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珍しく抱えていた案件が早めに片付いて、帰る間際にデスクの整理をしていると、ぽんぽんと肩を叩かれた。振り返るとそこには上司が立っていた。温和と有名な彼は今日もニコニコしていて、こちらの気まで緩んでしまう。こう見えて大事な商談や会議のときは鷹のごとく目を光らせるのだから怖い人だ。「青峰くん、ちょっと」呼び止められる。 「はい?どうしたんですか?」 「あー、突然で悪いんだけどこれ、貰ってくれない?」 「…なんスかこれ」 「ん?これ、貰っちゃったんだけど僕は使い道ないから」 「…え?パズル?」 「うん、青峰くん、こういうの好きそうかなって思ってね」 「冗談でしょう!ボクがこういうのやるように見えますか?」 「んー、…まあ、見えないけど決まっちゃったもんはしょうがない」 「は?」 「さっきねー、アミダで誰にあげるか決めたんだよ」 「…はあ?」 そう言って上司は自分の机を指さす。確かに線が何度も引かれたような紙が置いてあった。いやいや、意味がわからん。ていうか仕事はどうした仕事は。仕事しろ。上司は強引にその箱をオレに押しつけるとはっはっはと快活に笑いながら去っていった。オレは途方に暮れた。火神は腹を抱えて笑った。…隣で話を盗み聞きしていたらしい。死ね。 家に着くと槻が玄関に飛び出て来た。ここに来た当初からこれは変わっていない。犬っころみたいだ。「大輝、おかえり!」だからうるせーよ。槻はオレの脇に抱えられていたその箱に気づいたらしく、というかその箱の外側から中身が何かを理解したらしく、目を輝かせながら口を開いた。 「大輝!それ!なに!」 「…わかってんのに聞いてんじゃねえよ」 靴を脱いで、その箱を槻に押しつける。キッチンの方からいいにおいがした。今日の飯は何だろう。 ××× 「ねえねえねえ大輝ー!やろうよー!パズルやろうよー!」 「なんでそんな興奮してんだ…」 「え、だってこれパズルだよ?パズルなんて自分で買わないと絶対やんないじゃん?私、自分で作ったことなくって!友達の家で部屋に飾ってあるの見ていいなって思っててね」 「はあ?そんなら友達と作れよ。メンドクセー」 「家主ー!一緒にやるんだぜ」 「家主はお仕事で疲れてるんだぜ」 「毎日少しずつやったら三日くらいでできるって!」 「ヤダ。だりぃ。寝る」 「ええー?…じゃあいいし、部屋でやるし、貸せしー!大輝のいけずぅ」 「…」 「いいわよ、三日と言わずとも一日で作り上げちゃうんだから」 槻がしぶしぶと言った顔でそう言い捨て、パズルの箱を抱えて自分の部屋へ戻って行く。その後ろ姿を目で追う。パタンとリビングの扉が閉じられた。 ××× 数日後、いつのまにかパズルは完成したらしく丁寧に糊を塗られて固められ、槻の部屋の机の上に置いてあった。 さらに数日後、また貰っちまったと嘘をついて自らパズルを買ってきたオレを見た槻の顔が華やいだのは、また別の話だ。 |