「スノウマンぱぁ」

「ス・ノーマンパーだっつってんだろうが」


ほんとおまえ学習能力ないな。とか言って毒吐いてるけど、最近は私専用のこの呼び方に満更でもないらしいことを知っているので大して気にならない。ただし今でもすのーまんぱーと呼ぶとキレる、めっちゃ、キレられる。こいつの拘りはようわからん。よいしょ、とまん丸雪だるまの隣に腰掛けると、すのうまんがさり気なく体温を上げた。多分、出来る限りの温度ギリギリまで上げてくれたのだろう。口にはしないけれど。それでもヒンヤリと肌を掠める冷気に私は彼の存在を実感する。


「で、どうした」

「すのうまんが明日から出張サービスさようならって聞いたから」

「ふーん、お見送りってところか」

「うん」

「んなの数日で帰ってくるからまたすぐ会えるっつの」

「分かってないなー、私はその数日でさえあなたと離れるのが寂しいんじゃない」

「お、おぉ、珍しく可愛いこと言うじゃねぇか。どうした」

「えへへ、どきっとした?」

「さぁな」


大人しくああって頷けばいいのに。うちの雪だるまさんはそれなりにクールだ。私は割りと初期の方からマカオ様とジョマ様に仕えていたから、この雪だるまが王子さまだった頃の姿も魔法に掛けられた時のことも知っている。王子さまの時はとてもイケメンだった。なにもこんなまん丸ボデーにしなくてもと最初は不満に思っていたものだ。いくらクールにったって冷たすぎだっつの、寒いわ。せめてもう少し原型を取り留めてくれてたらなぁ、私の好みにバッチリだったのに。

なんて、すのうまんは明らかに私の恋愛対象外だった。特に見た目が。それがいつの間にここまで入って来てしまったのか。さり気ない優しさとか偶に見せるクーデレにあ、意外に可愛いかも、とか、案外思ってしまうものなのね。

ぴとり。座る位置をもう少しすのうまんに寄せると、ビミョーに温度の変化が起きる。一瞬数度だけ下がったけどすぐ元に戻ったので気にしない。調子に乗って今度は完全に肌をぴっとりくっつけてみた。また温度の波が起こる。けれど今度は下がったまま。縮まった距離もあってさすがに少し寒くて、無意識にも手を二の腕にやりぎゅうと抱き締めると元々苦い顔付きのすのうまんが更に苦々しく顔を顰めた。


「ばかおまえ、近すぎだ、さみーだろ」

「うん、少し」

「なら離れろ」

「いや、すのうまんの隣がいい」

「…ったく、ならもう少しあったかそうな格好をだなぁ」

「そう思って今日はちゃんと上着持ってきたの!」


じゃーん、得意げに引っ張りだしたのはカーキ色のジャケット。着込むと幾分かマシになる。少し獣臭のするジャケットを見たすのうまんがまたあからさまに眉をひそめた。


「おい、それ」

「クレイジーに借りてきうっわさむ!ちょ、寒い、寒い!」


それはもうぐんと、一気にすのうまんが体の温度を下げたので堪らない。上着の襟元を掴み首を竦めるけど気温は下がる一方だ。


「駄目だよすのうまん!脱がせたいなら熱くさせないと!それ逆効果」

「うるせー!」


とか言いつつ、徐々に温度が上がってきたのを感じたけれど、それ以前に私は限界だったので数メートル程離れる。あぁ、お日様の光がポカポカ暖かくて幸せ。ちらり、すのうまんを一瞥してみると彼は真っ直ぐ前を向いたまま無言だった。私の方なんて見ようともしない、さっきはあんなに取り乱したくせに。

すのうまんぱぁっていつもはクールだけど、偶にこっちがビックリするくらい優しかったり慌てだしたり怒ったり、意外と表情豊かだよねなんて話をこの間チョキにしたら、呆れた面持ちで「それは相手がナマエだからでしょ」と返された。え?ぽかんとマヌケ顔を晒すとチョキは「さすがに好きな子相手だと余裕ないんじゃない?」と続けて私はその場で赤面。ついでに思い出した今もまた赤面。


「おい、どうした」

「へ、何が?」

「顔、あけぇじゃねぇか、そんなに寒かったのか?」


少し、心配しているような口振りだった。一応自分が悪いという自覚はあるらしい。心臓がきゅんと疼いて苦しくなった。たったこれだけの事で、私は嬉しくなってしまうから本当に単純である。赤い顔のまんま黙ってすのうまんぱあの隣に座り直した。


「ううん、大丈夫」

「…まだ寒いか」

「ちょびっとだけ」

「しゃーねーなー、埼玉まで行くついでに、寒がりなナマエちゃんに俺様が特別モコモコセーターでも買ってきてやんよ」

「…!白いのがいい!」

「おう、とびきり可愛いやつ選んでくるからな、そしたらもうそんな枯葉色のジャケットなんてダサくて着れねーぞ」


枯葉色。すのうまんのその言い方が可笑しくて思わず吹き出してしまった。何にツボってんだよ、その言葉にまた笑いが止まらなくなる。だって、言い方、かれは色、って。はー、沢山笑ったら少し温かくなってきた。またすのうまんの側に座り性懲りも無く距離を詰めればひやひやとした空気に晒された首がスースーする。


「今はまだ無理だけど、もう少し暑くなったらもっと近寄れるね」

「ハグとかしてみるか」

「したい」

「…冗談だっつーの。本当にんなことしたらナマエ、おまえカチコチのガッチガチになんぞ」

「分かってるもん。言ってみただけだよ」


夏とはいえ、すのうまんは自身が溶けてしまわぬよう体温だけは今と同じ低温に保ち続けるのだろう。どう頑張っても、ハグどころか触れることさえ一生叶いそうにないから切ない。けれどいくら彼自身が冷たくても、熱い夏の熱気の中にあるすのうまんの冷気は、今より絶対心地いい物になると信じているから。


「すのうまん」


雪で出来ていない、海苔みたいな彼の唇にそっと口付けるとたちまち慌て出した。無表情な事が多いその顔が今私のせいでわたわたしている。雪だるまなのに、可笑しくもすのうまんからは湯気が出そうな勢いだった。


「おい、なんだこれ、体中が熱くて堪んねぇぞ」

「…ダメだよ、溶けたら」


私は、あなたが魔法に掛かる前の姿を知っている。とけちゃったらあなたはまたあのお姫様のところへ戻るのでしょう。ねえお願い、ずっとそばにいて、すのうまん。蚊の鳴くような細い声で頼めば、彼は意図も簡単にあっさりと承諾した。


「当たり前だバーカ」



ー雪だるまの記憶ー


(あぁ、嘘つき)


20150819

魔法も、雪も、私たちの気持ちも、全てとけて無くなってしまったじゃない。


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