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青峰大輝ほど不遜な人間を、私は未だかつて見たことがない。誰だってそうだ。そのやけに浅黒い肌も、切れ長の目も、不自然に歪む唇の端も他人の目には総じて恐怖の一部として映る。恐怖することはできてもきっと彼は理解しようとはしてもらえない。そりゃそうだ。だから青峰大輝はいつだって孤独だ。
その大きな手が、私の頭をくしゃくしゃにかき回すことや、唇が意外と柔らかいことなんて、その瞳の奥の輝きなんて、だから私以外誰も知らない。

「なまえー疲れた。暑ィ。ドリンク寄越せ」
「ふざけんなっつーの、それくらい自分で用意しなさいよ」
「うっわ嘘だろ…使えねー」
「何当然のように言ってんのよ!そんなに横暴なのあんたくらいよ!」
「カノジョだろそれくらいしろよ」
「私はあんたの彼女である前にこのバスケ部のマネージャーよ」
「…チッ」
「ふふん」
「貧乳」
「うるさいガングロ」
「…あーくそっダリイ!」
「ちょっと、どこ行くのよ!」
「っせーな、自販だよ。ジュース買ってくる」

そう言って青峰大輝はスタスタと歩いて行く。短く刈られた後ろ髪から終始ポタポタと汗が垂れて、地面に点々と染みを作っていく。注意しようと口を開けると、ようやく体育館の中から黄瀬や緑間なんかが出てくる。「あっついっスね!あ、なまえっちお疲れ様っス!」「水分補給は大事なのだよ」分かっていますとも。そういいながら、巨人どもは散り散りになっていく。

「あれ?青峰っちはどこっス?」
「あー、先行っちゃったよ。自販いくっつってた」
「まーた逃げる気っスか!おーい青峰っちー!1on1しよーよ!」
「ここからじゃ聞こえるわけないのだよ」

黄瀬が負けじと、駆け出す。きっと自動販売機に向かったのだろう。それを見ていた緑間は呆れたようにそう呟いた。本当に元気だなあ。実に暑苦しい。そう思っていると緑間は振り返り、私の目をじいっと見つめた。

「…青峰は、難しい」
「どうしたの?急に?」
「オレにもあいつはよくわからないのだよ」

「ちゃんと理解してあげられるのは、きっとお前くらいだな」

緑間はそれだけ言うと無言になって、タオルで静かに顔の汗をぬぐった。持参していたのだろうスポーツ飲料のボトルを口にくわえ、ゆっくりと飲み始める。嚥下するとき、その喉元が大きく震えたのが分かった。そうして、再び熱気が残るコートに戻っていった。シューティングの練習をすることは今までの彼を見ていた人ならわかりきったことだ。


緑間が言った言葉を、私もゆっくり、時間をかけて嚥下する。女の私には彼らみたいに喉仏がついてはいないから、わからないように飲み込んだ。
大声で笑い出しそうになってしまうのを、ぐっとこらえる。


「何を言ってるのよ、緑間」


ねえ青峰大輝。ずっとそうやって、誰にも理解されずにいてね。ずっと一人で、ずうっと独りで、そうやって笑っていて。そうしてくれるなら、私は多分ずっとここにいることができるから。いっとう明るく輝く明るい星を、きっと周りの星は疎ましく思うのだろうけれど、そんなの知ったことか。でもねぇ知ってた?星が一番輝くときは、その命を終えるときなんだって。もしあんたがバスケット選手としてのその命を終えたその時は、流れ星みたいに私の手元に落ちてきてくれるのかしら。ああでもダメね。そんなの全然ダメ、なっちゃいない。いつまでも空の上の、一番上にいて。私はずっと、ここからあんたを見てるから。


かわいそうかわいそう、だからひときわ輝くんだって、私、知ってる。










アリア




(120609)