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不器用と言ってしまえば聞こえはいいかもしれないけれど、それってただ単に努力不足なだけなんじゃないだろうか、と私は常々思う。だからって頑張らないでいい理由になんてならないし、ましてや頑張る人を嘲っていい理由にもならない。

「緑間くん、課題出してよ」
「あ?ああ、忘れていたのだよ。すまない」
「相変わらず変なとこ抜けてるよね」
「うるさい、余計なお世話だ」

緑間くんは天才、らしい。うちの時代は男子バスケ部が強いらしくて、なんでも「キセキの世代」とか呼ばれてるとかなんとか。情報通の友達が目を輝かせて言っていた。その中で緑間くんは3Pシューター?とかいうやつで、まあとにかく百発百中なのだとか。

「悪かった」
「はーい、確かに預かりました」

そんな「天才」緑間くんと私が何故話をするようになったかというと切欠はあまり思い出したくない。有体に言えば、あの日の私は死にたかった。

「…誰かいるのか?」
「いません」
「意味が分からないのだよ…いるじゃないか」
「いません」
「何をしているのだよ」
「こっちに来ないでください」
「…みょうじ?泣いているのか?」
「…緑間くんは無神経だね」

その日、私は半年と16日つきあった彼氏に振られた。自分なりに不安だったけど一生懸命頑張って尽くしていたつもりだった。だけど、そう思っていたのはどうやら私だけだったらしい。ごめん好きな人できた。そう、静かな声で言われたときはガツーンと、頭を鈍器で殴られたような気がした。
真っ暗な教室で、電気もつけずに机と机の間に潜って泣いた。止めよう止めようとしても涙は止まらなくて笑えた。もういいやと思い気が紛れるまで涙腺を止めることを放棄しているところに、緑間くんがやってきた。その顔は汗だくで、うっすらと蒸れた香りがした。

「…振られたんだよ」
「みょうじは彼氏がいたのか」
「…失礼じゃない?まあ、もういないけど」
「…ご愁傷様だな」
「緑間くんがいうと馬鹿にしてるみたいに聞こえるね」
「お前の方が失礼なのだよ」

その言葉に私が笑って、だけど緑間くんは笑わなかった。

「俺は…俺には、よくわからないのだよ」
「…どういうこと?」
「大体、他人のことで一喜一憂するなんてそれこそ馬鹿らしいことに思える。オレにはそんなことに神経を使えるほど余裕がないのだよ」
「…」
「なんというか…熱心なことだな」

緑間くんは唇の端を釣り上げて笑った。皮肉な笑みだった。緑間くんは不器用な人なんだな、とそれまでその程度の認識しかなかったけれど、その瞬間ああこいつダメだ、と脳味噌がアップデートされてしまった。誰かを好きになったこともないくせに、好きになる努力もしてないくせに、何をいっているのだろうと。
緑間くんは眼鏡のブリッジに手をかけ、それからまたニヤリと笑った。やけに風が冷たい日だった。濡れた頬はいつの間にか乾いて表情を変えようとする私の顔を引きつらせた。


そんな緑間くんが最近おかしい。なんだか挙動不審なのだ。しかも、ある条件がそろったときだけ。そこには同じクラスの、あんまり仲良くない女の子の存在がかかせないわけで。つまり、それって、

「なんだか最近、緑間くん変じゃない?」
「何を言ってるんだ?」
「…急に心拍数上がったりしない?」
「なんでわかるんだ」
「動悸がしたりとか、目の前がちかちかしたりとか」
「ああ、まあ、そんなこともあるかもしれないな」
「…ふうん」
「なんなんだ急に。わけがわからん」


ねえ緑間くん、気づいてる?それがあんたが散々馬鹿にしていた、「恋」するってことよ。あなたに嘲笑されたあの日から私があなたに焦がれるほどしていたそれのこと。緑間くんはまるで幼子のよう。何も知らない、わからない小さな子供のようで、だから愚かで愛しい。きっとあなたの首を捻るのは容易いね。残念、 でもまだ、教えてあーげない。自分で気付くまではね。せいぜい頑張って、なあんちゃって。ああ馬鹿らしい。


「…ムカつく」


私は中庭のベンチに座っていた。むしゃくしゃして野菜ジュースのパックをぐちゃりと潰してゴミ箱に放り投げた。歪な放物線を描いたそれはがんとゴミ箱の縁に当たって地面に落ちた。もし彼なら、天才の緑間くんならこんなのも容易く入れてしまうのかなと思ったら余計にむしゃくしゃした。ぐいと体をベンチに傾けて空を仰ぐ。まったく、不気味なくらい真っ赤な空だ。






















赤子のような緑間。
(120611)