「次の時間、抜け出さないっスか?」 「は?」 理由なんて特にないんだ。窓から見える空がやけに青かったから、とでも言っておこうか。隣の席に座るみょうじっちにそう言うと、まぬけな顔でそう返された。 「なんか天気いいんで、どっか行こーよ」 「はーやだよめんどくさい」 「だって体育っスよ?別に出なくていいじゃん、暑いしかったるいし」 「おいバスケ部、それを言うなそれを」 授業が終わる十分前、数学の先生がたらたらと板書をする中で、窓際の一番後ろの特等席に並ぶオレたちはそんなことをごにょごにょと話す。みょうじっちはめんどくさそうに視線をずらし、窓の外を見つめた。暑いのか、肌に張り付いた髪の毛をかきあげる。急に顔を出す白いうなじから目が離せない。 「うーん、じゃあ、サーティワン行こーよ」 「えー」 「奢る」 「よしきた。行こうか」 「ちょろいっスね相変わらず…」 「うるさいわねー」 「詐欺とかにすぐ遭いそうだよね、みょうじっちって」 「ちょっとディスってんなし」 「ディスってねーし」 きーんこーんかーんこーん、チャイムが鳴った。ようしここまでと言って、それから宿題出せよと付け足して、先生は教室から出ていく。みんな着替えに行くために移動するので、ガタガタと椅子を引く音が一斉に鳴り響いた。それに混じってオレ達もそそくさと立ち上がる。もちろん手に体操着など、もっていない。 「黄瀬ー!もっと加速してー!」 キャハハ、とオレより1オクターブ高い笑い声がする。身長差的に耳元で聞こえないのが少し悲しいが、ガタガタ揺れる荷台からはガタガタ揺れる彼女の声がした。 「もう精一杯っスよー!」 「いやー諦めんなーもっと行けるはずだー」 「適当っスよねそれ!?」 しかし本当に天気がいい。見晴らしのいい河原沿いの道を走っているからか、前方はどこまでも青だった。雲一つない。切り裂いたような青空とはこのことをいうのだろう。 サーティーワンは学校から少し離れた大型ショッピングモールの中にある。今日は何を食べようかと思案を巡らせながら後ろに話しかける。 「みょうじっちー!アイスなに乗っけんのー?」 「うーんとりあえずポッピングシャワーは鉄板っしょ!」 「オレチョコミントー」 「うげっ、あれ歯磨き粉じゃん。黄瀬趣味ワルー」 「おいしいっスよ!みょうじっちも食べてみたら分かるって!」 「えー…あとラムレーズンかな」 「えっ、なにそれ!オレ食べたことねっス!」 「ふふん、ちょっとあげてあげてもいいわよ」 「マジっすか!あざーす!」 本当はレーズン嫌いだけど、ね。だけどみょうじっちがくれるというならそれは言わない約束だ。オレはキャラメルリボンも好きなんだけど、そんなかわいいものを好きだなんて知ったら彼女は引いてしまうのではないだろうか。今日は食べるの止めておこう。オレってなんて、恋する男子。 「あーすごくカップルっぽいのに!なんで黄瀬がそこなんだよお」 「そんなこと言われたってねえ」 「空気よんで笠松先輩に変わってよ」 「無茶言わないでほしいっス」 「黄瀬とー笠松先輩をー!ちぇーんっじ!」 「なんスかそれ」 「え?呪文」 ああ愛すべき無神経。汗だくでチャリを漕ぐオレと、真夏の高い太陽と涼しい顔で魔法をかける君。オレの世界は今日も平和で、そこそこカオスで、最高にシュールだ。 シュー ル レ ア リスム 黄瀬のアイスの趣味とかすべて適当です。 (120609) |