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『〜下校の時間になりました。校内に残っている生徒は速やかに下校してください〜』
お馴染みの下校の放送と、聞きなれた音楽。この音楽を聞くといつも寂しくなってしまうのは、どうしてなのだろう。緩やかに流れるのは、風とオレンジの雲たち。あたしの少し傷んだ茶色の髪は、窓から入ってくる風でふんわり揺れた。西日の入る三階の教室で、あたしは音楽に耳を貸したまま、でも動く素振りは見せずにただ、窓の外の景色を見ていた。ああなんて、泣きたくなるような空の色、

フラれた、ってやつなのだろう、おそらくこれは、世に言われる。自分のことなのに、まるで他人事のように思える。まだあたしには実感が湧いていないのだろうなあ、きっと。少しずつ夜が深まる。オレンジの空が黒に侵食されていく。ゆっくり死滅するはずのこの気持ちは、一体いつになったら消えるのだろう。視界を覆うために、目を瞑った。ごめんな、と、柄にもなく真摯に謝る花井の姿が脳裏に浮かぶ。そんな顔をしてほしかったわけではなかったのに。好きな人がいるんだ、と、彼は小さな声でそう続けた。そっか頑張ってね、そう呟いて笑ったあたしはちゃんと、いつものあたしを作れていたのだろうか。風はやんわりと通りすぎていく。あたしは頬杖をついたまま目を開いた。不思議にも涙は流れなかった。あんなにも大好きだったのに。まだこんなにも、大好きなのに。花井は顔を真っ赤にして、それからやけに大きい、少し震えた声で「みょうじ、あの、あ、ありがとう!!」といった。真っ直ぐすぎて嫌になっちゃう。だけどそういうところも、きっと好きだったのに。


「すきなのになあ、」


「…すきなのになあ、」


好きなのに、ううん好きだからうまくいかないことのほうが多いんだなと、漠然とそう思った。思っただけのはずだったのに、遅すぎる涙腺機能の回復によりあたしはようやくビロードの空を曇らせる塩からいそれを流すのだった。ああ、あのときこんな風に泣いておけば、花井は笑ってくれたのかなあ。



きみのしあわせになりたいよ


花井があたしのしあわせになれないように、あたしはもうこれから先永遠に花井のしあわせにはなることはできなくて、彼のしあわせは可愛い可愛いあの子にしかなりえないのだろう。あーあ、こんなに好きなのに、馬鹿みたい。悪態をつくつもりで顔を歪ませたら涙がぽろり、机の上に落ちてはじけた。

(080705)
(110118 加筆修正 再録)