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生まれたときから一緒に暮らしてたら家族で、一緒に遊んだら友達で手をつないだら彼氏彼女でキスしてセックスしたら恋人で?結婚したら夫婦で子供ができらたら親になって、それなら孫ができたらお祖母ちゃんってこと?ううん、そんなこと想像できない。私はまだ痛いことも辛いことも全然知らない子供だ。最近の悲しいことと言えば珍しくすっごく頑張って勉強した数学の小テストの範囲が間違っていたこと。友達に馬鹿だねって笑われて、もちろん結果は惨敗だった。我ながら不甲斐なさすぎる。

だから私はまだ何も知らない。痛いことも辛いことも、悲しいことだって本当はまだ何も知りたくない。


「風つよー!」
「おー、なまえっち、パンツ見えそうっスよ!」
「黄瀬は死にたいんだね」
「そんなことないっスよ!冗談じゃん!」


屋上には私たちしかいない。それもそのはず、今は五時間目だからです。今日二回目の数学の授業はサボタージュさせていただきました、ごめんなさい先生。私の心は午前中の失敗で折れてしまいました。だから、黄瀬を誘って屋上にやってきたのだ。今日も天気がいい。この瞬間にもきっと紫外線が私の肌をじりじり焼いている。


「あー焼けるー」
「なまえっちって結構色黒いっスよね」
「おい喧嘩売ってんのか!」
「いやあ、オレの思う女の子って色白で髪の毛ふわふわで〜って感じなんで」
「全然フォローになってないからね、それ」
「まあいいじゃん!それがなまえっちのいいところっスよお」


そう言って笑う黄瀬を傍目に、剥き出しになった自分の腕を見つめる。確かに、控えめに見積もっても白くはない。熱心に日焼け止めを塗っている友達の横で、私はというと下敷きでパタパタとスカートの中を仰いでいるのだから仕方ないといえば仕方ないのだけれど。


「はーあ、萎える」
「どうしたんスか?」
「今日さー数学の小テスト勉強したのにさあー、」
「ああ、朝自慢してたっスね」
「範囲、間違っててさ。パア」
「うわあ、なまえっちらしい…」
「せえっかくやる気出して勉強したってのに…ないわー」
「ドンマイなまえっち」


黄瀬が困ったように笑う。さすがモデルだ、今日も無駄に顔が綺麗ですこと。


「顔だけだとイケメンなのにね、黄瀬はなあんか残念だよねえ」
「なにそれ、ひどいって!」
「あーあ、イケメンの彼氏欲しい!」
「はー?オレ目の前にしてそんなこと言う?」
「黄瀬が黄瀬の顔で黄瀬じゃなかったらよかったのに」
「マジひでえっス」
「…でもさあ、私たちの関係って、名付けるとしたらなんなんだろ」
「うーん…友達?」
「なんかこう、背中がムズってするね、それ」
「じゃあ恋人っスね」
「ねーよ」
「即答っスか…うーん、じゃあ…」

黄瀬の顔を覗き込む。黄瀬は不思議そうな顔をして考えるように空を仰いだ。手すりを持った手を支えにして、体をぐーっと後ろに逸らす。あ、影が違う生き物みたい。


「わかんねっス」
「…なんだそれ」


予想外の返答が返ってきて肩の力が抜ける。風は相変わらず強い。黄瀬の金色のさらさらした髪が揺れる。影もゆらゆら揺れていて、なんだか不気味だなあと思った。真昼の太陽は高くて、熱くて、ひりひり痛い。私たちの未完成な部分をじりじり焼き付ける。知ったような口をきいても大人ぶっても私たち、まだまだなんにもわからない幼子なのだ。



「まあ、いいんじゃないスか。名前のない関係っていうのもウツクシイかもよ」



黄瀬がにかっと笑う。金色が、私の視界を攫ってく。美しいなんて言いなれてないのがバレバレなのに、ありきたりでクサいのにどうしてだろう、やけに心地いい。




ムレス
nameless





名前よりも大切な気がしたんだ
(120611)