ミューズさんから



それは海軍の最高戦力と謳われる三人の大将が久々に下の海兵達に実践訓練を行ったある日の晩の事。

   噂の真相

 厳しい訓練に見事耐え抜いたその労いと称して、海軍本部のとある大広間において宴が催されていた。
上座には海軍元帥であり、この宴の主催であるセンゴク。
そしてその右隣には黄猿こと、ボルサリーノ。
センゴクの左隣に赤犬・サカズキ。その隣には青キジ・クザンと、普段中々お目にかかれない豪華な顔ぶれである。
 そんな中で一般の海兵達は幾分緊張した面持ちで各々食事や酒を口に運んでいた。
 この席にはコビーとヘルメッポの二人も参加しており、例外なく堅苦しい表情を浮かべていた。
 喉を通るビールの味はいつもより薄く感じるのにも関わらずやたらと苦味が強く、いつもは何杯もお代わりするはずの海軍名物の特製カレーも、何だか喉を通りづらく感じてしまう。
カレーやサラダを黙々と口に運ぶ二人の耳にふと、前に座る同僚のひそひそ話が耳に入った。
「そういや…おれ、妙な噂聞いたんだけどさ、赤犬さんと青キジさんがデキてるって」
「「ぶぶぶふふふふぅぅぅーっ!!!!」」
コビーとヘルメッポの二人は衝撃のあまり、揃って口に入れたばかりのカレーを盛大に噴出してしまった。
「うわっ!汚いな!」
噴き出した物が前の席に座っていた同僚AとBの二人に思いっきりかかってしまい、慌ててへこへこと頭を下げて詫びるコビーとヘルメッポ。しかし、これが驚かずにいられようか。否!いられるはずがない!
思わず二人はちらり…と視線を走らせた。勿論上座にいる件の二人に、だ。
 サカズキもクザンも至って静かに食事をしている。別段そんな雰囲気はなさそうなのだが…。
しかしながら、俗に言う男社会ではそう言ったハナシはよくあるもので…海軍とて例外ではない。実際この二人も男同士のそう言った類の現場に遭遇した事がない訳ではなかった。だが、それが海軍の最高戦力たる大将同志となるとこれ又話は全く別である。
「この前赤犬さんがこそこそしながら青キジさんの執務室に入ってったの見たんだよなぁ」
周囲の様子を伺いつつ、同僚Aのひそひそ話は更に続く。
「まさかぁ。あの赤犬大将に限ってそれはないだろう。大方、書類の催促じゃあないのかね?」
あっけらかんとした口調でそう返す同僚B。
 頻繁に執務中、抜け出すクセがあり、尚且ついつもいつも他の二人の大将に多大なる迷惑をかけているクザンである。大いに有り得る事なのだが…。
「おれだってそう思いたいさ。だっておれは…赤犬さんに憧れて海軍に入ったんだから」
 がっくりと肩を落としてうなだれる同僚Aの言葉に、言葉なく頷く同僚B。
 事実、海軍大将である三人に憧れて海軍に入隊した者も少なくはないのだ。
 今聞いた事は全てなかった事にしよう。お互いに顔を見合わせ、頷き合うコビーとヘルメッポ。再び食事に手をつけようしようとした。
 のだが…
「あー…あれだ。これ、サカズキにあげる」
突然耳に入ったクザンの声に、海兵達は一斉にそちらを向いた。それは何もしたくてした訳ではなく、この大将の声がでかいのだ。
 見れば丁度、クザンがサラダの中に入っていたトマトをサカズキの皿へと移そうとしている所であった。
サカズキはそんなクザンに眉間に深い皺を刻みながら鋭い一瞥を投げると、自分の皿を手元へと引き寄せる。そして、下っ端の海兵達なら間違いなく瞬時に震え上がってしまうような低い声で叱責を始めた。
「貴様…いい加減好き嫌いは止めんか。下に示しが付かんじゃろうがァ」
そのまま黙々とサラダを口に運び始めるサカズキ。
それにムッ…としたのか、クザンは片眉を上げると普段からでかいその声の音量を更に上げると如何にもわざとらしくこう反論した。
「あらら、そんな偉そうな事言っちゃって。おれ、知ってるんだからねー?サカズキはー…あれだ。実はピー…」
「やっ、止めんかい!バカタレ!」
クザンが言い終えるよりも早く、その頭にサカズキのゲンコツが盛大にヒットした。と、思った次の瞬間にはパキパキパキパキンという何かが崩れる音が広間内に響く。
海兵達は一斉にぎょっと目を皿のようにした。突然、クザンの体がバラバラの氷の破片と化したからである。無理もない。クザンの能力を話では知っているとは言え、下っ端の海兵達がそれを目にする機会などほぼ皆無だからだ。
「ちょっとちょっと、待ちなさいや。いきなり何よ?」
「貴様が余計な事を言うからじゃろうがァ!」
 あっと言う間に元通りなクザンと、片やわなわなと震えたまま振り下ろしたままの拳を握るサカズキ。
先程までの事など何でもなかったかのように言い合う二人の大将に、海兵達は揃ってぽかんと口を開けるばかりだ。誰一人として食事に手を付ける者はなく、まるで漫才のような二人のやりとりをじーっと見つめている。
「あー…分かった分かった。そんじゃあ、サカズキが食べさせてよ♪」
 名案!とばかりにそう言って手を打つと、口を「あーん」と大きく開いてみせるクザン。
 突然、がたん!と音を立て、席を立ったサカズキは小刻みに体を震わせていた。その顔はおろか、耳まで見事に真っ赤である。これは相当頭に来ているのだろう。誰もがそう考え、かなりびくびくしながら“大噴火”をも覚悟したのだが…
「バ…バカタレェ!場所をわきまえんかァ!」
(ちょっと待って下さい。…そんな返し方でいいんですかぁぁぁっ!?)
 サカズキの予想外の言葉にコビー以下、海兵達は全員揃って胸中でそうツッ込みを入れる。
 つまりは何か?顔が赤いのは怒っている訳ではなく、照れか?照れからなのか?照れているのか?
 コビーとヘルメッポの二人は今にも自分の口から何か得体の知れない物体が出てしまいそうな気がした。
「やだ。絶対にやだ。サカズキがあーんしてくんなきゃ、トマト食べないからね」
「バカタレ!貴様は子供かァ!」
「んー…そんじゃあ、子供って事で」
「…っんなに馬鹿デカい子供が何処におるんじゃ!駄々をこねるのも大概にせェ!」
「ケチ。いつもなら文句言いつつやってくれるじゃないのよ」
「そっ、それはじゃなァ…」
 周囲の様子などまるでお構いなし。クザンとサカズキは完全に二人の世界を作り上げてしまっている。
 流石にこれ以上は色々ヤバい。取り敢えずはこの場を何とかしようと思ったのか、深い溜め息を吐くと、黄猿・ボルサリーノがいつも通りの間延びした口調で口を開いた。
「オー…二人共、その辺にしておきなさいよォ〜。ほら、センゴクさんが困っていなさるよォ〜?」
海兵達と同様、口を挟むでもなく一部始終を見守っていたボルサリーノではあったのだが、ついに耐えかねたらしい。テーブルに片肘を着き、その表情はうんざりと呆れたような面持ちだ。
「え?ああ、うん…その位にしておこうか…?」
 どうしていいか分からずに、言葉少ないセンゴクは軽く頷きながら、何とも呆けた表情をしている。
 はっ!と我に返ったサカズキは、自分とクザンに向けて注がれている海兵達の何とも言えない視線にようやく気が付いたらしい。海兵達をさも気まずそうに見回すと一つ盛大な咳払いをし、音もなく着席した。
「…済まん。失敬したのう」
未だ耳まで真っ赤なままのサカズキの言葉に、海兵達は慌てて各々食事の席へと戻って行ったのだが…。
(何見てんのよ?あーん?サカズキはおれのだから。間違っても手なんか出したら…即、凍らすよ?てか、あー…あれだ。いっそ殺るわ)
と、でも言いたげなクザンの殺気を含んだ笑みに、言葉なく黙々と、最早味を感じないカレーを飲み下しつつ、早くこの場から逃げ出したいと願うコビー以下、哀れな海兵達であった…。

 その後、この一件以来海兵達の間では“赤犬さんは青キジさんの物”と、最早暗黙の了解となり、誰一人としてこの二人の話題を持ち出す者はいなくなったとか。
 どうやら、青キジのマーキングは成功したようで。


ミューズさんから一周年記念に頂きました〜!
残念なことに豆助は名無しの権兵衛が出る話も大変大好物でございます。(^p^)
イチャイチャさらけ出すのも大好きでございます。
本当にありがとうございましたぁああ!

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(10.07.16)




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