どんなに叫んでも喚いても懇願したとしても、もう過去は戻ってこない。毎日笑って、時には悩みながら過ごしていた部活とか、楽しかった文化祭、喉を枯らした体育祭なんかも、二度と、もう二度と戻ってこない。 君が私のことを好きだと言ってくれたことも、隣で笑ってくれていたことも、少し照れたように繋いだ手の温度も、全部。 「おめでとー!!」 「卒業いやだあ」 「後期組は後期もがんばろうねっ」 「みんな大好き!!」 「東京でも元気でやんなよね!!」 「絶対帰ってくるからねえ!!」 「あっ、ねえっ写真撮ろうよ、みんなで」 「とるとるー」 「じゃあ並んでーあっもっと寄って寄って、」 「えーなまえも入ろうよ!!ね、高瀬くーん、写真撮ってくれない?」 でも好きだったなあ、多分本当に。あたしは幼かったけど、幼いなりに精一杯彼のことを好きだったし、愛していた。「おっけー、はいっチーズっ」パシャッ、準太がそういってフラッシュが光る。「ありがとー、助かったー」「このあとどこいく?」「どうしようかなあ」散り散りになったみんなを横目に、あたしは高瀬のところにカメラを取りにいった。 「ありがとー、助かったよ」 「ああ」 「…」 「…進学、東京なんだな」 「うん、…高瀬は地元だったよね?」 「そうだよ、」 「お互い合格おめでとう。」 「ああ…なまえ…みょうじ、進路、変えたんだな」 「…」 「…あ、なんかごめん」 「ううん、ていうかね、やりたいこと、見つけたんだ」 「そっか、よかったじゃん」 「…もうみんな、滅多に会えなくなっちゃうね」 「卒業だしなー」 「さみしいなあー」 「ほんとだな、さみしい」 「…」 「…」 「ねえ高瀬、」 「…?なに、」 「好きになってくれてありがとね」 「…」 「…」 「楽しかったよ、いろいろ」 「俺こそ、…ありがとう」「うん、…ばいばい、準太」 「…またな、なまえ」 多分本当に、愛してた。ねえ覚えてる?二人乗りで坂道を下ったこと、第二ボタンをくれるといったこと、寒い寒いと言ったあたしに貸してくれたチェックのマフラー、喧嘩して、電話口で二人ともわんわん泣いた日があったね、帰り道に見上げた空はびっくりするくらい赤かった。ずっと一緒に笑っていられたら、なんて、柄にもなく本気で願っていたよ。 もう準太といたことは過去だし、私の隣は今でもまだ空っぽ。だけどあのとき幸せだった。それは本当のことだから、例え色褪せて白黒になっても消えないから。煩わしい女だと罵ってくれても構わない、でもありがとう。 「さよなら、」 彼の後ろ姿にもう一度小さくそう言って、私はクラスの喧騒に戻っていく。変わらないものなんかなかった。あの頃信じていた永遠なんてものも、なかった。幼すぎた私の恋が、ようやく終わったのだと、みんなと笑う片隅で、そう理解した。 こ の 星 は あ な た に 返 す たくさんの後悔と優しい想い出を抱えて、あたしは生きていく。多分もうそれだけで、生きていける。 (090920) (110118 再録) |