拍手ありがとうございます! お返事はmemoにて。 以下、おまけ小ネタ。 『ご結婚おめでとうございます』の一年後くらい。 *** いらっしゃいませ、と飛び交う店員の声に、三度榛名は面を上げた。 開いた自動ドアから吹き込む冴えた空気と、雪の匂い。そこに今度こそ目当ての姿を見つけて、思わず顔を綻ばせてしまう。 座った席から入り口の方へ、ひらりと手を振って見せると、こちらに気が付いたのだろう。スーツ姿の阿部が、器用にひととテーブルの合間を縫って、ゆっくりと近づいて来る。 「……やばい、外めっちゃ寒い」 「お疲れ〜。まだ外、雪降ってんの?」 「いや、多分もうやんでる……けど、スゲー寒いよ」 「マジか。多分まだ時間あるし、何か買ってくれば」 「そーする。何かあったかいの飲みたい」 「あ〜、中あったけぇ…」よっぽど寒気が堪えたのだろう、しみじみ呟くのに、笑ってしまう。 冬生まれのくせに、細身のせいか、阿部は結構な寒がりだ。 外したマフラーと、脱いだコートをイスの背もたれに引っ掛けて、財布だけを手にカウンターへと向かう背中を見送る。 注文を待つかたわら、メニュー表を見上げて腕を組み、やけに真剣な顔をしているその姿。赤らんだ鼻先と頬の色もあいまって、妙に幼く見えるその様相に、知らず胸が温まる。 たまにこうして、外で待ち合わせるのも悪くない。 「ー映画何時からだっけ」 「9時20分から」 「メシ食った?」 「まだ。お前来てからにすっかと思って」 「マジすか、腹減ったでしょ」 財布を脇に挟んで難儀しているらしい、戻って来た阿部の手からトレーを受け取り、それをテーブルに置く。 どうも、とバッグに財布を仕舞うのを待っていると、席におさまった途端、 「半分あげる。先に何か食ってきますか」 いきなり、ふたつに割ったスコーンのひとつを、皿ごと突き出されて「……あぁ」と思わず掠れた声が漏れた。 「なに」 それをおかしく思ったのか、割れたスコーンを齧りつつ、コーヒーを飲む阿部が、目の前で眉間にシワを作りながら笑っている。 「……別に、」 (ただ、) これ、オレの奥さんなんですよ。 いま、無性に誰かにそう言いたくて堪らなくなった。 |