37000hit rasukumanさん
サカズキはとぼとぼとマリンフォードの町を歩いていた。
つい先ほどだ。本当にくだらないことでサカズキはクザンとケンカしてしまった。
たまたま自分がイライラしていて、クザンも少しイライラしていたのが主な原因だろう。
しかし謝りたくとも、今さっきまで怒鳴り合っていたのだ。
そこからすぐに謝りに行けるほどサカズキは素直な性格はしていない。
「・・・・・・」
今日はとてもじゃないが家に帰って一人で眠ることは出来ないなと思った。
女々しいとは思うが、自分の心がそうだと警告しているのだから仕方がない。
「・・・酒でも飲んでおくか」
酒がそれを忘れさせて、自分を睡魔の餌食にしてくれるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いてサカズキは手頃な店に入った。
中はそこそこ空いていて、客は海兵よりも海兵の家族が多い。
そのため大将であるサカズキが入っても誰も気がつかないようだ。
コートを着てこなくてよかったなと思いながらも、適当な席に座る。
そして少し強めの酒を頼んだ。
酒はすぐに出てきて、それを杯に入れて飲む。
液体が喉を滑り落ちて、すぐに喉が熱くなる。
そんな感覚が楽しくてサカズキは潰れるまで飲むことにした。
◆◇◆
仕事が終わり、センゴクはマリンフォードの町を歩いていた。
このまま家に帰って、早く寝ようと思っていた矢先だった。
「お客さぁん・・・!」
そう困ったような声が聞こえた。
声が聞こえた方を向けば、すでにのれんの下がった店がある。
しかし中の電気は付いていて、戸は少し開いていた。
中に困った客でもいるのだろうかとセンゴクは店の中に入る。
すると中には見慣れた人物がいた。
「あ、お客さん。もう店じまいで・・・」
「いや・・・分かっている。そいつはどうしたんだ?」
中にはカウンター席で自分の腕を枕にして眠るサカズキがいた。
その寝顔からしてぐっすり眠っている。
周りには空き瓶が何本もあり、酔いつぶれて寝てしまったのだろう。
しかしそれは珍しいことだなとセンゴクは思った。
サカズキはいつもならばこんなにも酔いつぶれるほど飲むことはない。
何か嫌なことでもあったのだろうか。
「酔いつぶれて寝ちまったみたいで・・・知り合いですか?」
「あぁ。金は私が払う。すまんな」
そう言ってセンゴクは懐から財布を取り出して金を払い、サカズキを起こそうと試みた。
しかしやはり店主の言うとおり全く起きない。
運ぶしかないかとセンゴクはサカズキを抱き起こして、引きずるようにして店を出た。
「おい・・・赤犬。大丈夫か」
「うぅ・・・ん・・・」
「ほら。家はどこだ。送っていくぞ」
「んんぅ〜・・・・・・」
「・・・・・・・・」
サカズキは何を言ってもそう唸るだけで全く会話にならない。
センゴクはサカズキの家の場所は知らず、このままでは送ることが出来ない。
本部に帰り、データを引き出せば分からないこともないがそれは効率が悪い。
仕方ないとセンゴクは腹をくくってサカズキを自分の部屋に一時的に置いておくことにした。
適当にラクダのタクシーを止めて、それに乗り込む。
吐かれては困るのでゆっくり歩くことを命じれば、ラクダはゆっくりと歩いてセンゴクの家へと向かった。
サカズキを自分の前に座らせて、落ちないように支える。
確かに動きは今にも落ちそうなほど不安定だったが、さすがは海兵。落ちそうで落ちない。
「・・・ほら。着いたぞ」
「んぅ・・・」
どうせ教えたところで理解も出来ないし、返事もしないだろう。
センゴクはラクダから降りてサカズキを降ろした。
そして金を払い、引きずるようにして家に入れる。
「ほら・・・こっちだ。家の中で吐くなよ」
「んぁ〜・・・」
サカズキはようやく意識が戻ってきたらしい。
自分で足を動かすようになったが、離せば倒れてしまうだろう。
何とか寝室まで運び、布団の上にそっと寝かせればサカズキはそのまま倒れ込んでしまった。
「ったく・・・世話の焼ける部下だな」
センゴクはそう呟いて、布団に仰向けで眠るサカズキを見た。
仕事も真面目、プライベートも真面目。
とにかく真面目過ぎるこの男もやはり人の子。
嫌なことがあれば酒に頼ることもあるのだろう。
その嫌なことが何なのか。センゴクは少し考える。
しかし思い当たらなかったため、考えるのをやめた。
「なら青キジに連絡した方がいいか」
そうすればすぐに取りに来てくれるだろう。
彼とクザンが懇意であることは海軍の間ではよく知れた事実で。
勿論センゴクもそれを知っていた。
手早く電伝虫を取り出した後、サカズキが少し唸った。
起きたのかと思い、ちらりと様子を見ればサカズキは無防備に口を半開きにさせて、大の字になって寝ている。
どうやらまだ起きる気はないらしい。
「・・・・・・」
そんな無防備な相手を見て、センゴクはクザンに連絡をするのはもったいないのではと思い、電伝虫をポケットに戻した。
実は二人の懇意をよく思っていない人物は多々いる。その中にはセンゴクも該当していた。
その否定派はセンゴクも含めて二人の関係に嫌悪感を抱いているというよりは、嫉妬していると言った方が分かりやすいだろう。
自分だってサカズキを赤犬さんを大将を好いているのに、何故お前が隣りにいるんだ。
そんなどす黒い嫉妬が一部の海兵の心にあることを二人は知っているのだろうか。
「赤犬・・・」
センゴクはそう名前を呼んでサカズキに顔を近づけた。
するとサカズキはうっすらと目を開け、センゴクをじっと見つめてきた。
誰だか判別出来ていないのだろうか。焦点の合わない目がこちらを見つめている。
そんな妙に艶っぽい顔にセンゴクは胸に激情が湧くのを感じた。
「んぅっ」
その激情を押さえきれず、センゴクはサカズキの唇を奪ってしまった。
智将らしくもないとは思った。しかしもうしてしまったモノは仕方ない。
離そう。離さないと。
そう思い、センゴクは口を離そうとする。
するとサカズキが突然センゴクの首に腕を回して来た。
「っ・・・?」
少し口を離してサカズキの顔を見ると、サカズキはひどく安堵したような笑みを見せた。
いつもの冷静な頭だったら、何かと間違えているのだろうかだとか考えられただろう。
しかし自分の中に残る激情とサカズキの行動によって勘違いに拍車がかかる。
「赤犬・・・」
「ん・・・もっと・・・」
サカズキの物欲しそうな言葉にセンゴクは理性が切れて落ちたのを感じた。
何か切れたかのように激しくサカズキのボタンを外して、胸をはだけさせ胸に触れた。
そして右手でサカズキの乳首を強くつまんで転がし始める。
「んぁあっ・・・いっ・・・痛いんじゃっ・・・!」
まるで素面でいるような素振りだが、実際は泥酔していて今どんな状況なのか、目の前にいるのは誰なのか正確に理解出来ていない。
ただサカズキは目の前にいるのが自分が求めている人物だと信じて疑っていないらしい。
回した腕をきつくして、ぽつりと名前を呼んだ。
「ふぁっ・・・クっ、クザぁン・・・!」
「っ・・・!」
サカズキの口から自分以外の名前が出て、センゴクは動きを止めた。
クザン、という言葉でセンゴクの熱くなっていた脳内が一気に冷めていく。
「・・・・・」
冷めた熱を再び戻すにはサカズキの目はあまりにも自分を見ていなくて、センゴクはゆっくりと身体を離した。
するとサカズキは力尽きたのか腕を簡単に離して、また目をつむる。
その姿を見て、センゴクは冷静になった頭でクザンに連絡してさっさと引き取ってもらおうと電伝虫を取り出した。
そしてクザンの電伝虫にかける。クザンはワンコールで出た。
『もしもしっ?』
「あぁ、青キジ。私だ」
「あ、センゴクさん」
そう言えばクザンは少しがっかりしたように声を出す。
サカズキだと思ったことはすぐに分かったが、そこには触れずセンゴクはサカズキが酔っぱらって家にいるので取りに来てくる旨を伝えた。
するとクザンは了解と返事をして、電話を切る。
クザンが来る前にサカズキをソファにでも運ぶかとセンゴクはサカズキを抱き起こして運んだ。
それからしばらくして、クザンは思いの外早くやってきてくれた。
「お邪魔しまーす」
「あぁ。ここだ」
センゴクが声を出せばクザンはそのまま靴を脱いで居間へと上がる。
そしてソファで眠りこけるサカズキを見た。
「あらら・・・すいませんね。オレのサカズキが」
そう言ってクザンはサカズキを抱き起こす。
サカズキはのろのろと起きて、クザンをちらりと見たがまだ意識がふらついているのか頭が上下にふらふらしている。
「・・・いいや。迎えに来てくれただけでもありがたい」
「それじゃ・・・ほら!サカズキ歩いてよっ!」
「んぁ〜・・・歩いちょるわァ・・・」
サカズキはふらふらとした足取りでクザンに引きずられてセンゴクの部屋から出て行った。
戸が閉められて、センゴクは溜息を吐いて椅子に座る。
目をつむればクザンの言葉が何度も頭の中で再生された。
『すいませんね。オレのサカズキが』
表情は申し訳なさそうなのに、その言葉が嫌味にしか聞こえない辺り自分はかなりおかしくなっているのだなとセンゴクは実感した。
◆◇◆
「おぉ〜い・・・どこ行くんらぁ〜・・・」
「オレんちだよ」
「んん?あの家は・・・お前の家じゃなかったんらァ?」
そう呂律の回らない舌でサカズキはクザンに絡みながら歩く。
ようやく酔いが覚めてきたのか言葉もそれなりに出てきた。
しかしまだ素面までには至っていないらしい。
「違うよ。本っ当に人に迷惑かけないでよねぇ」
「おぉ・・・すまんのォ・・・うっ・・・」
しゃっくりをしながらサカズキは謝った。
そして曲がりなりにも自分の家に着き、クザンは鍵を開けてサカズキを中に入れる。
リビングを通り抜けて、寝室まで連れて行きベッドに投げ出せばサカズキはうっと声を上げてベッドに横たわった。
まだ眠いのだろう。手を伸ばして枕を抱きしめて、寝ようとしている。
「まだ寝かせないよ」
「んぁ・・・」
クザンはそう言ってサカズキの上に覆い被さる。
そしてゆっくりと自分の方に向かせた。
サカズキは酔いでほんのり赤い顔でクザンを見る。
「探したんだからね。まさかあそこにいるとは思わなかったけど」
「うんん・・・」
そう言いながら耳たぶを噛めばサカズキはくすぐったそうに身をよじらせた。
珍しく抵抗がないサカズキの身体に触れながら、クザンは自分の不満をぶつけてみる。
「変な男に引っかかったんじゃないかなとか・・・心配したんだよ」
「うぁ・・・ん?」
「・・・・・あんなこと言った後だったから、なおさら心配だったんだって」
ケンカの後。クザンはイライラしていた。
そして冷静になった頭が考えたことは謝罪することだった
しかしその時はもうサカズキは上がっていて、探し回ったが見つからない。
電伝虫を使ったが出なかったのは酔っぱらっていたからだろう。
自分のことを嫌いになり、違う男に抱かれていたらどうしようなどと半ば無理矢理な加害妄想を繰り広げていた矢先にセンゴクからの電話で、クザンは心底安堵したのだ。
「・・・悪い。サカズキ・・・言い過ぎたよ」
「・・・わしも・・・じゃァ・・・すまん・・・」
サカズキの声にクザンは耳から口を離して、サカズキの顔を見た。
酔っぱらっているようにも見えるが、そのわりには言葉ははっきりとしていて、表情もクザンを認識しているように見える。
どうやら酔いがそこそこ覚めてきたらしい。
そしてクザンがこっちを見つめていることが分かったのだろう。
おもむろに名前を呼び始めた。
「・・・んぅ、クザン・・・」
そう甘ったるい声で名前を呼ばれてクザンは先ほどから耐えていたモノが崩れ落ちたのを感じた。
酔っぱらって理性のない恋人を目の前にして、落ちない男の方が間違っているだろう。
そう言い聞かせてクザンはサカズキの服を素早く脱がせ始めた。
「うぁっ、クっクザンっ・・・!」
「駄目だよ。散々人のこと町中走り回さしといて・・・」
「やめっ・・・離してくれっ・・・!」
サカズキは突然抵抗し始めた。
抵抗というよりは焦っているとも見受けられるがクザンは何故そうするのかが行為への抵抗以外に思いつかない。
そしてクザンは抵抗されたぐらいで離すような性格ではない。
「だめ。するからね」
「やっ・・・んぅ・・・!」
するとサカズキは身体を反転させてうつ伏せになった。
もう冷静な判断があまり出来ていないクザンはそれでも離そうとせずサカズキの背中に覆い被さり、ズボンを脱がそうとする。
サカズキは首を横に振って何やら訴えているが、クザンは理解が出来ない、もとい理解しようとしない。
「いやじゃ・・・も、無理・・・」
「え・・・?」
まだ何もしていないのに無理だと言われて、クザンは一度止まった。
そしてようやく事の次第が理解出来、今度はクザンが焦る番だった。
よく見ればサカズキは必死に口を押さえている。
「バっ・・・ちょっ!ちょっと待て!」
「うぅっ・・・無理じゃァ・・・無理っ・・・」
そう言った後、サカズキはクザンのベッドの上で盛大に嘔吐した。
◆◇◆
「あぁ。センゴク元帥」
「赤犬か」
次の日。
センゴクは突然廊下でサカズキに呼び止められた。
そしてふいに昨日のことを思い出す。
クザンは素振りからして知らないようだが、サカズキは別だ。
まさか思い出して何か言いに来たのだろうかと構えてしまうが、どうやらそうではないらしい。
「昨日は・・・えろうお世話になりました・・・」
「・・・あぁ。別に構わん。今度から気をつけてくれ」
「金まで払うてもらって・・・わしの給金から差し引いてええですから」
真面目なサカズキらしい対応だと思った。
これが普通の海兵なら言われるまでもなく差し引いただろう。
特にガープともなれば倍は引いたかもしれない。
しかし彼は真面目に仕事をしてくれていて、何より昨夜は半ば犯罪に近いことまでしかけたのだ。
金を貰う義理はない。
「構わん。それより昨日はあの後どうしたんだ」
「あの後・・・すいません。わしは昨日のことはあまり覚えとらんので・・・」
サカズキはそう言って少しうつむく。
まぁそうだろうなとセンゴクはそれ以上聞くのをやめた。
するとサカズキは脱線した話を元に戻す。
「昨日のこともありますけェ・・・センゴク元帥に何かせんとわしの気が収まらんのです」
「そうか・・・・」
そこまで言うのだから少しぐらい差し引くかと思った瞬間、センゴクはいいことを思いついた。
そうだ。これならばクザンに邪魔をされることもなく、サカズキも断るわけがないだろう。
「ならば金はいい。私に今日昼食をご馳走してくれ」
「め・・・飯でええんですか・・・?」
サカズキは心底意外そうに言葉を返した。
とりあえず笑ってそうだと言えばサカズキは頭を掻いて、承諾してくれた。
「それじゃあ玄関で待っとってください。仕事が終わったらすぐに行きますけェ」
「あぁ。ありがとう」
そういつもなら言わないような礼の言葉を言えば、サカズキはふっと微笑んでくれた。
その瞬間だった。後ろからばたばたと足音が聞こえてセンゴクは思わず眉をひそめた。
しかしサカズキは丁度後ろを振り返ったため、センゴクの表情には気がつかなかったようだ。
「サカズキ!」
「クザンか・・・何じゃ」
やってきたのは予想通りクザンだった。
センゴクは苛立ちを隠しながらも、平静を装う。
「サカズキ!お前・・・昨日オレのベッドに吐いたでしょ!掃除大変だったんだからね!」
「あ、あぁ・・・すまん・・・」
「悪いと思ってんなら何かすることあるでしょうよ」
またこの男は何を言っているんだとセンゴクは思った。
謝っているのだからそれ以上を求める必要はないだろうに。
サカズキも苦労しているのだろう。どうせなら自分のところにくればそんな苦労もかけないのに。
そこまで考えてセンゴクはちらりとサカズキを見た。
しかしサカズキは怒っているような素振りはない。
「何をすればええんじゃい」
「今日の昼飯おごってよ」
その提案にセンゴクは驚いた。
まさか自分と同じ事をサカズキに求めるとは思わなかった。
てっきり今夜はホテルでなどとほざくかとばかり思っていたからだ。
しかしサカズキはセンゴクをちらりと見て、クザンに向き直る。
どうやら断るようだ。
「じゃけェ。わしはセンゴク元帥と昼食を食べる約束をしちょるんじゃ。また今度でええか」
「へぇ・・・じゃあオレも一緒に行くよ」
「何故じゃァ・・・」
クザンのまさかの言葉にセンゴクは内心あせった。
もしこのままサカズキが流されてしまえば、クザンとも食べるはめになる。
それではただの部下に優しい上司だ。
「だって二人よりは三人の方がいいでしょ?賑やかじゃない」
そうクザンは笑って言った。
サカズキがその笑顔に弱いことをセンゴクは知っている。
そのためセンゴクは真っ先のその笑顔を卑怯だと思った。
「む・・・ほ、ほうか・・・なら・・・センゴク元帥。ええですか?」
そして卑怯と言えばサカズキのこの顔も卑怯だと思う。
自分の意見を押しつけないようにと気を遣った言葉なのに、顔は頼むから是と答えてくれと懇願している。
そんな表情を見せられたら駄目だと言えなくて、センゴクは得意の作り笑いで是と答えておいた。
37000hitを踏んだrasukumanさんに捧げました!
リクエストは『クザサカ←セン』でした。
相変わらず報われないセンゴクさんです。はい。
特にネタについて何もおっしゃらなかったので豆助の偏見で決めました。
こんなんでよければどうぞ^^
ではではリクエストありがとうございました。
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(10.08.07)