42500hit 匿名さん



バチンという痛々しい音が響いた。
目の前には呆けた客がいて、周りはざわざわとうるさい。
確かに本来ならば客に手を挙げるなど御法度だが、サカズキは不思議と後悔はしていなかった。
悪いことなどしていない。悪いのは相手だ。
しかし相手はすぐに憤慨そうな顔を見せて、怒鳴り散らしながら店を出て行った。
その光景を遠目で見ていたこの店の店主は事が全て終わった後に何くわぬ顔で加害者であるサカズキの隣りに立つ。


「相変わらず手厳しいことをするねェ〜」

「見とったならお前がやればよかろうが」

「まさかァ〜こういうことはわっしじゃなくて君がやることでしょうよォ〜」


店の上役であるボルサリーノにさえ粗暴な口を聞く辺り、彼はこの店で一番人気のある人物なのだろう。
そのどこか自信に満ちた姿だけでそれだと思えるほどだ。
そしてどこか品のある動きではだけた着物を素早く直す。


「今のは誰だい?」

「知らん。いつもの勘違いした客じゃァ」


さすがにこのような商売をしているとやはり規律を守らない客も多々いる。
この店の規律を知らずに好き勝手荒らし回る招かれざる客で、今日の客は自分を気に入ったようだったが金がないと発覚し追い出そうとした。
しかし言うことを聞かないため一発はたいてやった、それだけである。


「ったく・・・クソバカタレが」

「オ〜・・・あんまり汚い言葉を言うとお客さんが減っちゃ・・・あ〜、そうだァ〜」


サカズキの言葉を注意したところでボルサリーノは思い出したように拳を叩いた。
そして天井を指し、客が待っているということをジェスチャーで伝える。
それを見てサカズキはさらに溜息を吐いて、また言葉を呟く。


「・・・・・またバカがやってきたんか」

「だからァ・・・そんな汚い言葉吐いちゃだめでしょうよォ」


また品のない言葉を呟いたため、ボルサリーノはもう一度注意をする。
しかし先ほどと違いサカズキの顔には嫌悪感も軽蔑の表情も見られなかった。


「今から行ってくるけェ。待たせておけ」



◆◇◆




「やぁ」


客がいるという部屋に入ればそこには予想通りの男がいた。
着物を着崩していて、まるで自分の家であるかのようにくつろいでいる。
そんな姿にいつものように溜息を吐いて、戸を閉めてから歩み寄ろうとすると、クザンは手を突き出して制止のジェスチャーを出した。
クザンの突然の命令にサカズキは思わず立ち止まった。


「何じゃ・・・」

「オレ、お客さんだから」


その言葉に一瞬戸惑ったが、サカズキはすぐに理解出来た。
そしてその場で正座をして頭を深々と下げ、いつもの事務的な挨拶をする。


「ようこそいらっしゃいました。クザン様」


そう言えばクザンは満足げに笑い、起き上がった。
そしてにこやかな顔を見せて自分の膝をとんとんと叩く。
こっちに来いという意味だと知っているサカズキは、そのまま歩み寄りクザンの隣りに正座をした。
するとクザンは当たり前であるかのようにサカズキの肩を抱き寄せた。


「相変わらず綺麗だね。これ新しい着物?」

「めくるな。バカタレが」


そう軽い口調で裾をめくってきたため、サカズキはぺちんとクザンの手を叩いた。
クザンは残念そうに手を引っ込めたが、ほのかに香る匂いに思わず動きを止める。


「・・・・香水つけてる?」

「は?」

「だから、香水」

「つ、付けとらん・・・・どこかで匂いが移ったんじゃあないんか?」


サカズキはそう言うが声が妙に上ずっている。
これでは嘘をついていますと言っているようにしか見えない。
相変わらずお世辞は上手くても、嘘だけは下手だなと思いながら、何の香りだろうかと記憶をまさぐる。
しかし存外早く答えは出てきた。


「・・・ひょっとしてこれ、オレが買って上げたヤツじゃないの?」

「じゃけェうつったモンだと・・・・・・」

「そんなに隠さなくてもいいって。大体買ったオレが言うんだから違うって言われても嘘にしか聞こえないよ」


そう決めつけたように言い放ってから確認するようにうなじに鼻を押しつければ、サカズキは恥ずかしいのかぐいぐいとクザンを押しのけようとした。
それでも負け時と匂いを確認しながら、先ほどはたかれてしまった手を再びサカズキの裾の中に突っ込み、太ももをいやらしく撫でる。


「ひっ・・・やっやめっ・・・」

「だって・・・ん、やっぱり。この匂いはあれだわ」

「っ・・・似たような香水なんぞ皆付けとろうがァ・・・!」


ついに否定することをやめたサカズキを見て、内心ほくそ笑みながらクザンは今度は唇をうなじに押しつけ始めた。
そして舌を這わせながら、太ももから股関節辺りまで手を滑らせる。
するとサカズキは小さく嬌声のようなものを上げ始め、だんだん無抵抗になっていった。


「似たような・・・ってことはないよ。だってそれ作ったやつだしね」

「ハァっ・・・ん・・・作った・・・やつ?」

「うん。オレがサカズキに変な虫が付かないように作ったヤツ・・・まぁくさく言うなら世界に一つしかないサカズキのための香りってやつ?」


そんな恥ずかしい台詞を真面目な顔で言える辺りが道楽息子だと呼ばれるだけある。
しかし今はそんなことを言っている余裕すらないサカズキは、ただ恥ずかしそうに顔を赤らめて抵抗していた手の力を完全に抜いた。
その隙を狙ってクザンは唇も手も離さないまま、サカズキを畳の上にゆっくりと押し倒した。
サカズキは突然のことだったため驚いたらしい。押し倒している間に足をばたつかせたりしていたが新調した着物がはだけて足が露出してしまっただけだった。


「やっ・・・待てっ・・・」

「今の空気は抱いてもいいって空気だと思ったんだけど・・・嫌?」

「っ・・・・・・!」


あくまで訊いているはずのその言葉はどこか威圧感があって、断りを許さないような重さがあった。
いつもは家の手伝いもおろそかにしてその辺を遊び回っている道楽息子風情が。
そう罵ろうと口を開きかけたが、クザンの妙に色っぽい笑みがそれを言うことすら許してくれず、サカズキはただ押し黙るしかない。


「サカズキ・・・・・」


そう甘ったるい声で名前を呼ばれて、サカズキは思わず目を細めた。
クザンの嗅ぎ慣れた心地よい香りが鼻孔をくすぐり、この空気に酔いしれていたい。そう思っていた瞬間だった。
ゆっくりと着物を脱がせていく冷たい手でサカズキははっと我に返る。


「クザンっ・・・・・そういうことは・・・閨で・・・っ」

「あらら・・・可愛いこと言うね」


客にすら手を挙げてしまうような気の強い遊女とは思えない発言に、クザンは思わず微笑んだ。
そして名残惜しそうにサカズキから手を離し、軽々と横抱きにしてふすまで仕切られた暗い閨へと運ぶ。
すでに敷かれていた布団の上にサカズキを置けば、恥ずかしそうに足を閉じて乱れた赤い着物を直そうとしている。
それを阻止しようとクザンは直される前に上にのしかかった。


「これからするって時に直さないでよ」

「なっ、直しとらんっ・・・!」


無意識の行動に釘を刺されてサカズキは戸惑ったような声を出す。
しかし考えてみれば大した問題でもなかったと思ったクザンはニコリと笑って、サカズキの額に唇を押しつけながら一言言った。


「まぁこの後脱がすから直してもいいんだけどね?」


言葉自体は道楽息子らしい軽いものだったが、クザンの口から出るとやたら色っぽく心地の良い言葉に聞こえたような気がして、サカズキは照れくささからそっぽを向いた。



◆◇◆




室内は薄暗く足下にすら気を遣うような暗さだったが長時間もいれば慣れてしまったのか、互いの顔がよく見えるまでになっていた。
そんな暗闇の中、すでに事を終えたサカズキとクザンが布団の中で横になって寝転んでいた。
無論二人共寝入っているわけではなく、ただ事後の余韻に浸っているだけだ。


「・・・・・・サカズキ」

「ん・・・?」


そう名前を呼ばれてサカズキは少し頭を浮かせてクザンを見た。
名前を呼ばれた理由が分からないのか、きょとんとした目でこちらを見ている。
そんな無防備な姿が可愛くて、クザンは笑みを携えたままサカズキの頭を撫でた。


「オレの下であんあん言ってるサカズキも可愛いけど・・・終わった後にそうやってオレの腕の中で丸くなってるサカズキも可愛いよ」

「っぐ・・・!」


クザンから褒め言葉に聞こえない言葉を聞かされて、サカズキは恥ずかしそうにうつむいた。
そしてずるずると頭を下げてクザンの腕ではなく布団に顔をうずめていく。
きっと顔は紅をさしたように真っ赤なんだろうなと妄想しながら、そっと背中を撫でながら抱き寄せると意外にも簡単に引き寄せることが出来た。
素肌で感じた温もりともう薄くなってしまった香水の香りが、いつもは気が強く男を寄せ付けないこのサカズキも今は自分のモノでいてくれているのだとクザンの五感に強く強く教えてくれた。


42500hitを踏んでくださった方に捧げました。
リクエストは「クザサカ遊郭パロ」でした〜!
ここ最近エロいのばっか書いていたのでたまには甘々にしてみました。
妙に色気のある道楽息子のクザンと、気の強い美しい遊女のサカズキ・・・ハァハァ!
とかやってましたがどうでしょうか・・・?
これでよければどうぞ貰っていってください^^

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(10.09.25)




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