ギブアップ!ギブアップ! / クザサカ



さわやかな海風と野太い大きな声にクザンはわりと長めの昼寝からようやく目覚めた。
ふっと時計を見るともう昼過ぎ。
こんな時間帯に外に漏れるほどの大声が聞こえる場所なんて声をたどらなくても分かる。
きっと海軍本部内にある道場からだ。


『そういえば・・・今日はサカズキが若いやつら相手にするって言ってたっけ・・・・・』


だとするとサカズキの胴着姿が拝めるわけで、その胴着姿は新入りの若い海兵たちの眼前に晒されるわけだ。
それは少し妬ける。そう大人げのないことを思ったクザンはゆっくりと起き上がり声のする道場へと向かった。
ちらりと道場を覗けば全員胴衣姿で互いに組み合ったりしている。
サカズキはどこだろうかと探せば目立つ体格であるためかすぐに見つかった。
奥の方で畳に座り、練習風景を監督している。


「サカズキ」

「ん?クザンじゃあないか。何でここにおるんじゃ」

「サカズキの声が聞こえたからね。何?もうやってるの?」


呼びかければサカズキはすぐに振り返り、立ち上がってクザンと視線を合わせた。
誰かと組み手でもしたのだろうか。胴着から見える胸板にうっすら汗が浮いている。
それを見てしまえばまたあの大人げない嫉妬が燃えてきた。


「・・・たまにはオレと一緒に組み手なんてやってみる?」

「ほぅ・・・ええんか?怪我ぁしても知らんぞ?」


クザンのその過度に見える自信に裏があることを微塵も疑わないサカズキは得意気な笑みで承諾した。
すると周りも二人の異様な空気を感じ取ったらしい。
全員組手をやめて二人を見つめる。
クザンはかなり本気なのかベストを脱ぎ、ネクタイも取った。
そしてすでに道場の中央で待っているサカズキの元へ歩み寄った。
すでに海兵達は邪魔にならぬようにすみの方に下がっている。


「先に参ったと言うた方が負けじゃ」

「了解」


そう言うが早いかクザンはすぐにサカズキに飛びかかった。
しかしサカズキはそれを受け止め、クザンの腕を掴み背負い投げ飛ばし、マウントポジションを取る。


「ふんっ!」

「うっ!」


手加減はしてもらえなかったらしくクザンは痛そうにうめき声をあげる。
しかし痛がる素振りはほんの一瞬で、クザンは体制を変えてすぐにマウントポジションを取り寝技をかけた。


「どう?参った?」

「フン・・・こんなんじゃあ参ったと言わんな」


サカズキの強気な言葉にクザンはニヤリと笑った。
きっとサカズキは自分に話しかけて隙を見せた瞬間にこれを振りほどき締め上げる気だろう。
だがそうはさせないと言わんばかりにクザンは腕の力を込めた。


「持久戦に持ち込むつもりか?学習能力がないのう。昔それでわしに負けたことを忘れたか」

「忘れるわけないでしょ。結構悔しかったんだから」


昔、と言うのは二人が中将時代の頃だ。
今と同じように組み手でサカズキと戦い、持久戦に持ち込みサカズキを負かそうとしたことがあった。
無論サカズキの言う通り、彼の予想外の体力の多さにこちらが根気負けしたわけだが。
しかし今は違う。今は確実に勝てる自信がある。
それは、


「まぁ、見てなって」


そう意味深長な台詞を言った後クザンは寝技を仕掛けたまま、サカズキの耳にふぅと息をかけた。
そんな突然の性的な愛撫にサカズキは不覚にも身体を跳ねさせてしまった。


「どう?参った?」

「っ・・・!」


先ほどと同じ質問をされ、サカズキはカァっと顔を赤くした。
そう。昔と違うのはクザンがサカズキの“弱点”を知り尽くしているということだ。
しかしここで参ったと言うなど自分のプライドが許さない。
絶対にクザンの下から這い出て、出た瞬間に殴り飛ばしてやる。
そう思ったがクザンも同じくらいほどく気がないらしい。寝技で締め付けるふりをして、サカズキの足や脇腹をいやらしく撫で始めたのだ。


「あっ、ん・・・まっ真面目にやれェっ!」

「真面目にやってるじゃないの。サカズキが抜け出せないだけでしょ?」

「お前は――・・・・・!」

「しーっ・・・あんまり大騒ぎするとみんなにバレちゃうよ」


そう言われてサカズキは慌てて声を押さえた。
海兵達はクザンが試合の流れとしての意味で圧倒的に優位であることを理解しているが、サカズキの貞操が危ないことは幸いにも気付いていないらしい。
しかしいつ気付かれてもおかしくない状況であることには変わりない。
サカズキは何とか逃れようと暴れたが、クザンはなかなか離れなかった。
それどころかついにはいつの間にやったのか帯をゆるめて服の中に手まで入れている始末だ。
服の上からならまだ耐えられたが、直に触られてしまうとさすがのサカズキでも声を抑えるのが難しくなってくる。


「はぁっ・・・んんっ・・・や、やめェ・・・・・!」

「じゃあ参ったって言いなよ」

「それも嫌じゃっ!」


負けず嫌いなサカズキのことだ。そう言うだろうと思った。
大衆の面前で負けるのも嫌なのだろうが、何より自分に“このような形”で負けるのが嫌なのだろう。
しかし別段参ったと言わなくともクザンはあまり困らない。
ならばまた違う手で参ったと言わせるまでだ。


「ほら、早く言いなって・・・・・」

「嫌じゃ・・・嫌じゃァっ・・・!」


密着しているのをいいことに気づかれぬように首筋をこっそりと舐めてみたが、まだ諦めないらしい。そう残念な返事が聞こえた。


「じゃあ脱がせちゃおうか・・・いいの?」


そう聞くとサカズキはふるふると首を横に振った。
息も荒くなっている辺りそろそろ限界なのだろうか。
そう想像するだけで口元のゆるみが止まらなくなる。


「なら言ってよ・・・・言ったらすぐ終わるんだから」


クザンの囁きを聞いた瞬間、サカズキの身体から力がなくなった。
ついに諦めたか。
そう内心ほくそ笑みながらクザンはサカズキの言葉を待った。


「はっ、クっクザン・・・・」


するとしばらくしてサカズキの口がゆっくりと開き、クザンの耳に近づく。
先ほどまであまり感じ取れなかったサカズキの荒い息づかいや熱がクザンを高まらせた。


「もうやめてくれ・・・・もう・・・・言うけェ」

「うん。聞かせて」


早くと急かしてみたがサカズキは迷っているのかなかなか言わない。
サカズキの艶っぽい声に自分の身体も今にも反応しそうなのだ。
早く言ってもらいサカズキをどこかに連れ出して“処理”を施したい。


そんなクザンの渇望がそうさせたらしい。
クザンに一瞬の隙が生まれた。
それは自身でさえ気づかぬほどのモノだったがそれをサカズキは見逃さなかった。


「あっ!!」


サカズキは一瞬にしてクザンの身体から這い出た。
完全にというわけではなかったがサカズキにとっては上半身が出ればそれで十分だ。


「うらぁあ!!」


上半身が自由になった瞬間、サカズキは自分の握り拳を手加減など一切せずクザンの腹にめり込ませた。
いくら大将同士と言えども、大将の中でもサカズキの攻撃力は最強だ。
道場の外まで吹っ飛ばされはしなかったもののよほど効いたらしくクザンは畳の上でうずくまってしまった。
しかしサカズキはそれで終わらせる気は全くないらしい。


「え、あ、ちょっと待って・・・・!」

「じゃけェ言うたろうが・・・・怪我ぁしても知らんぞ、とな」


マグマこそ出していないがこの表情にこの覇気は完全に本気だ。
クザンは思わず後ずさったがサカズキはどんどん間合いを詰めていく。
少し苦笑いを見せてみたが全く笑ってもらえない。
しかししばらくしてからサカズキはピタリと足を止めた。


「え?」


このまま殴られるのだと覚悟を決めていたクザンはサカズキの予想外の行動に驚き後退をやめる。
しばらくの沈黙が続き、サカズキの言葉を待っていると、サカズキはニヤリと口元をつり上げた。
そして。


「どうじゃァ・・・・“参った”か?」


先ほどまでクザンが散々聞きたがっていた言葉をようやく言ってくれた。



クザサカクザみたいな展開になっちまった・・・orz
しかしここであはんうふんな展開になった場合、それはそれで話の収集がつかなくなるのでやめました☆

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(11.03.22)




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