見え、


「…」


これは据え肝、だよなぁ。確かにお持ち帰りしちゃったのは俺だし何もしないって約束したし、なんもしないつもりだったけど。けど本人はこんな無防備に太ももどころかパンツも見えてる状態で寝てて、こんなの襲って下さいって言ってるようなもんで、


「…たべちゃおっかなぁ」


いや、いやいや、でも本人寝てるしなぁ。とか葛藤しながら、そっとミョウジさんの隣に寝そべって頬を撫でた。熱を孕んでいて、まだほんのり赤い。んー、おいしそーなんだけどなぁ。親指でなぞるようにして触れるとくすぐったそうに身をよじる彼女が愛しい。


「…」


すぅすぅと寝息を立てるミョウジさんの唇に、ちょんと触れるか触れないかだけのキスをして離れた。


「…ごちそーさま」


今夜はこれで許してあげよう、うん。「さーてと、俺はリビングで寝るかぁ」ぽんとミョウジさんの頭を一撫でしてから、風邪を引かないように布団をかけた。…ふう。あーあ、目に毒だった!誰だよ今意気地なしとか言ったの。俺なりの優しさだよ!

ずるずる自分の布団を引っ張って部屋を出ようとすると、不意にミョウジさんがありがと、と囁くように笑ったので心臓止まるかと思った。



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