本当に出るんだよ / クザサカ
草木も眠る丑三つ時。
世界の最高戦力である三人の大将は暗い部屋の中で一本のろうそくを囲んで座っていた。
ゆらゆらとどこからか忍び込んだすきま風に揺れるろうそくが三人の顔にこの雰囲気にふさわしい陰影をもたらしている。
そう。これから三人がやろうとしているのはいわゆる怪談というものであった。
しかし。
「ちょっと本当にやめようよ。こういう話してると本当に出るんだよ?」
先ほどからクザンはそう一人反対していた。
どうやらクザンは怪談が苦手ならしい。
無論それを知らないわけではない二人だったが、もういい年だ。オバケだの幽霊だのもう信じてなどいないだろう。
そう高をくくった上での提案だったのだが、どうやらクザンは未だに信じているようで。
しかし、だからと言ってやめるほどこの二人も人間が出来ているわけではない。
「あれぇ〜・・・ひょっとしてクザン君・・・お化け信じてるのかぁい?」
「べ、別にそうじゃないけどさぁ・・・」
「じゃあいいじゃろ。読むぞ」
「えっ!」
いつもなら助け船の一つでも出してくれそうなサカズキの突き放したような発言にクザンはそう言って帰ろうと立ち上がった。
こんなもの聞いただけで明日の寝不足が決定してしまうようなものだ。
もう帰る、その発言に見合った行動を起こした瞬間だった。
ピカッと一瞬何かが光った。
それがボルサリーノで彼が何かをしでかすのだと判断した時にはすでに彼はクザンの隣りにいて。
「まぁせっかくサカズキが言ってくれてるんだしィ〜・・・・ねェ?」
そう暗闇の中光りながら笑顔で言うボルサリーノの声はクザンの身体を縛り付けたように動けなくさせ。
またその手もクザンの肩を強く掴んだまま離そうとしなかった。
◆◇◆
「分かったけェもう泣くな。バカタレが」
「泣いてない」
「じゃあ離れんか」
「それも嫌」
あれから何個か自慢の怪談を披露した二人だったがクザンが音を上げたために、怪談は中断。
そしてボルサリーノ帰った今、クザンは怖いだの何だの言ってサカズキの部屋にいた。
ベッドの端に腰を下ろしているサカズキを後ろから抱きしめるクザンは何度か鼻をすすっていて、いつもの立場は完全に逆転している。
「眠い」
「寝ろ」
「眠れない」
「じゃあ起きとれ」
サカズキはそう切り捨てた。
自分はもう寝たいのだ。こうも駄々をこねられていては困る。
確かに怖いと言うクザンに無理矢理聞かせたのは言うまでもなく自分達だが、ここまで怖がられるとはサカズキにとっては予想外だった。
存外面倒なことをしてしまったか、そう反省をしたサカズキはハァと溜息を一つ吐く。
「早よう寝ろ・・・・バカタレが」
「え?」
何だか聞き慣れた台詞の中に見慣れぬ気持ちがこもっていたような。
そう思い、顔を上げると突然サカズキの腕が伸びてきてクザンの首にそれが絡む。
ちょっとした息苦しさを感じつつも、サカズキの腕の力に身を任せてみれば自分の身体は簡単に横に倒れ、気がつけばサカズキに押し倒されていた。
「あらら、珍しい。添い寝してくれるわけだ」
「いつもそう喚いとろうが・・・・」
いつの間にか隣で布団に入って寝る準備に入っているサカズキを同じ体勢で見守りながら、そう聞くとサカズキはまぁ肯定的な言葉を残して枕に頭を乗せた。
そしてクザンの方を向く。
「じゃあついでにおやすみのチューも頼むよ」
「・・・・・チッ」
今日は随分ワガママを聞いてもらえる日だ。
サカズキはそう舌打ちをしたかと思うと、すっと目を閉じた。
それを確認してから、クザンはサカズキの唇にそっと口付けてみる。
頼んだのに自分からしてくれなかったのは残念だが断られるよりはましだ。
とりあえずいつもと違うサカズキに感謝の気持ちだけは込めて、いつもより深く強くキスをしてみる。
「んぐっ・・・・んんッ」
だんだん苦しくなってきたのかサカズキが身じろぎし始めたため、クザンはようやっと離した。
そしてその気になったのかサカズキの服の中に手を忍ばせながら、首筋に食らいつく。
くすぐったさにサカズキは身じろぎこそはするが、それ以上の抵抗はしない。
いつもよりしおらしいクザンを少し魅力的に感じたなど、口が裂けても言うものか。
そう心に誓いながら愛撫を受けている時、サカズキはある事に気づいた。
部屋の構造上、目をうっすらと開けるとクザンの後ろの方にある窓が見える。
そこに目をこらしてみると少し開いていて、その影に何かが見える。
それはどうやら人間の手のようだ。
「クザン・・・ッ」
「何?」
「窓に・・・・誰かおるけェ」
もしかして幽霊かもしれない。だから怖い、とは思わない。
ただサカズキの中で問題なのはそれが幽霊なのかどうかではなく、その人物が自分達の“これからすること”を見ているかどうかなのだ。
そんなサカズキの不安げな声にクザンは渋々窓に目をやった。
確かに間違いない。何か手のような物が窓のふちを握っている。
しかし。
「・・・それもまた一興ってやつじゃない?」
「はっ?」
先ほどのクザンなら幽霊か何かと思い、泣き出すぐらいはしただろう。
しかし今のクザンはそんな余裕な発言を出来るほどにその影に対し恐怖心を抱かなかった。
「幽霊に見られながらするのもいいじゃない」
「お、お前は・・・・何を言うちょるんじゃァ!大体幽霊の類は嫌いじゃなかったのか!」
「確かに怖いけど二人だからあんまり怖くないかなー?さぁ、始めましょーか」
「ちょっと待てェ!せめて二人ん時にィっ・・・・!」
幽霊だか何だか知らないがサカズキは人前で行為に及んで気持ちのいい気などしない。
むしろそれが海兵だった場合、職場で噂を流されてしまう可能性もあるわけだ。
そんなの勘弁してくれとサカズキが暴れると窓際で突然声がした。
「うぅぅっ・・・!」
それで二人は完全に静止した。
どうやら人であることは間違いないらしい。
しかしそれが二人に与えた恐怖は全く違った。
サカズキには人間である故の恐怖を、クザンには人間ではない故の恐怖を。
それからしばらくしてその手の主はついに身体を起こし窓から部屋の中へと入ってきた。
「ぎゃあああああ!!・・・・・・・・・ってあれ?」
思わず悲鳴をあげてしまったクザンだったが、すぐに気がついた。
それは幽霊にしては派手な頭で、白装束の代わりに可愛らしいカモメ柄のパジャマを着ていて、そして何より見慣れた顔であった。
「コビー君・・・・?」
「うぅっ・・・・・ガープ中将・・・・痛いですよ・・・・あれ?」
てっきり幽霊かと思われた手はコビーだった。
どうやら上の階から突然ガープに突き飛ばされて下にあるこの部屋の窓に掴まっていたらしい。
ようやく足を地に付けることが出来たコビーだったがさらにまた問題が発生した。
「あっ・・・あのっ!」
コビーが狼狽しているのでサカズキは一瞬なんの事だろうかと思った。
しかしすぐに自分達の体制を思い出しサカズキも狼狽する。
そうだ。自分は今クザンに抱かれんとしている体勢であるわけで。
もうごまかしなど聞かぬほどに服も乱されているのだ。
「いやっ・・・!これは違うんじゃ!」
「いえっ・・・あ、ぼっ僕は何も見ていなかったということでいいので!はい!すみませんでした!」
「誤解じゃァ!バカタレェ!」
一体何が誤解なのか説明出来る自信はサカズキにはなかったが
コビーは上司の言い訳を聞く前に焦って一礼し部屋を出て行ってしまった。
そして取り残されたサカズキを見てクザンはふっと笑う。
「じゃ・・・・じゃけェ言うたじゃないか・・・・っ!」
これが幽霊だったらどんなによかったか。
幽霊ならば言いふらせぬだろうが、人の口に戸は立てられない。
確かコビーは口が堅い方ではないと思うしそれに傍にはガープもいる。
きっとうっかり話してしまうことだってあるだろう。
「ちょ、ちょっと!待った!」
「くっ・・・・離せっ!あの海兵溶かして来ちゃるわいっ!!」
「行くんならオレのこのいきり立ったモン静めてから行けよ!」
「やかましいわっ!」
もうサカズキは完全にコビーを消し去るつもりでいるらしい。
そんな職務を逸脱した理由で消されては困ると、クザンは自分にも責任があることを忘れてサカズキを落ち着かせようと必死になっていた。
はいはいリメイクリメイク。
ちなみに豆助は怖い話まじで苦手です。
タイトルだけでおまたヒュンってなるレベル
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(11.02.24)