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まだまだ夏が続く。つまり蒸し暑い。プラスアルファここは汗臭い。辺りはようやく暗くなってきたようだ。窓から四角く切り取られた景色は深い青が占めている。



アンチロマンチックド 08



私は体育館にいた。さっきまで図書室で一人黙々とこの前の模試の復習をしていて、時計を見てみると涼太と待ち合わせをしている時間をとうに過ぎていた。急いで携帯にかけるも涼太は電話には出ない。体育館の近くを通りかかるとダムダムダム、とボールが跳ねる音が聞こえた。バスケ部が残っているようだと思って、涼太の所在を聞くためにその入口へと近付いた。そおっと中をのぞく。ところがその必要はすぐに無くなってしまった。

中にいたのは、涼太だったからだ。

「涼太!」
「…あ、なまえさんだー」

勉強お疲れ様です、と涼太はにこりと笑った。その笑顔にどこか違和感を覚える。なんだかいつもより、綺麗すぎる気がするのだ。涼太は私といるとき、もっとくしゃくしゃの顔で笑うはずなのに。まるで誌面の中にいる彼を見ているようだ。

「ごめん、時計見てなくて、そんで、…なんで涼太はここにいるの?」
「ああ、さっき図書室覗いたんスけど、なまえさんまだ勉強してたから」
「何それ、声かけてくれればいいじゃん」
「いやあー、一生懸命してたんで、はは」
「…なんか、元気ない?」
「えー?そんなことないスよ」

変ななまえさん、とまた涼太は笑う。奥歯に物が挟まったみたいに気持ちが悪い感覚が私を襲う。涼太は持っていたボールを器用に弄び始めた。まるでボール自身が生きているみたいに涼太の体に纏わりつく。ほうっと、しばらくそれに見惚れてしまった。

「うわあ、すごいね涼太」
「…ねえ、なまえさん」


「なまえさんにとってオレってなに?」


「…は?何言ってんの、彼氏でしょ」
「そうじゃなくて…」
「…はあ?」
「…いや、もういいっス」
「は?何よどういうこと?」
「なんかもういいっス」
「なんかって何よ!はっきり言いなさいよお」


涼太は私からゆっくり目を逸らした。口元は真一文字に結ばれている。


「あの、言い忘れてたんスけど、オレ、明日から今日みたいに残って自主練するんでしばらく一緒に帰れないっス」
「はあ?なによ、それ」
「すいません」
「…いつまで?」
「大会が終わるまでっス」
「…」
「じゃあオレ、笠松先輩に呼ばれてるんで失礼するっス」
「はあ?笠松いんの?」
「あ、遅れなくてごめんっス、気をつけて帰ってね、なまえさん」
「ちょっと答えなさいよ!」
「なまえさんさよなら」


涼太の有無を言わさないその言葉に、私はうっと言葉につまる。そう言うと涼太は私の横を通り過ぎて、多分更衣室の方に歩いていった。私は振り返れない。がらんどうな体育館は主を失くして心細そうだ。蒸れるような匂いが充満している。ばちん、と更衣室へ続く道の電燈が消された。きっと涼太が消したのだろう。唾液がうまく飲み込めない。涼太は最後まで目を合わせなかった。今この瞬間にも大きな背中がぐんぐん遠ざかっていってる。私は一人ぽつんと残された。体育館内に長く伸びた自分の影がひどく情けなかった。