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「#エロ」のBL小説を読む
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なんでこんなことになっているのかはよくわからなくて、なんでこんなことになってしまったのかもよくわからなくて、目の前のことなのに映画とかドラマとかを見ているみたいだと思った。埃のにおいが、する。

「黄瀬くん、ねえ黄瀬くん」
「…怖い、っスか?」

小学生並みの向上心と中二並みの好奇心、それから少々の罪悪感で構成されたオレたちは現在後ろに向かって前進中。どうしても手に入らないものを望んで、そのなれの果てとしてはなかなか上出来だろう。程よく不幸で、残酷だ。まるで陳腐な映画のようなストーリー。オレは彼女が好きで、彼女はオレの友達のことが好きで、だけどそいつにはもう彼女がいて。まるで三流小説みたいじゃないか。しかしこのお話にはどうやらオチどころか起承転結すらないらしい。ミステリー小説みたいに早まって彼女がそいつを殺すこともないし、恋愛小説みたいに苦難の果てでそいつが彼女に振り向いてくれることもない。もちろん彼女がオレに振り向いてくれることも、多分。
暗闇の中でオレはなまえっちに覆いかぶさっていた。息遣いだけがやけに響く。

「…やっぱやめる?」
「…ううん、怖くないよ」
「…大丈夫っスか?」
「黄瀬くん、優しいから。私、ちゃんと知ってるから」

こんな状況なのに、彼女はいつもみたいに笑った。対してオレの心臓はもう死ぬ前みたいに早鐘を打っているというのに。でも死ぬ前って早鐘うつのか?ゆっくり遅くなっていくんじゃなかったか?ドラマや映画や小説だとそんな描写をされる気がする。ああおかしな話だ。自分たち人間のことなのに、そんな簡単なことすら知らない。オレたちの知識はいつだって外部から操作されて細工されて、だから全部ニセモノだ。
―――女の子の方が度胸ってあるのかもしれないっスねえ。


「ねえなまえっち、なまえっちはさあ…悪い女っスね」
「そうだね、でも…それは黄瀬くんもおんなじでしょ」
「こんなことしても無駄だってほんとは分かってるでしょ?」
「…うん、分かってる」
「…」
「…」
「…分かってるよ」

なまえっちはそう言って、それから頭をごろりと動かして横を向いた。制服がはだけて見える深い鎖骨の溝と少し痩せた胸がやけに色っぽい。赤いはずのリボンはかろうじてその形だけを確認できる。こんなことをしているのに色っぽいなんて言うのも変な話なんだけど。なまえっちは自分の髪をくるくる指にまきつけて遊んでいる。とても組み敷かれている女のすることではないなあと思った。


「ねえなまえっち、」


例えばだけど、本当に例えばの話なんだけどさあ。もしもオレがなまえっちのこと好きとかさ、言ったらどうする?いやあ本当にあくまで仮定の話だけれど。今更なに言ってんのと怒るだろうか。それともはなから信じてもらえないのだろうか。恨み言を言うようだけれどさあ、さっきやめるって聞いたときやめるっていってくれればよかったのに、そうしたらオレたちはもっとホンモノでいられたかもしれないのに。


「…どうしたの黄瀬くん?」
「ううん、…なんでもねえっス」


こんなはずじゃなかったのに、こんなはずじゃなかったのに。頭の中でもう一人のオレが泣きそうな顔でそう呟いている。とかえらく小説みたいなことをいってみたりするけれど現実にはオレは一人しかいないわけで、じゃあ頭の中のオレはやっぱりニセモノなわけで。ああもうオレのニセモノはいつもオレに付き纏う。まるで夢の中にいるみたいにゆらゆらと視界が揺れていた。なのに目の前の現実はオレにはまったく優しくない。なまえっちの息遣いだけがやけにリアルだ。ようやくオレは思い知る。世界は絵本みたいに優しく出来てなくて、最初から決まっているみたいにそこらじゅうに不幸せは落ちているんだと。ニセモノだらけの世界に、ようこそ!このまま放送時間が終わってカラーコードが降りてきても、このごっこ遊びは終わらない、終わらせられない。ニセモノなのにホンモノよりリアルなんて可笑しな話だ。笑えないけれど。
どちらにせよもう誰も幸せになれないことはよく分かってる。オレが君を、幸せにしてあげられないことも。


オレたちはホンモノにはなれないことも。





贋作





本物は、どおれ?
(120614)