愛合い傘 / クザサカ
「雨か・・・」
サカズキがちょうど仕事から帰る時にそれは突然降ってきた。
それもそれはパラパラどころではなくザーザー降り始めて、最近は天気予報も当てにならないなと溜息を吐く。
今日は天気予報を信じてカサを持って来なかったのだ。
すると携帯用の小型電伝虫が突然サカズキのポケットで鳴り響く。
仕事が終わった今、かけてくる相手など沢山思い浮かぶだろうが、不思議とサカズキの頭には特定の人物が浮かんでいた。
そして出れば案の定。
『あ、もしもし?オレ、オレ』
電話の相手はクザンだった。
予想が当たって少し嬉しいような気持ちを抱きながら。
それでも声には出さないようにサカズキは適当に返事を返して用件を聞き出す。
「何じゃ」
『そっち雨降ってるでしょ』
「あぁ。降っとる」
『やっぱり?じゃあ迎えに行ってあげるよ』
「・・・・ええんか?」
『今どこにいんの?』
「本部の正面玄関前じゃけェ」
サカズキがそう言うとクザンは了解と返事をして電伝虫を切った。
それからハァっと溜息を吐く。
まさか迎えに来るという許可の電話だとは思わなかった。
クザンが迎えに来てくれる。
そんな事実がサカズキの心に染み渡り、やはり嬉しい気持ちが膨らんでいく。
それからしばらくして、道の向こうに一際目立つ青い人影が歩いてくるのが見えた。
どうやらカサを持っているらしい。
「あら。待った?」
「・・・・待っとらんわ」
一瞬その言葉で全てが見抜かれたような気がして、サカズキは慌てて言葉を付け足した。
きっと嬉しいだなんて言ったらからかわれるに決まっている。
「えー本当?顔が待ってましたみたいな顔になってるけど」
「じゃあかしいわい。カサは持ってきたんじゃろうな」
「それが・・・間違えて一本しか持って来なかったんだよね」
そんな都合のいい展開があるか。サカズキはそう思った。
しかし自分にとって不利な状態でもないので、あえて咎めずに溜息を吐いて流す。
それを肯定の意味と取ったのかクザンはサカズキの一歩前に出て、サカズキが入ってくるのを笑顔で待っている。
「貸せ」
「えっ・・・」
どうせ相合い傘でもしたかったのだろうが、そうは問屋が卸さない。
サカズキはクザンの手から無理矢理カサを奪った。
そしてそれを我が物顔で使い、さっさと歩いて行く。
「これはわしが遠慮なく使っていくけェの。お前は雨にでも濡れて帰れバカタレが」
「ひっでぇ!」
そんな横暴なことを言われ、クザンはそう嘆く。
思えばサカズキは未だに関係を隠そうと無駄な努力をしているのだ。
確かにこんな人目につくような場所で相合い傘など承諾するわけがない。
「じゃあ風邪ひいたらサカズキにうつしちゃうから」
「簡単にうつされてたまるか」
「言っておくけどオレはうつすの上手いよ」
ちょっかいでも出したいのだろうか。クザンはそう言いながらサカズキの横を濡れながらついていく。
しかしそれはうっとうしい。それにこんな状態の自分達をいつまでもお天道様お膝元に晒すのもしゃくだ。
何か言い返してやろうとサカズキは後ろを振り向いた。
その瞬間。
「んっ」
ちゅっと唇が鳴る音がして、サカズキの言いかけた言葉はいとも簡単にふさがれてしまった。
それがクザンの唇でだと知った刹那、サカズキの顔はまるで溶岩がごとく赤くなる。
「こうやって・・・・ね?」
「っ!・・・・とっとと入れ!」
「やった!」
これ以上の抵抗は危険だと判断したサカズキはついにカサの中に入ることを承知した。
やっと許可が下りたのがよほど嬉しかったのか、入った後もクザンはサカズキの肩を抱きよせる。
邪魔だ何だと言われながらも帰路につくサカズキの顔はさほど嫌そうには見えなかった。
いちゃらぶさせたかったんだね。リメイクです
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(11.02.28)