「ナマエ、何処へ行っていた」

「んー?姫さまへ会いに」

「嘘を吐くな。どうせまた宮廷画家の所に行っていたのだろう」

「…分かってるなら最初から聞かないでよ」


あー、もう、メンドイって。そう適当にあしらって横切ろうとすればすかさず手首を掴まれて阻まれる。分かりやすく溜息を吐くと、防衛大臣はより一層目付きを鋭くさせながら静かにわたしを睨んだ。


「ふん、あんなハゲ親父の何処が良いんだ」

「おじさんはハゲてないもん!少しオデコが広いだけだもん!!」


必死になっておじさんを庇うわたしが気に食わないのか、防衛大臣がジトっとした目でわたしを見遣りながらチッと舌打ちをする。柄悪いな。そういうの良くないよ防衛大臣。


「おじさんの良い所なんて山程あるんだからねっ」


ああ見えてパッチリ二重な所とか、良い年して嬉しい事あると直ぐ目をキラキラさせちゃう所とか、直ぐに照れて顔赤くする所とか。あとは基本敬語なのにたまに口調が砕ける所?ギャップ過ぎて胸がギュンってする。わたしの事ちゃん付けで呼ぶ時の柔らかい声とか最高じゃんねぇ。なんて、おじさんの魅力について語り始めたらキリが無い。わたしはおじさんの事だけで論文書ける自信あるよと、本人を目の前にして頬を染めながら言った事がある。たまたま居合わせてた食料大臣(兄)にドン引きの眼差しで見られた気がしたけど多分気のせいだろう。


「おじさんってばドジでね、この間も地上でオデコぶつけたって、大きな絆創膏貼ってて」


ふふ、でもそこが可愛いんだよね。と、ついこの間の事を思い出して嬉々と話していると、みるみる内に防衛大臣が不機嫌になっていくのでつい言葉を止めた。うわ、凄い顰めっ面。自分で聞いて来た癖に、いざ惚気られるとムカつくらしい。それは視線だけで人を殺せる奴だと。睨まれながら思った。


「そ、そんな怖い顔しないでよ。何処が良いのかって、聞いて来たのは防衛大臣じゃん」

「…それはそうだが」


何でそこまでわたしに執着するのか。こうして防衛大臣と言い合いをする内に嫌でも察してしまった。流石に、そこまで鈍感では無いよね…半信半疑ではあるけど。ふう、と、疲れた様に溜息を吐けばまたもや刺す様な視線を感じてつい彼の方を一瞥する。何故だか防衛大臣はそこでジンワリ頬を染めて、口をもごつかせながらポツリとわたしの名前を呼んだ。


「あー、その、…ナマエ、ちゃん」


ビックリし過ぎて目ん玉が飛び出るかと思った。防衛大臣にちゃん付けで呼ばれるのは違和感しか無くてヒクリと表情が引き攣る。


「…突然どうした?」

「目なら私だってパッチリ二重だし宮廷画家よりも髪はあるし背も高いと思うのですが」

「うん、そうだね。何なら声もイケボだから防衛大臣は普通に容姿端麗なイケメンだと思う」

「そうでしょうそうでしょう!なのに何故、何故私では無くて宮廷画家なのですかっ…、」

「さっきから何その喋り方、変だよ」

「…」

「ちゃん付けで呼ぶのも、わたしに向かって使う敬語も、防衛大臣には似合わないよ」


そうハッキリと告げればキュッと唇を噛んで、途端に悲しそうな顔をする。じゃあ、と、防衛大臣が真っ直ぐ過ぎる程の強い目力でわたしを射抜いて来るから。その真剣さに当てられて何だかしんどかった。


「じゃあ、どうしたらナマエは私を見てくれるんだ」

「…ごめんね、防衛大臣」


わたしはおじさんが大好きなんだ。と、防衛大臣の顔を直視出来なくなって、視線を逸らしながら胸の内を彼に明かした。容姿だけが全てじゃない。おじさんは所謂イケメンでは無いけれど、わたしにとってはイケおじ100点満点だった。ナマエってばおじさん趣味なの?とか、石器ちゃんに揶揄い混じりに聞かれた事もあるけどそういう訳でもない。おじさんだから、わたしはここまで彼を好きになる事が出来たのだ。わたしが悲しい時はいつだって隣に居て慰めてくれたし、わたしが嬉しい時はまるで自分の事の様に喜んで一緒に飛び跳ねてくれる。わたしに寄り添いながら、合わせてくれながら、共に一喜一憂してくれるおじさんを好きにならない訳がなかった。おじさんの容姿一つ一つに愛おしさを感じる様になったのはその後だ。不意に目が合った時、緊張したみたいに瞬きをするパッチリ二重が可愛い。直ぐ逸らされちゃうけど、そこがまたわたしの恋心を擽ってこそばゆかった。その広いオデコも、ふざけてキスするには丁度良くて好き。貴女はまた!揶揄わないで下さいっ!てしょっちゅう怒られちゃうんだけど。しないとそれはそれでチラチラこちらを見て気にするから吐血しそうになる。ほんと、可愛いんだよなぁ。またおじさんの事を思い出して表情を綻ばせるわたしを見て、防衛大臣が「っ、」と息を呑むのが分かった。カツカツ。靴音を鳴らしながら近付いて来るのに気がつき、本能的に後ずさりする。


「ぼ、防衛大臣…?」


その内壁際まで追い詰められてしまい背中の方がヒヤリとなった。「…私の事を見てくれないのなら、無理やりにでもこちらを向かせるだけだ」顔の両側にトン、と、手を付かれて追い詰められる。わたしを見下ろして来る青い綺麗な瞳から目を逸らす事が出来ない。そのままゆっくりと迫って来る防衛大臣の顔から逃げるみたいに、ズリズリと壁を引き摺りながら力なく床へとへたり込んだ。


「やっ、やだ、」


どこまでも追いかけて来る視線と唇に耐え難くなって俯こうとすれば、すかさず顎を掴まれて強引に上を向かされる。今にも泣き出してしまいそうな。悲しげな色を纏って揺れる瞳と目が合ってしまい、思わずわたしまで泣きそうになってしまった。


「っ、ぼうえいだいじ、」

「好きだ、ナマエ」


好きなんだ。お願いだから、アイツではなくて私の事を見てくれ。そう熱っぽい声色で囁くから火傷しそうになる。泣いて縋り付こうとする唇を避けきれない、そんな自分が不甲斐なくてじんわりと涙が滲んだ。



20230220


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