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天気は快晴、視界は良好。上を見上げると少数派の雲たちがだらだらと右から左に流れていく。汗で肌に張り付いた服と、それからつうと顔の横を流れていく汗本体が憎い。スポーツドリンクの入ったボトルを口だけでくわえた。


「黄瀬くーん!」


すると、後ろから愛しい愛しいあの子の声。たたたた、と駆けるような音がして、ゆっくり振り返るとそこには予想通りあの子がたってたりして。

「どうしたんっスかなまえっち」
「黒子くん知らない?」
「黒子っちスか?」
「うん。さっきの練習であの子膝すりむいたから治療しようと思ったら、」
「思ったら?
「…消えてたの」
「…どんまいっス」

彼女はがくっと大げさに肩を落とした。黒子っちはただでさえ影が薄いんだから、ちゃんと見張ってなきゃだめだよ。ねえなまえっち。

「まあそんなことより、ねえなまえっち」
「ん?なあに?」
「まだ黒子っちのこと、好きなの?」
「っな、何言ってんの!好きとかそんなこと言ってないし!」
「中二男子の言い訳っスか」
「べべべ別に!本当のこと言ってるだけだもん!」
「はぁー、桃っちもなまえっちもわけわかんないっス。近くにこんなイケメンがいるっていうのになあ」
「黄瀬くんは、カッコいいと思うよ!」

ふうん、じゃあ、俺を好きになってよ。そう言ったら目の前のこの子はどんな顔をするだろうなあ、とぼんやりと思った。顔を赤らめて漫画みたいにわたわた慌てるなまえっちは、そんなこと言ったって俺のことなんか見てくれない。一際強い風が乱暴に彼女の髪を攫った。

「あっち行ったスよ」
「へ?」
「黒子っち」
「…え、やっぱり通ったの!?」

もっと早く言ってよ!となまえっちは少し怒った顔をして言った。

「ごめんごめん、なまえっちが可愛くてつい」
「何言ってんの!もう、黄瀬くんなんか知らない!」

そう言うと彼女は踵を返し、俺が指差した方向に走って行った。と、ちょっと行ったところで
急に立ち止まってこちらに振り向く。

「ありがとー!」

そう叫んで、また走って行った。恋する女の子と戦車は同じくらいの勢いがあるなあ。とそこまで思って、自分でその考えに軽く引いた。戦車って。そんなの向かってこられたら男の方は死んじゃうんじゃないだろうか。
だけどきっともうしばらく彼女と黒子っちは出会えない。俺が教えた、黒子っちが行ったのとは逆の方向へと走る彼女の後ろ姿はもう随分小さくなっていた。その間に黒子っちの膝を流れる血は赤血球?あと白血球や血小板なんかがせっせと働いて乾いてしまうだろうなあ。ああ、人体の不思議万歳!

そうやって彼女の思いも乾いて、そんで、こっちを向いてくれればいいのに。いっそオレのために血を流してくれればいいのに。ああ、報われない恋ってやつをしてる。ひどく青春だ。







子が
しい







黄瀬がわりと最低なお話
(120608)