※木吉についてのネタバレあり。注意 鉄平の膝がもう随分と悪いんだってことは、薄々とかそんな謙遜じみたことを言うまでもなくはっきりと気付いていた。ただ、日向君たちとバスケをするために、それだけのために大好きなバスケを一年間も我慢していた鉄平に、神様だって何か一つくらいご褒美をくれるだろうと思った。だからやっと退院して試合に出て、そして勝って嬉しそうな顔をする鉄平に今更「バスケをやめろ」なんて、言えるわけもなかったのだ。 「もう、これで最後なんだ」 例えば今、鉄平が立つあのコートに隕石が落ちてしまえば。彼はバスケをやめるだろうか。 「私、頑張れって言ったよね」 「うん」 「でも、それってこういう意味で言ったんじゃないよ」 「うん」 「今回が最後って、どういうこと」 「うん」 「うんじゃないよ、どういうことって聞いてんの」 「…ごめん」 「これじゃなんの意味もないじゃない」 「…ごめん」 「わかってるの!?」 私がそう叫ぶと、鉄平はゆっくりと私に視線を合わせた。その強い瞳は、いつだって嘘をついたりしない。 「でも俺、やっぱりここだけは譲れないんだ」 「でも、」 「ごめんな、なまえ」 「でも、!」 「見ててくれないか。そんで、できれば応援しててくれ」 「…」 「大丈夫だよ」 「…馬鹿じゃないの」 「…」 「馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの、馬鹿みたい」 「…うん」 言った端からぼろぼろと涙が溢れてきて困惑した。カーディガンの袖でごしごしと目を擦る。涙は紺色の布に吸い込まれて消えた。握りしめすぎた拳の中で爪が食い込んで痛い。 いっそ、鉄平が立つあのコートに隕石でも落ちてしまえばいいのに。そう願えるほど、彼の身を一心に案じてあげられればいいのに。それもできない私は宙ぶらりんで不安定で、だから鉄平がいないと上手に立つこともできない。 「大丈夫だよ」 鉄平はもう一回そう呟いて私を強く引き寄せる。大丈夫なんかじゃ、ないくせに。 ア バン チュール 終焉 (120607) |