シャンブルズブルースシンガーさん 相互感謝文



休みの日は必ずサカズキとデートするために予定を開けておく。
それはクザンが勝手に決めたサカズキと付き合うための約束のうちの一つだった。
あとはサカズキからの予定を優先させるために手帳の予定は鉛筆で書くとか色々あるが今はそんなことはどうでもよい。


「ハァ・・・・・」


またいつものように突然休みが出来たためクザンは迷うことなくサカズキに電話をかけた。
そして休みが出来たから暇かと聞けばサカズキはしばらく悩んだ後、申し訳なさそうにNOと返事をしたのだ。
その返事はクザンにとってひどく意外なものだった。
自分が言うのも何だがサカズキには休日を共に過ごすような友人は少ない。
そのためサカズキの休日の予定は常にがら空きで、大抵暇を持て余すかのように鍛錬をしていたり盆栽を楽しんでいたりする。
だから自分の予定の前に先客がいるなど滅多にない。
理由を聞けばサカズキはボルサリーノとの約束が先にあったと言い、忙しかったのか早々に電話を切られてしまった。


「ボルサリーノと・・・ねぇ・・・」


ボルサリーノがサカズキと仲がいいのは知っている。
しかし休日を一緒に過ごすほどだとは思わなかった。
一体この二人に何の共通点があると言うのだろうか。


「・・・・・・・・・」


そう考えているとだんだんクザンの心に黒いもやが生まれてきた。
よもやボルサリーノが自分のサカズキに手を出すとは思わないが、サカズキと一緒にいるというだけで少し妬けてくる。
それも自分より先に予定を組んでいたともなればなおさらだ。


「・・・・・・約束っていうと盆栽のことかな・・・」


二人の共通の趣味、盆栽。
この言葉でクザンはふっと海軍の掲示板に近々盆栽展が開かれると掲載されていたことを思い出した。
確かワノ国から輸入された物も多々出るだとかでガープやセンゴクが見ていたような気もする。
日付を確認すれば丁度先ほど用事があると断られた日だ。


「ったく・・・オレだってそりゃあ盆栽興味ないけど・・・行こうって言われれば行くのに・・・」


そうぶつぶつ呟きながらクザンは手帳に断られた日付に人生で初めて盆栽展という予定をでかでかと書き込んだ。



◆◇◆




「オ〜・・・これは綺麗だねェ〜」

「ほうじゃのォ・・・」


二人はそう言いながら台座に置かれた盆栽を見た。
折れ曲がった松の木にバランスよく添えられた緑の盆栽をサカズキは楽しそうに見つめている。
そんな同僚から視線を外し辺りを見回してみるとかなり賑やかだ。
ほとんど自分と同じくらいの人ばかりだが先ほど若そうな男性を見かけた辺り意外と若い層にも広まっているのだろうか。
そう考えていると見終わったのかサカズキが目の前に立っていた。


「にしてもすまんの。貴重な休みじゃろうが」

「いいってェ〜。丁度わっしも戦桃丸君に断られたところだったしィ」

「ほぅ・・・あいつもお前の誘いを断ることもあるんか」

「まぁねェ・・・最近冷たいんだよォ〜・・・ハァ・・・」


そう世間話をしながらサカズキは次の作品へ行く。
その動きや目の輝きからこの空間が楽しいのだろうなと伺えた。
そんな同僚の仕事場では見せない雰囲気にこちらも海軍大将としての振る舞いや大将赤犬への敬意を払った言動などどうでもよくなってしまう。
今は日々の疲れやごたごたを忘れてただの友人、ボルサリーノとサカズキとしてこの空間を楽しもうとボルサリーノは将校としての自分をひとまず横に置いておく。


「これ、こないだ君に上げたやつと同じやつだよォ」

「む・・・本当か?・・・わしのとは随分違うのう・・・」

「そりゃあこっちはサカズキがやったわけじゃないからねェ〜」

「ボルサリーノ・・・皮肉言うちょるんかァ?」


冗談めいたように微笑みながら言うとボルサリーノはとぼけたように笑う。
本当に海兵であることさえ忘れてしまいそうな空間を楽しんでいるとふいにサカズキが立ち止まった。


「・・・腹ぁ減っとらんか」

「え?あァ〜・・・そういえばもうお昼だもんねェ」


今更気がついたがもうそんな時間だ。楽しいと時間が経つのも早いものである。
どこかで食事でもしようかと提案すればサカズキは二つ返事で承諾してくれた。
そのあとに続けて近くに美味い店があるからと言い案内までし始めた。


「以前来た時に見つけてのう・・・あぁ、ここじゃ」

「オ〜・・・綺麗なお店だねェ」

「じゃろう?」


サカズキに連れられてやってきた店は和の雰囲気が綺麗な落ち着いた小料理店だった。
確かにサカズキなら好き好んで来そうな店だと思いながら店員の案内で席につく。
メニューを受け取りどれにしようかと考えているサカズキを見てから、ボルサリーノは一度後ろを振り返った。
昼時こともあり客はそこそこいたが人数の割にはあまり騒がしくない。
二人組の女性やカップルと思われる男女もいれば一人でコーヒーをすする男もいる。
ボルサリーノは溜息を一つ吐いて笑みを見せながら一つ気になっていることをサカズキに聞いた。


「クザン君には断られたのかい?」

「は?」

「こういうのはわっしよりクザン君といた方が楽しいでしょうよォ」


ボルサリーノが気になっていることは一つ。
こんな誰かと出かける機会に自分を選んだことだ。
サカズキのことだからクザンを選ぶとばかり思っていたのだが、まさかの人選に一番驚いているのは自分だろう。
するとサカズキはメニューに視線を当てたままポツリと呟いた。


「・・・クザンは・・・楽しくなかろう」

「え〜?クザン君なら『サカズキが楽しいならどこでも行くよ』って言うんじゃないのォ」

「そりゃあどこぞの店や島ならそう言えるじゃろう。じゃけェ盆栽展など言うたら・・・そんな口も叩けんじゃろうが」


意外な言葉だ。そうボルサリーノは思った。
確かにクザンは盆栽になど興味もないし自分が盆栽展に行こうと言えば断るだろう。
しかしサカズキに言われれば興味がなくてもOKを出すに違いない。
そんな客観的な意見を持っているせいかサカズキの言葉はまるで最初は誘いたかったがクザンのことを考えると提案出来なかったという意味に思えた。


「そんなこともないと思うけどォ・・・」

「それにそう言われてもわしはあいつが後ろで場違いな空気につまらなさそうにしとる姿なぞ見とうないわい」


盆栽展で楽しそうに盆栽を見ているサカズキと後ろで視線のやり場やこの空間にいることに楽しみを見いだせないでいるクザン。
そんなすれ違いの光景がボルサリーノの頭には簡単に浮かばなかった。
むしろ浮かぶのは楽しそうに盆栽を見ているサカズキとそんな恋人を楽しそうに見ているクザン。
しかしそれはボルサリーノが第三者目線で見た客観的な予想で、サカズキの考えは主観的に考えたものだ。
当人のサカズキがそんなことを考えている以上自分の言葉などサカズキの猜疑心を強めるだけだろう。


「でも・・・ん?」


それでもそんなサカズキの葛藤を和らげようと言葉を紡ごうとした瞬間だった。
二人のテーブルの前に一人の男が立っていた。
黒い帽子に黒いサングラス。厳つい刺繍が入ったジャージを着ており、明らかに店員ではないその男の風貌に二人は驚いて話を止める。


「おい。何見とんじゃい・・・うぉっ!」


男は突然サカズキの腕を掴んで席を立たせた。
そしてズカズカと足早に歩き始める。
見知らぬ男に突然連れ去られてサカズキは助けを求めようとボルサリーノをちらりと見た。
しかしボルサリーノは全く動く気配もなく、サカズキが連れ去られるのを見守っている。


「なっ・・・おっおい!ちょっと待っ・・・!」


男はサカズキの腕を引っ張ったまま店を飛び出してそのまま歩き続けた。
端から見ると大変奇妙な光景だがサカズキにそんなことを気にしている余裕はない。
そしてふとぐいぐいと自分を引っ張る指の形を見て、サカズキはこの男が何者なのか分かってしまった。


「・・・・・・クザン?」

「っ・・・・・」


そう名を呼ぶと男はぴたりと足を止めた。
すでに景色は町中から公園の近くの道に変わっていて人気は少ない。
その反応に確信を持ったサカズキは男に声をかける。


「おい・・・・顔を見せんか」

「・・・・・・・・・」


それと同時にクザンはゆっくりと帽子を取ってサングラスを取った。
どうやら変装していたつもりらしい。


「フッ・・・そんな変装でわしのことを尾行でもしとったんか?」


そう軽い気持ちで笑みを携えながら聞くとクザンは勢いよく身体をこちらに向けてサカズキを睨んだ。
その威圧感に思わずサカズキの表情がこわばる。
いつもの軽い口調で冗談めかしに返ってくるかと思っていただけに予想を裏切られた反応にショックは大きい。


「何でボルサリーノなの」

「は・・・?」


突然そう言われてサカズキは思わず妙な声をあげた。
まだ言葉の意味を分かりきっていないサカズキを腹立たしく思ったのかクザンは握ったままのサカズキの腕をさらに強く握りしめて声を荒げる。


「ボルサリーノと一緒に展覧会に行ったりご飯食べたりしてたでしょ」

「いっ・・・確かに行ったが・・・」


こんなにも怒っているクザンを初めて見たためサカズキはどうしていいか分からなかった。
しかし嘘は良くないと思いそう素直に言えばクザンはますます顔をしかめる。
自分が理解出来ないクザンが目の前にいる。
そう思うと語尾が自然と震えてしまう。


「・・・何でオレを誘わないんだよ」

「それは・・・」

「オレとボルサリーノ。どっちが好きなのよっ!」


そう怒鳴りつけてクザンははっと気がついた。
サカズキの顔は悲しげな表情を見せていてもう少し強く言えば泣いてしまいそうだ。
その顔を見て今までの自分の言葉が全て一方的で自分がサカズキの言葉を聞き入れていなかったことに気がつく。


「あ・・・ご、ごめん・・・」

「・・・・・う、うむ・・・」


クザンが冷静になったことを知り、サカズキは伏し目がちにうつむいた。
慌てて強く握っていた腕を放すとサカズキはその部分をさすりながらクザンから離す。
痛かったのだろうかと不安になるが今はサカズキから言葉が出るのを待つ以外の良策はない。
しばらく黙っているとサカズキはゆっくりと口を開けた。


「・・・本当はお前を誘おうと思っとった・・・」

「え・・・」

「じゃけェお前にとってはつまらん場所だと思うて・・・誘えんかった」


サカズキから紡がれる意外過ぎる言葉にクザンはこの目の前の男がサカズキなのかとさえ疑ったがそれはないだろうとすぐに頭から消す。
一方サカズキ自身はこれは隠し立てしてはいけないと分かっているため言っているのだが、やはりボルサリーノの言葉が頭の隅にあるおかげだろうか。
いつもなら照れくさくて言えないような言葉なのにすらすらと言えてしまう。
ボルサリーノにあそこまで否定された自分の仮説だ。おそらく間違っている。クザンはそんなことなど思ってなどいない。
そう願いながらボルサリーノを誘った理由を伝えれば、クザンはポカンと呆けたような顔をしてサカズキを見ていた。


「それって・・・つまり・・・気遣ってくれたってこと?」

「あっ・・・当たり前じゃろうがっ・・・!」


確かに気遣われること自体はいちいち確認するまでもない行為だが、クザンが一番嬉しく思ったのはそれをサカズキがしてくれたということだ。
そんな事実が心に染み渡ったと同時にクザンは勢いよくサカズキを抱き寄せた。
突然強く抱きしめられてサカズキは戸惑っているが激しく暴れることはなくクザンの胸の中で大人しくしている。


「んっ・・・クザン・・・」

「・・・・・よ」

「ん?」


クザンが何かを呟いたように聞こえた。
しかしそれが聞こえなかったためサカズキはそう聞き返す。
するとクザンは同じ声量で同じ事をもう一度だけ言った。
「先に言ってよ・・・そういうことは・・・」


心底後悔したような物悲しそうな呟きにサカズキは驚きのあまり目を見開いた。
しかしすぐにクザンの意思を感じ取りやがて目を細める。
そして了解の意味を込めてクザンの背中をきゅっと握りしめた。
サカズキの温もりをしばらく感じながらふっとこのままサカズキと先ほどの展覧会に行きたいという思いに駆られたが、先ほどあんな醜い嫉妬を見せつけただけに言い出しづらい。
それでも少しくらいはとクザンはゆっくりと口を開く。


「サカズキは・・・この後の予定は・・・」

「・・・・・・・・・」


その先を言わずにいるとサカズキはしばらく黙り込んだ後、ポツリと呟いた。


「・・・お前の好きにしろ・・・っ。ばかたれがァ・・・」


サカズキから一番聞きたかった一番嬉しい承諾を得てクザンはニコリと笑ってサカズキから一度離れる。
さぁ早くこの暑苦しい変装を脱ぎ捨ててサカズキの隣りで彼を楽しませなければ。
そう思い直してクザンは着ていたジャージを脱いでいつもの青いシャツを見せた。


相互リンクをしてくださったシャンブルズブルースシンガーさんに捧げました。
リクエストは『ボルさんと仲よさ気に話すクザンさんに嫉妬するサカズキさん』でした〜
長々とお待たせしてすみません!こんなでよければっ・・・><

----------------
(10.10.20)




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -