暫しのキープアウト / クザサカ



サカズキが家に帰るとクザンがソファに座っていた。
ソファの上で体育座りをしていかにも落ち込んでいそうだ。
決して落ち込まないわけではないのは分かっているが、こんなに落ち込んでいるクザンも珍しい。何があったのだろうか。
そう心配になったサカズキはクザンの元へ歩み寄り、話しかけてみた。


「どうしたんじゃァ」

「・・・・あ、サカズキ」


サカズキの存在に気づかぬほど落ち込んでいたのだろうか。クザンは声を聞いて初めてサカズキの方へ振り向いた。
その時に何か紙のような物を隠したのをサカズキは見逃さなかった。


「何じゃァ。今何を隠した」

「な、何も隠してないよ」


そんなわけがない。現に手は後ろに回されているし、クザン自身も何やら挙動不審だ。
どうやらその紙っぺらがクザンが落ち込んでる原因であるらしい。
サカズキが疑惑の目で圧力をかければ、クザンは諦めたのか溜息を吐いて後ろに隠していたものを教えてくれた。


「こないだの健康診断書」

「ほぅ。ならこのわしから隠す必要はなかろうが」


サカズキはそう言って手を差し出した。
見せろ、の意だ。
しかしクザンは見せたくないのか出さない。


「何か問題があったんならなおさら見せんといけんじゃろう」

「やだよ」

「・・・どうせ医者に聞きゃあすぐに分かることじゃ。ええから見せろ」


そう言えばクザンはその言葉にかなりの説得力を感じたらしい。
半ば諦めたように渋々と渡した。


「よし。一体何を隠して・・・・ん?」


紙には歯科検診の結果が書いてあった。
そういえば一週間ぐらい前にやった記憶がある。
その報告欄を見ればどうやらクザンは奥歯に虫歯があるらしい。
早急に治療するべきとまで書いてあり、この書類の報告とクザンの嫌がりようにサカズキは呆れたと言わんばかりの溜息を吐いた。


「明日病院じゃな」

「ほっとけば治るよ」

「治るか。バカタレ。それに虫歯は口付けられたらうつるんじゃ。医者に太鼓判押されるまではするなよ」

「うっ・・・・・」


サカズキはそう言ってペンを手に取りカレンダーの土曜日のらんに"クザン歯医者"と書いた。
これでクザンが歯医者に行くのは当人の意思を完全に無視して確定事項になってしまったわけだ。
そんな事実にクザンはがっくりと肩を落とした。
サカズキに言えば絶対にこんな結果になることは簡単に予想できた。
だから隠そうとしていたのにまさかこんな形で見つかってしまうとは。我ながら愚かだ。


「あぁ・・・見せなきゃよかった・・・・」


クザンのそんなぼやきをサカズキはあえて聞き流しておいた。



◆◇◆




「まさか貴様がいい歳をして歯医者が苦手だったとはな」


海軍の医療棟に着いてクザンはまだためらっていた。
あの嫌がりようから誰しもが分かるだろうが、クザンは歯医者が苦手だった。
それを聞いてサカズキは心底呆れたがクザンはいつものように言い訳をする。


「歯医者が嫌いな人は大抵歯医者に対していい思い出がないからなの」

「お前の過去のトラウマなど知らん。さぁ行くぞ」


サカズキはそう言って歯医者のドアを開けた。
中は独特の匂いと空気が漂っていて何か変な威圧感がある。
医者に声をかければあと10分ほど待つように言われた。
時計の音をバックに別室からは嫌な音が聞こえてくる。
あまりにも耐えきれなくてクザンはサカズキをちらりと見た。
サカズキは足と手を組んで目をつむっていたがクザンの視線に気づいたのかクザンの方を見る。


「何じゃァ」

「・・・・飲み物買ってきていいかな」

「バカタレ。これから歯を診て貰うのにどうして飲み物を買うんじゃ。水にしておけ」

「・・・・・はい」


サカズキにそう言われてクザンはまた黙り込む。
それからしばらく経って、ドアが開いて看護師がクザンを呼んだ。


「青キジさーん。どうぞー」

「あ、はい」


呼ばれてしまえばもう逃げられない。
クザンは立ち上がって一歩前に出た。
そしてもう一度ちらりとサカズキを見る。
するとサカズキは顎でくいっとドアを指した。
行け、と言う意味だろう。
クザンは死刑を宣告されたような暗い面持ちで部屋に入った。



◆◇◆




それからしばらくしてクザンは無事に帰ってきた。
思っていたほど痛くはなかった。
ただそう思うと自分のあのささやかな抵抗は一体何だったのだろうかと悲しくなる。


「どうじゃった」

「もう大丈夫だって」

「ほうか。じゃあ行くかの」

「うん」


とりあえず医者に礼を言い、二人は医療棟を出た。
そして昼時で全員食堂かどこかにいるせいか人通りの少ない廊下を歩いていく。
サカズキはこのまま食事に行くつもりなのだろう。


「サカズキー」

「何じゃ」

「オレさぁ。虫歯治ったじゃない」

「あぁ・・・そうじゃな」


それを一緒に行った自分になぜ言うのか。
クザンの真意が読み取れず、サカズキはよく分からぬままにそう返事をした。
するとクザンはニコリと笑い、サカズキの頬を両手で優しくつつむ。
その一連の流れでサカズキはようやくクザンの真意を悟った。


「ク、クザ・・・・・・んぅっ」


しかしもう時すでに遅し。
クザンの唇はサカズキの唇をしっかりとくわえており、離すにはもう遅かった。


クザン絶対虫歯になるタイプだろうなぁ。
サカズキは逆に虫歯にならないタイプだろうなぁ。
そんな妄想から^p^

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(11.03.22)




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