愛の妙薬 / クザサカ



「お前は・・・わしの・・・言うこと・・・聞いとったのか・・・!?」

「いやぁ、そんなこと言われてもねぇ・・・」


先日まで自身をさんざん苦しめていた風邪を見事にサカズキにうつしてしまったクザンはそう言って頭をかいた。
かなりの熱があるのかサカズキの顔は真っ赤で今にも火ならぬマグマが吹き出そうである。
つい煩悩に負けてキスをしたせいだなとクザンは一人静かに反省をした。


「はぁっ・・・体温計・・・取ってくれ」


サカズキはそう熱い吐息を吐きながらクザンに言った。
さすがのクザンも顔が赤いサカズキが可愛いなどと言っている場合ではないと悟ったらしく体温計を取り、サカズキに渡す。
それを受け取りサカズキは口にくわえた。


「仕事休んで看病しようか?」

「バカタレ・・・・仕事はどうする気じゃ・・・」

「だってこんなに体温高いのに放っておけないって」


そう言ってクザンは電伝虫を取り出して、本部へ電話をかけようとした、瞬間だった。
サカズキの熱がこもった手が電伝虫をばしっと叩き落とす。
どうやら本気で仕事に行けと言いたいらしいが、クザンとしてもサカズキのことは心配だ。
しかし頑固なサカズキにいくらここにいると行っても最終的には熱のある身体で大噴火をお見舞いされてしまうだろう。


「じゃあ・・・・・あと一時間したら行くわ」

「・・・・・・・・チッ。仕方ないのう」


それくらいならば許してやってもいいだろう。
それに一時間ならある程度の頼み事も出来る。
サカズキはだるそうに目を細めたまま、それを承諾した。

それからしばらくして体温計が鳴り、体温が測り終わったことを告げる。
口から抜いて見れば熱は39度。
完全に高熱の領域であった。


「これは・・・今すぐ医療棟に行った方がいいんじゃない?」

「大丈夫じゃ。こんなもん・・・・寝てれば治る」

「いやいやあと一つで40度よ?馬鹿言ってないで早く早く」


クザンはそう言ってサカズキを立たせた。
そしてマスクを手渡し、支度を始める。
熱がなければひとまず安心というわけで仕事に行けただろうが、高熱ともなれば話は別だ。
医療棟に送らねばという使命感にかられてしまう。


「おい、薬飲んでいれば治るけェ。医者の世話になるほどでもないわい」

「でも39度は異常でしょーが」

「お前が決めることじゃあなかろうが・・・・」

「そういうことじゃなくて・・・・あ」


そこで突然妙な声をあげたため、サカズキは首をかしげた。
クザンは一通り支度終えたのかサカズキの方へ身体を向けて向かってくる。
サカズキは寝たままクザンが何を言うのか気になるような目つきで見つめていた。


「サカズキひょっとしてさ・・・・医者苦手?」

「バ、バカタレ・・・・そんなわけないじゃろうがっ!部下に見つかったら心配かけるけェそれだけじゃ!」


サカズキのその言い方からしてどうやら苦手であることは事実らしい。
ただこれ以上問い詰めてもどうせ答えてくれないだろうし、今の弱り切ったサカズキに求めるものでもないためクザンはあえて正論を片手に説得をしようと試みる。


「それで休んだらもっとかけるって。行こう」

「わしの経験上まだ行かなくても大丈夫じゃ」

「オレの経験上行かないと危ない」

「自分の身体は自分がよう知っとるけェ」


そんな押し問答が一通り繰り広げられた後。
もし40度になったら医療棟に行くということで落ち着いた。
サカズキとの論争が落ち着いたところで突然クザンお腹が静かに鳴り始める。
思えばもう11時。
クザンは朝から何も食べていないのだ。無理もないだろう。


「何か食べる?」

「何もいらん」

「食べなきゃ駄目でしょうが。熱だってあるんだし」

「食いたくないんじゃ」


サカズキはそう言ってそっぽを向いた。
クザンは溜息を吐いて自分のご飯を用意する。
普段はサカズキが料理係なので今まで作ったことはあまりない。
もちろん料理を作ったことはあるにはあるが、褒められた記憶などない。


「じゃあ一人で食べるよ」


そう言い残してクザンはゆっくりと立ち上がり、サカズキの家の台所へと向かう。
中に入れば彼の性格が出ているのかきっちり整頓されていて、そのためかすぐ作れそうなものは場所さえ知らぬクザンでも見つけられた。


「これでいいか・・・・」


クザンが見つけたのはうどんだった。ゆでればすぐに出来る簡単なものだ。
別段嫌いなものでもないため、クザンはそれを取り出して鍋に湯をはり、調理を始める。
それから数分後、具のない汁だけのうどんが出来上がった。
思いの外茹ですぎてしまい、コシのない柔らかい物になってしまったが。
それを器に盛り、汁を入れてサカズキの元へ戻れば先ほどと変わらぬ体制のままサカズキが出迎えてくれる。


「サカズキ、ホントにいらないの?」

「いらんと言うとろうが・・・」


念のために聞いたが同じ言葉で断られてしまったためクザンは溜息を吐いて、うどんを食べ始めた。
ちょっと柔らかすぎる気もするが食べられないほどでもない。それでもおいしいと感じるぐらいだ。
そう素直に味を楽しんでいるとふっとサカズキと目があう。
すぐにそらされてしまったが、その視線が気になりクザンは口の中のものをなくしてから口を開いた。


「何?」

「・・・・うまそうに食うなと思うただけじゃ」

「・・・・・欲しいの?」

「んなことは言うとらんじゃろ・・・!」


そう言った瞬間サカズキの腹からぐぅっと鳴った。
それが聞こえたのかクザンは一瞬呆けたような顔を見せた後、ニヤリと素直に感じた感情を表情に出す。


「っく・・・・笑うな!」

「本当は食べたかったんでしょ?素直じゃないな〜」

「気が変わったんじゃ!」


サカズキのそんな弁解を聞いてもクザンは信じていないようだ。
しかし気が変わったのは事実で、本当は欲しかったわけではない。
現にさっきまで風邪でだるく食欲すらなかったのだから。


「まぁ食べたくなったんなら仕方ないね。ほらっあーん」

「っ・・・・・普通に食わせんかバカタレがァ」


そう言いながらもサカズキは身体を起こして身を乗り出し、クザンが差し出してきたうどんをひな鳥のように口を開けて食べた。
確かにクザンがおいしそうに食べただけある。かなりおいしい。


「おいしい?」

「・・・・・・あぁっ」


サカズキが肯定の返事をすればクザンは嬉しそうに笑った。
そしてサカズキが食べ終わったのを見計らい、また差し出す。


「で、なんで気が変わったのよ」

「忘れた」

「何それ」

「ええから食わせんか」


そうごまかしてサカズキは次を催促する。
クザンは特に怒り出すこともなく、ただ幸せそうに笑ってまた差し出した。



自分の気を変わらせたのは内的な心変わりでもなければ、気の迷いでもない。
そう。目の前の男があまりにもおいしそうに食べるのだから、つい食べたくなってしまったのだ。
しかしそんなことを言うとまた変に誤解されて、恥ずかしいことを言われかねないので黙っておこう。
サカズキはそう心の中で誓いながら、結局うどんを全てたいらげてしまった。


愛の妙薬は食欲不振にも効きます。
※ただしこの二人の間に限る

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(11.03.20)




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