「ナマエ、そろそろ俺の女になる決心はついたか?」 上から目線で偉そうに言うその口を縫い付けてやりたい。またか、うんざりとした面持ちで辛辣にけなすけれど、この男には全く効いていないようなのでため息しか出ない。 「私を君の女にしたいのならまずそのうざったい長髪をなんとかして来い。あと私自分より背が低い男はイヤ」 「だってお前ヒールじゃん」 お前こそ中ヒールだろうが!思ったが口にしないのはこの男が中々の暴力魔だからである。中で上げ底されてる靴っていうのはじっと見れば直ぐに分かるもので、以前冗談交じりに茶化したらガミガミ怒り出した上平手打ちが飛んで来るっていう。勿論ビンタし返してやったが、出来ればもうあの時のような惨事にはしたくない。バレルそれ絶対好きな子にする態度じゃない。 「まあ俺みたいないい男に告られてツンデレになるのも分かるけどよぉ、いい加減素直になれよ」 「あれ、私いつからツンデレ属性になったのかなぁ。もう自分の気持ちはとっくに伝えてるつもりだけどこの際はっきり言うね!私バレル嫌い」 「ふっ、嫌よ嫌よも好きのうちってな。可愛い奴だ」 恐ろしい程噛み合っていない会話に終止符を打つべく無視してやると「照れてるのか?」とニヤニヤし出す。冗談は上げ底でも改善されないその身長だけにして欲しいものだ。だがここで突っかかってもバレルが喜ぶだけなので我慢して無視し続けると、さすがにむっときたらしい彼に手首を掴まれ引っ張られた末に顎を鷲掴みされて驚く。 「ちょっ、」 「ナマエ、お前無視すんなよ」 ふと、バレルが哀しそうに目を細め私を見たのにうわと思った。正直、私はバレルのこの顔に弱い。今まで強引で俺様だった態度が急にしおらしくしゅんとするこのギャップが駄目だ、不覚にも可愛いかもとか思ってしまう。言葉に詰まりながら口をパクパクさせていると、不意に後ろから足音。その存在に気がつきバレルがそっと離れたのにホッと息をついた。 「ナマエ、拷問開発班が呼んでいる。なんでも試作段階の拷問を受けてみて欲しいとの事だ」 「あ、うん、分かった」 振り向くとブレードがいてそう言われた。まだ気分が落ち着いていなくて半分上の空で頷いてから、うん?と思い返す。 「待って、拷問の試作って?え、私を実験台にするって事?」 「まぁそんな感じだ」 「普通にやだよ、何で私なの」 「若い女に効くかどうか見たいんだろ。危険なことは何一つないと言っていたからお前は棄権せずに行ってこい」 さり気なく含まれたダジャレにブレードがいつも通り爆笑し出す。私は、唐突にダジャレを言う、爆笑し出す、すぐまた無表情に戻るという一連の流れと、ぽかんと口を開け呆れ顔をするバレルやママの反応が結構好きだったりする。だから今日も。「…ふふっ」ついつられて笑ってしまうと、ブレードとバレルが驚いたように私を見た。 「え、お前何で笑ってるの」 「だって…ふふふ」 「面白いか」 「うん、面白い(ブレードたちが)」 「ナマエ、お前って変わってる」 でも好きだ!そうつけ加えてきたバレルをはいはいと軽く躱し二人の間を通り抜ける。反応うすっ、と視界の端でバレルが呟くけど聞こえないフリ。「じゃあ拷問開発班の所行ってくるね」ひらひら手を振るとバレルがああと相槌を打ったので完全に背を向けた。拷問ってどんな種類の所物なのだろうか。痛くないといいな。でもそれじゃ拷問にならないか。なんて考えを巡らせながら、私は長い廊下を歩いていく。 「…おいブレード」 「なんだ」 「なに顔赤くしてんだよ」 「してない」 「初めてダジャレ笑ってもらえて嬉しかったんだろ」 「…」 「ナマエは渡さねえぞ」 「…ふ、お前は相変わらずナマエへの愛変わらずだな」 「ダジャレはもういい、笑うな!」 * ナマエ様は下っ端の俺たちにも優しい。とても可愛くて可憐で、正にブタのヒヅメの紅一点、と言っても過言ではないだろう。 「あの、拷問の試作になって欲しいって言われて来たんだけど」 一体どんな拷問なの?可愛らしく小さく首を傾げたナマエ様に、まずはお入り下さいと部屋の一番億まで案内して差し上げる。上からの指令に従いナマエ様の細い手首に鎖を括り付けると、ナマエ様が不安そうに俺のことを上目遣いで見てきたのでときめく。か、わいい。 「何の心配もいりません、今回は精神的ダメージを与える拷問ですので、痛みなどは一切ありませんよ」 「精神的ダメージ?」 「ええ。では始めますので、あちらに映るモニターを見ていて下さい」 くるりと背を向けた直後、くいと服の裾を引っ張られたので咄嗟に振り返る。案の定俺の服をちょんと摘まむナマエ様に見惚れていたら上司に何してる早く来いと注意された。いやでもこの動作は、くる、振りほどけない。 「あの、ナマエ様?」 「やめてって言ったら、途中でやめてくれる…?」 なんなんだこの初めての夜!みたいな言動、萌え死にする、ときめきすぎて死ぬる。可愛い。 「いっ、一応、30分で終了する予定ですので、それまで耐えて頂ければ。今回の目的は拷問の反応を見ることなのでっ」 「もし耐え切れなかったら?」 「その時は重要機密の代わりにナマエ様の秘密を口にして頂きます」 「え、特に秘密という秘密は持っていないのだけれど」 「身長体重スリーサイズのサンセットでも構いませんよ」 「わー、やだー」 「まあ30分なんてあっという間ですから」 ナマエ様はまだ少し表情を曇らせていたが、俺は気づかないふりをして席に戻る。キーボードを叩き操作すると上司が「それでは始めます」と一声掛けた。緊張からか、ナマエ様の肩が僅かに強張っている。 「ミニスカポリス」 「はっ、ミニスカポリス!」 かたかたとキーボードが鳴りモニターに映るナマエ様の服がミニスカポリスになったのに、彼女は唖然と固まっていた。モニターの中ではナマエ様の意思とは逆にくるくる銃を回し始める。 「えっ、え?なになに、」 「次、セーラー服」 「はっ、セーラー服!」 「わわわわ、!」 「次、メイド服」 「はっ、メイド服!」 メイド服に切り替えて、思わずモニターを食い入るように凝視してしまう。うわ、これはヤバイ、可愛すぎるだろう。ご主人様と呼ばれたいところだが、音声システムはつけられていないためメイド姿で萌え萌えきゅんのポーズをとるだけにとどめられている。ナマエ様は漸くこの拷問のやり方に気付き始めた頃で、様々なコスプレと中々過激なポーズをとるモニターに頬を薄く染めていた。それがまたいい、初々しい。「次、ナース」「はっ、ナース!」本当、ナマエ様は何を着ても様になるな。 「次、チャイナ服」 「はっ、チャイナ服!」 スリットから伸びた足がナマエ様の物ではないと分かってはいるが、ナマエ様の体質と似たものを合成させているため実際こんな感じなんだろうなと思うとドキドキした。個人的にチャイナ服自体が好きな為もう少しこの状態のナマエ様を目に焼き付けておきたかったのだが、「次、バニーガール」と指示され後ろ髪を引かれながらも切り替える。バニーはエロ可愛かった。因みにこれらの衣装は次第に布面積が減っていくタイプである。じゃなきゃ拷問にならないだろうという上司に同意。素晴らしい! 「んっ!ちょ、やだやだ、際どい!や、やめてっ!」 「次、スク水」 「はっ、スク水!」 「うわー!やめて!跳ねちゃダメだって、ちょ、揺れ…っもうやだ恥ずかしい!」 「ナマエ様、やめて欲しいならスリーサイズです」 「うっ、」 必死になって鎖をがちゃがちゃさせるナマエ様にそう伝えると、彼女は顔を真っ赤にして羞恥から潤む瞳で我々を見上げた。 「…どんと来い!」 よっぽどスリーサイズを知られたくないらしい。悔しそうに言い切ったナマエ様の身体が小刻みに震えていて愛らしい。さあ、どんどん行ってみよう! 「次、裸エプロン」 「はっ、裸エプロン!」 「うわあああ!やだやだやだ!」 * やっと拷問が終わった。もうなんていうか、疲れた。なにあれ。どうせ合成だし、30分なら耐えられる、と思って我慢し続けたけれども。 「恥ずかしすぎてもう皆と目合わせられない!」 なにあれ、なにあれ!私あんな胸ないよ皆!いくら合成とはいえ彼等の前であられもない格好をし淫らなポーズをとったのだ、あれも中々恥ずかしい。襲いかかる羞恥の波にひいひい言いながら談話室へ逃げ込むと、ブレードがソファに腰掛けていて目が合った。 「ぶ、ブレードーっ!」 ソファにダイブすると大きく跳ねたけど、ブレードはポーカーフェイスを保ったままどうしたと訊ねてくれたのでそのままの体制で答えた。 「拷問、終わった。ある意味凄い拷問だった、まぁ秘密情報漏らす程度じゃなかったけどね!」 「…そうか。ではお前に耐え抜いた褒美をやろう」 「ん?プリン?」 「プリンには栄養がたっぷりんだぞ」 「…」 「…」 変に間が空いたものの、すぐにブレードが大爆笑し出してそれを機に私も小さく吹き出す。あ、ダメだ、どうしてもつられる、つられて笑っちゃう。 「やっぱり面白いねーブレードは」 「…これをやろう」 褒められて気をよくしたらしい。どこからか紙と鋏を取り出すなりチョキチョキと。広げて出来上がった、中々見事な紙細工に私は顔を綻ばせる。ブレードの手先はとても器用だ。 「お前、バレルの事はどう思ってる」 「…突然どした」 「好きなのか」 「んー?そりゃー好きか嫌いかと聞かれれば好きだけど」 「…」 「あれでも一応仲間だし」 たっぷり間を開けたあと、ブレードがやっとそうかと呟いた。好きって仲間として、って意味だよね?多分。だってブレードと恋バナなんて柄じゃないだろうし、と考えた上でのこの答えだったのだけど、ビミョーに漂う気まずい空気にあれと戸惑う。 「勿論、ママやブレード、皆のことも大好きだよ」 一応誤解のないようにそうつけ加えて、ブレードがまた「そうか」と素っ気なく答えた時だった。 「おいブレード!ナマエは俺の女だっつってんだろうが!」 「騒がしいなー、私バレルの女になった覚えもなるつもりもないんですけど」 「いいから離れろ!」 「ちょ、ブレード嫌がってるよ!やめなよ!」 「ナマエ、何でお前そんなブレードの肩持つんだ。はっ、まさかお前、」 バレルがブレードを睨み付ける。ブレードは相変わらず飄々としていた。 「そういやお前、ナマエよりも背が高かったな」 あ、そこで私の彼氏条件を持ってくるとは。「負けねーからな!」と勝手にライバル視してぎゃんぎゃん煩いバレルを眺めていると、開いてるドアの隙間からママが通り掛かるのが見えて思わず飛び出した。 「ママー!」 「ナマエじゃねーか、なんだどうした」 「デートしようぜ!私ママとパフェ食べに行きたい。あ、あとボスも誘お?ボスには白玉ぜんざいだねー」 歩き出した私たちの背後で、バレルが何か言っていたけど無視をした。うん、ブタのヒヅメは今日も平和だ。 * 「バレル、大好きだよ」 「はっ、んなの知ってるよ。なんだ?急に素直になりやがって」 「べーつに?ただ好きって言いたくなったから口にしてみただけ」 「ほーう?じゃあ今度はその好きとやらを態度で示してもらおうか」 「やだー、バレルの意地悪」 「おら、こっちこいよ」 「…うん」 …うわー何これ、私がちょー気持ち悪いこと言ってる。うんハート、じゃないし。私そんな気持ち悪い事言わない。軽蔑を含んだ眼差しでバレルと私?のやり取りを見ていたら、後にもう一人の私がこちらの存在に気付いて「あっ、ナマエ様!」と声を上げた。はっとしたように振り向いたバレルの顔はこの世の終わりみたいな顔をしている。元々色白の顔が更に青白くなっていくのがなんだか滑稽だった。 「なに、これ」 「ううううるせえ!つーかお前何でここに…勝手に入ってくんなよ!」 「あんたの部屋じゃないでしょーが!私は博士に用があって来たの。それでこの気色悪い私は一体何者」 後々説明を聞くと、どうやら博士の発明品らしい。ホログラムの隣のカーテンを開けると、私の声を当てていたのはなんとこの間拷問の時にいた男性だった。申し訳ありません!申し訳ありません!と繰り返し必死に謝ってくれた彼には同情する、どうせバレルが無理やりとかそういう感じなのだろうし。 「君が謝ることないよ。幹部様に命令されたら断れないもんね」 「ナマエ様…!」 「ちょっと待て、お前もナマエの物真似中々乗り気だったじゃねーか!」 「ひいい」 「バレル虐めないの!」 男性団員の胸ぐらを掴みかかるバレルには溜息しか出ない。ばっかじゃないの。ぼやくと、ああん?と人相悪くバレルに睨まれたがどうということはない。 「好きだなんて言葉、頼まれればいくらでも言ってあげるのに」 「は…」 唖然と固まってしまったバレルにはにかみ混じりに笑って言った。「好きだよ、バレル」そしたら、途端に面白いくらいに、バレルの顔が真っ赤になって。ばっ、おっ、ばっ、と訳のわからない言葉を繰り返しつつ口をパクパクさせているのにまた笑ってしまった。 ーブタのヒヅメは今日も平和ですー (まぁ、一番はママだけどね) (…はあ?) (バレルはブタのヒヅメの中で20番目くらいに好きだよ) (おまっ、おまえええ!) ((うん、平和)) 20150917 |