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夏休みは楽しかった。野球部の練習は忙しかったけど、それでもなんとか合間を縫って花火をしたり祭りに行ったり、公園でだらだら話したりできた。時には阿部の彼女のあの子も混ざって、四人で遊んだりもした。マナは相変わらず野球部に負けないくらい忙しかったけどそれでも一緒にランチをしたり映画を見に行くくらいはできた。私は結局バイトに精を出すことになったわけだけれど。夏休みの最後は野球部の勉強会に呼ばれて宿題を教える羽目になったりしたが、それでも結構楽しかった。いつも応援来てくれてたよな!と田島君が言ってくれたことが少しうれしかった。それがなんとか終わって、へろへろの体を引きずりながら私たちはいつも行く公園にいた。

「あー、夏休みも終わりかー」
「早かったねえ」
「変だよなあ、来年の今頃は球児じゃないとかビビる」
「はー?国体があるだろお」
「俺、大学受験するからなあ」

秋まで野球、できっかなあと珍しく不安そうに阿部がそう零した。水谷と私はびっくりして目を合わせる。そりゃ私と水谷だってきっと受験はするだろうけど、阿部は夏から勉強しなくちゃいけないくらいのレベルのところを狙っているということだ。

「…意外だね」
「何が」
「阿部といえば野球じゃんか。だから、将来とか大学とか考えずに野球ばっかりしてるもんだと」
「みょうじって俺のことなんだと思ってンの?」
「え、野球馬鹿でしょ」
「ふははっ、みょうじ最高っ」
「ったく、どーゆうことだよ。…もう高2だしな。そろそろ将来のことも考えださねーと」
「…」
「俺だって、一生野球できるわけじゃねェしな」
「阿部ー、俺、行ける大学あるかな…」
「ないんじゃねえ?」
「ひっでー、でも、やっぱり?」
「くくっ、まあ、それでも」

あと一年は本気で野球するけど!っとそう言ってからジャングルジムの中段くらいから飛び降りた。夜の公園はもちろんだけど、私たち以外誰もいない。私と水谷はまだジャングルジムに上ったまま。阿部はジュース買ってくる、とだけ言って公園の隅の自動販売機のほうへ歩いて行った。阿部の影が自動販売機のあかりで長く伸びている。


「…まっじで意外だなあ、阿部」
「…」
「…みょうじ?」
「なんでもない」


夏の終わり、阿部は一人で大人になろうとしていた。