相互感謝文 あり飴さんへ



クザンはマリンフォードの通りを無駄に歩き回っていた。
今日は仕事は休みで無論サカズキも休みだ。
なのに傍らにはサカズキの影など一つもなく、一人でこの通りを歩いているなどいつもの自分とは思えない事態だ。


「ハァ・・・・・・」


今から数時間前。今より太陽がやや昇っていた夕方頃。
クザンはサカズキからこんな相談を受けた。
それは今度一身上の都合で本部から新世界の支部へ異動する部下への花束はどれがいいだろうか、というものだ。


「あ〜・・・・何でもいいんじゃない?」

「妙な花を贈っちゃあいけんじゃろう?じゃけェお前に聞こうと思うたんじゃが・・・・」

「オレ、部下に花束とか送ったことねぇし分んねえよ」


クザンの投げやりな言葉で話を遮断されたサカズキは多少の苛立ちを感じながらも、溜息を吐いて踵を返しカタログに目をやった。
こうなれば見てくれだけでも綺麗な花を選び、後でおつる辺りに花言葉の善し悪しでも聞いておけばいいだろう。
そう思ったサカズキは座布団の上にあぐらをかいて、カタログを眺める。


「・・・・・・・・・・」


内心クザンはそれがかなり気にくわなかった。
自分には花束さえ贈ってくれたことがないと言うのに。
部下に贈る花束だけはカタログまで持ち出して調べる始末だ。
それが腹立たしいというか、嫉妬心に燃えてしまうというか。
そんなどす黒い気持ちがクザンの口を汚してしまったらしい。


「別にいいじゃん。何だってさ」


そんな心ない言葉がクザンの口からポロリと毒を帯びて出てきてしまった。
それを聞いて、流石のサカズキも先ほどから感じていた苛立ちも上乗せされ、腹立たしく思ったらしい。
バッと勢いよくクザンの方に首をひねり、鋭い目つきでクザンを睨んだ。


「何じゃァ。さっきからぶーぶー怒りよって・・・・・何が気に食わんのじゃ」

「べーつに怒ってないよ。お花なんて何でもいいじゃない、って言っただけ」

「新世界の支部じゃ。何かと不安に思う所もあろう。じゃけェ激励の気持ちと今まで感謝を込めて良い物を・・・・」


それが気にくわないのだ。
サカズキが自分のことよりも部下のことを特別扱いしているとは思わない。
ただ自分にはしてくれないことが部下にはされているというのが、気にくわないのだ。


「だから、そんなの込める必要ないでしょ」

「お前に必要の有無など言われる筋合いはないわ!お前はわしの聞いたことに答えりゃええんじゃ!」


あぁしまった、と感じ始めた時にはすでに時遅く。
クザンに不条理なことを言われ腹立たしくなってきたサカズキと、嫉妬に燃え上がったクザンは冷静な判断など出来ていなかった。
最後にサカズキの出て行けという言葉と共に外へつまみ出され、今に至る。


「・・・・・・・でも。サカズキも悪い」


サカズキはいつも花束なんてくれない。
贈り物を全くくれないわけではないが、花束だけはくれたことなどない。
それを思い出せばまた嫉妬と苛立ちが募っていく。


しかし、サカズキは自分のことが大事ではないからくれないのではなく。
こちらが欲しいと言わないから、欲しくないと思っている。
だからくれないだけなのだ。



◆◇◆




ついクザンの苛立ちが伝染して怒鳴ってしまったことをサカズキは心底反省していた。
確かに“同僚”である前に“恋人”であるクザンにクザン以外の相手にあげるプレゼントについて相談するなど配慮がかけていたかもしれない。
しかしクザンがその程度のことであのように憤慨するとは思わなかった。
あれは渡されたいと思うより、渡したいと思う性分であるとばかり思っていたからだ。
例えば自分がバラの花束を持ってクザンに手渡すなど想像しづらい。
クザンがバラの花束を持って恥ずかしい愛の台詞を囁きながらやってくる、ぐらいが想像しやすいだろう。
そんな固定観念からてっきり自分からの花束などいらないと、そう思っていた。


「・・・・・じゃけェ、言うてものう」


いくらそんな想像しづらくとも。自分がそんな性格でなくとも。
それでもクザンが求めているのならば、くれてやってもいいんじゃないか。
サカズキはそう考えて、ゆっくりと立ち上がった。



◆◇◆




クザンが家を追い出されてから数時間後。
もうすっかり暗い時間になっていたが、クザンは特に気にせず玄関の前に立った。
左手には白い箱。
これが償いになるかどうかは定かではないが、詫びの気持ちが少しでも形に出来ればそれでいい。


「お、お邪魔しま〜す・・・・」


そういつにないしおらしい態度で玄関のドアを開ける。
すると奥でガタッと物音がして、それからドタバタと騒々しい音が廊下に響き、サカズキが玄関先に心配したような表情をたずさえて現れた。
ああも怒ったがやはりクザンのことが心配だったようだ。


「あ、ただいま・・・・」

「・・・・・・・・おぅ」


そんなサカズキがいたことが予想外だったクザンは動揺したような声で片手を上げて挨拶をした。
おかえりの言葉こそはなかったが、返事をしたところを見ると怒りはかなり治まったようだ。
それを判断してからクザンは白い箱をゆっくりとサカズキの目線に上げる。


「何じゃ。こりゃあ」

「お詫びの気持ち」


クザンの貢ぎ物にサカズキは眉をピクリと動かした。
おそらくこんな物で自分の機嫌を取ろうなど、とか言いたいのだろうとクザンは思った。
しかしサカズキ自身はそんなことを微塵も思っていない。
むしろクザンが“自分と同じことを考えていた”ということに動揺していた。


「・・・・・ほいじゃあ」

「?」


てっきり罵倒されると思っていたクザンは予想外の展開に少し戸惑っているようだ。
しかしサカズキはクザンが心外に思わないか気になり、クザンの心のざわめきを感じ取れていない。
先ほどまで頭の中で散々練習した台詞を一言一句間違えないようにと念じながら、後ろからそっと隠していたものを出した。


「わしからも・・・・詫びの気持ち、じゃけェ」


それはバラの花束・・・というほどの量はなかったが、三本の赤いバラだった。
無地の控え目な色合いをした紙に包まれリボンで装飾されたそのバラは先ほどまで地面にはえていたかのように瑞々しい。


「え、これ・・・・どうしたの?」

「買うてきた以外にあるか・・・・急だったけェ三本までしか買えんかったがの」


だからこんなにも綺麗なのだろう。
トゲも綺麗に取られていてサカズキの気遣いが伺える。
無論花屋の店員で取ったのかもしれないが、もしそうならサカズキの手にこんな傷はつかないだろう。
そう心の中でほくそ笑みながら、クザンはサカズキからの“詫びの気持ち”を受け取った。


「・・・・で、いいの?」

「あ?」

「いや、追い出された身だから本人の許可なしに家には上がれんでしょうよ」


クザンの言葉でサカズキはハッと先ほどの出来事を思い出した。
だからクザンはこんなにもしおらしく入って来たのだ。
それを思い出したサカズキはふぅと溜息を吐いて、視線を下げた。
ケンカする前に見たクザンの綺麗な靴は、今は埃だらけ泥だらけになっている。
どうやらこれを買うために相当歩いたらしい。
ならば、この状況に見合い自分の気持ちがある程度隠れる言葉は一つだ。


「・・・・疲れたんじゃろ。入れ」


そう言うとクザンは嬉しそうに笑って、その汚れた靴を脱いだ。


相互してくださったあり飴さんに捧げました。
大変お待たせしました・・・・ハラキリっ!
これからも当サイトと豆助をよろしくお願いします^^

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(11.02.20)




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